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小説 小説らしきもの

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基本 短いです。 長いのは一本だけ……
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【短編小説】宵待草

【短編小説】宵待草

 あらすじ
 上野の美術館で「夢二展」を見た帰り、奇妙な風体の老人に声を掛けられる。老体の身に学生服という、突飛な出で立ちであった。
 つい先には、なんともレトロなセーラー服姿の美少女が人待ち顔にあたりを窺っている。デートなんですよ……と老人に言われ、問い質すところ……時は昭和の三十年代の悲恋物語に遡り……

   

     宵待草

 土曜日の昼下がり、上野公園はうっとうしい位の人ごみであっ

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【短編小説】黄色い折り鶴に乗って(改訂版)

【短編小説】黄色い折り鶴に乗って(改訂版)

 

 夢には二つの意味がある。一つは夜に見る夢、二つ目は願望としての夢だ。しかし、夢にはもう一つの世界があると、東吉は今でも信じている。 中学三年の、一学期のことだ。通学途中に、「巫山莊(ふざんそう)」という年代物のアパートがあって、どことなく大好きな江戸川乱歩の小説にでも出てきそうな雰囲気が気に入っていた。写真家の父上の影響もあって、東吉は学校では写真部に属し、特に昭和レトロの世界をモチーフと

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【短編小説】吸血鬼との深夜の対談(改訂版)

【短編小説】吸血鬼との深夜の対談(改訂版)

 
 

 深夜の公園は、吸い取り紙を押し当てたみたいに、ひっそりと静まり返った。
恵太は自転車を降り、タバコに火を点ける。昨今、昼間の時間帯なら非難されかねないが、真夜中の一時過ぎとあれば、許してもらえるだろう。

 そう。不意に目が覚めたのだ。この所、訳も無くこの時間帯に目が覚める。普段なら、ウイスキーのダブルをストレートのまま呷って、再び布団に潜り込む手順ながら、バイトの定休日とあって、ふと

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【短編小説】ルリ子さんの肖像(改訂版)

【短編小説】ルリ子さんの肖像(改訂版)

 

「高藤君、ルリ子とデートしてくれませんか?

 美術教師の石井先生からかく言われた時、高藤信也も言葉に詰まってしまった。と言うのも、当のルリ子さんというのが、つい目の前の、十号ほどの肖像画だったからだ。

         ※

 T高校に入学すると同時、信也は即刻「美術部」に入部を決めた。勧誘を受けたわけではなく、元来絵は好きだったこともあったが、部室の隅で美術担当の石井先生が描いていた肖

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【短編小説】あの日見上げた空を僕は忘れない(改訂版)

【短編小説】あの日見上げた空を僕は忘れない(改訂版)

 

 高校三年の春のことだ。買ってもらったばかりのロードバイクに乗って、あてずっぽうに走り回っていたいた時……倫吉はふと、懐かしいけしきに出くわした。

「わすれなぐさ幼稚園」

 そう。倫吉がかって通園していた幼稚園であった。自宅からそれほど隔たってはいないのだけれど、思えばこの方面に足を向けたことはめったにない。

 倫吉はバイクを止め、しばし正門から園内を覗き込んでみる。休日とあって園

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【短編小説】紙ヒコーキの運んでくれた恋(改訂版)

【短編小説】紙ヒコーキの運んでくれた恋(改訂版)

 

 久しぶりに自室二階の窓を全開にすると、生暖かい春風が無邪気に流れ込み、淀んでいた冬の名残を蹴散らすかのようであった。
 売れない密室の作家。つい気取って突っ張ってはみても、この所、さっぱりアイデアが浮かばない。お袋には散々嫌みを言われるし、若干とはいえその庇護を受けている甘ったれの身も、三十歳を過ぎたとあれば、そろそろ人生との折合いをつける潮時かも知れないのだ。

 井上涼太は、自分の名前

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【短編小説】薫のワルツ(改訂版)

【短編小説】薫のワルツ(改訂版)

 中学生活も終わり、一週間後には祐吉も高校に進学する。
なんだか、「こどもの季節」も、引き摺られるように終わってしまうように思えるのだ。
 受験を終え、のんびりとした楽しい春休み。友達から遊びに誘われていたのだけれど、祐吉はあっさりと断ってしまった。

 それでも、受験勉強をしていた頃は、春休みには思い切りハメを外したなイタズラで楽しもうとみんなで話し合い、その企みも計画していたはず……

 洒落

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順子さんの夢

順子さんの夢

 

本当に願ってみると、思い通りの夢が見られるらしい。
昨晩の夢は、まさに願ったとおりの夢であった。

もしタイムマシンがあったなら……どの時代に戻りたいか?
 そう尋ねられたなら、僕は躊躇うことなく「中学時代」と答えることにしている。

あの、不分明な季節が好きなのだ。異性への興味が急速に高まりつつも、未だ未知にして神秘的な靄に包まれ、恋への憧れはいっそ性とは乖離した御伽の国を彷徨っている。あ

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人生についての呟き

人生についての呟き


 人生についての呟き人生よ
もしもお前が しなだれ掛かる恋人ならば
僕は決して 家庭を営むつもりにはならないだろう

人生よ
もしもお前が 朝露にも似た情婦ならば
僕はホテルの一室を ママゴトの家庭と断じよう

人生よ
もしもお前が 垂乳根の母ならば
僕はお前を 継母と誹り続けるだろう

人生よ
もしもお前が 通りすがりの美少女ならば
僕は報われぬと知りつつも 永遠の恋に身悶えるだろう

人生よ

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素敵な段ボールのお家

素敵な段ボールのお家

    
 素敵な段ボールのお家
                             銀騎士カート

 小説を書きはじめた頃、カート君にはマリさんという幼なじみの素敵な彼女がいました。立ち居振る舞いや言 葉つきにちょっと古風なところがあって、縁日なんかで浴衣掛けになると、周りのどんなおんなの子よりも、雰囲気がお香の煙のようにたゆたうのです。
 実際、 マリ

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(短編小説)後ろ姿のアルバム

(短編小説)後ろ姿のアルバム

  (短編小説)後ろ姿のアルバム
                         銀騎士カート

 二十年近く前に亡くなった母の遺品の中から、一冊のアルバムが見つかった。ちょっと無理を承知でローンを組み、新築のマンションに引っ越す、その数日前のことだ。桐の箪笥の底で眠っていたそのアルバムは、私の写真で埋っていた。しかも……その全てが後ろ姿という異様なものだった。

 実は私は私生児で、母は女手一

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彌終の胎児

彌終の胎児

編集し直して……連載としてアップ致します。

春はいつでも……

春はいつでも……


  大好きな夜の時間が日に異(け)に削られ、生暖かい風に嬲られる「春」という季節を僕はあまり好まない。 ♬ 春はいつでも トキメキの夜明け……

 と、大滝詠一も歌うが、僕が心底惚れた女性を永遠に失ったのも、まさしく春のど真ん中であった。

 それにしても「青春」とはよくぞ言ったものだ。木々が芽吹き、人生の本格的スタートの見立てなのだろうが、……じきに鬱陶しい梅雨空が広がり、続いて酷暑の季節が待

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