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謹製文集

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読むにはとんでもない忍耐力が必要です。面白いかは別ですが、気になったら覗いてみてください。
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2020年1月の記事一覧

20200131 お婆と僕は堤防で

20200131 お婆と僕は堤防で

 ここ最近、僕は通勤途中に決まったお婆と擦れ違う。それも、“必ず”が過言ではない頻度で。
 僕と彼女の運命は何色の糸で結ばれているのだろう? 燕脂色だといいなぁ。なんだか渋いよなぁ。

 僕らは人工小河川沿いの堤防が、誰が眠っているかも知らない土手下の墓地の脇へ差し掛かると邂逅をした。そのお婆は決まった出で立ちをしている。
 僕は彼女を心の中で、平地トレッキングお婆と呼んでいる。
 きっと、彼女は

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20200128 ホットミルクは気恥ずかしい

20200128 ホットミルクは気恥ずかしい

 令和二年、初月の末にはひりひりとした凍てる寒さがある。睦月の片爪先は、ややもすれば氷点下へと踏み込みそうになっている。僕は、冷蔵室に詰められた惣菜の気分はこういったものなのかしら? などと由なしごとに思い巡らせながら家路を歩く。柔らかだった時雨の合間には——僕は、人工小川沿いの街灯なき堤防を歩いていた——月明かりは遮られて、靄のような闇があった。

 自室に帰ってからも、窓ガラスから忍び込んでい

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20200123 ポップ・ミュージックとは一体全体何なんだい?

 だ、そうで。お題を投げつけられてしまったのなら、受けねばなるまい。これでもソフトボール部に所属していた。小学校以来やってない。万年補欠だった。

 これでも僕はバンドマン(の端くれ未満)として、音楽活動に対しては誰よりも真摯に向き合ってきた。ライブの前日だけは、楽器の練習を綿密に行ったし、爪だって綺麗に整えた。音楽に関してだけは一過言あっても可笑しくはない。普段の生活で歌を聴くことなんかないけれ

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20200122 安部公房ちゃんは難解が過ぎる

 僕が益荒男の風上にも置けないような、へなちょこ・ナラティブ・クライベイビーに成り腐ってしまったのは一体誰の所為なのだ?
 それは安部公房の所業によるものだ。間違いない。
 
 責任転嫁甚だしい書き出しではあるけれど、これは紛うことなき事実——というよりも真実である。だぼ鯊の呼称が相応しい蒙昧が、ひょんな折に出会ってしまったものが、その著作であった。
 とある旗日に、僕は二足歩行の霊長類でごった返

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20200118 初恋とカフェイン

 初恋というものを思い返すと、ぐにゅぐにゅとした不定形の感情が踊り始める。僕にとってのそれは、今も鮮明なまま脳髄ドライブに記録されていて、いつまでも僕をぐにゅぐにゅさせるのだ。
 これは今の僕が作り得る限りの謹製文である。心して読んでもらいたい。いや、やはり読まなくても大丈夫だ。無理は禁物だ。

  ○

 最後の接吻といえば煙草のフレイヴァーがしたと万葉集の頃から残されている通り、そうと相場が決

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20200116 肉を焼け!

20200116 肉を焼け!

 繁忙期が終わりを告げて、台風の目に入った職場には凪が訪れた。だらだらとした日々が戻ってくる。
 休日返上の業務を済ませた友人が呟く。
「フレキシタリアンでありたいよね」
 彼の言葉に、僕は赤べこになって応えた。
「違いないね」
 彼の双眸は近い未来を眺めながら続けた。
「肉を焼きたいよね」
 僕は胸骨に顎を減り込ませる程に深く頷き応えた。
「違いないね」
 僕らは職場から最寄りの焼肉屋へと、ホッ

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20200112 オポチュニストの夢見たアルトゥリズム

20200112 オポチュニストの夢見たアルトゥリズム

 先日、知人のNさんからの連絡があった。
「今度、遊びに行きましょう」
 漠然としたその問いかけに、僕はどう応えたらいいものかと遅疑し逡巡し右顧し左眄していた。僕は交友関係に仲立ちがあると、上手く立ち回ることができずに立ち尽くすばかりだった。
 Nさんは僕の友人の友人で、女性だった。

 前述の友人との関係は昵懇、乃至は莫逆と呼ぶに相応しいように(僕の視点では)思える。かれこれと十年近い付き合いに

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そればかり

無様散太郎

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昔々、あるところに友人と互いに数曲ずつ出し合って拵えた、自主制作のコンパクトディスクがありましたとさ。
それの中で僕が作ったものの一つです。全部、僕。
拙作ではありますが、何卒優しく。
ボーカルになりたい人生だった。



筆は乗り止まず、慕情の箍が外れてしまうけど
コカボムで飛べるから僕はすぐに恍惚に耽るよ
C万弱で買えるダウンタイムの
怡悦は薄れて消えていく
張り出した見栄や益荒男は久闊を叙

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20200110 令和二年の内乱

20200110 令和二年の内乱

 2020年。大友克洋が額に開いた千里眼で見ていた「ネオ東京」は結局、やってはこなかった。反政府ゲリラと軍部の衝突もない。超能力者とカルト教団もない、とは言い切れないか。前者は眉唾ではあるけれど、そこかしこに自称している者はあるし、後者について大っぴらに言えば、報復が怖いために口を噤むことにする。暴走族はイカしていない単車を乗り回している。超伝導バイクのテールランプは未だ尾を引かない。

 遂に東

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20200105 自己顕示

20200105 自己顕示

「このnoteというデジタルサービスは本当に素晴らしい。駄文の公開と保存を赦す母なるガイアくらいの器の大きさを持っている。ただ、一寸ばかし僕が厭世家すぎる所為で、どうやら、ここでも僕はふわふわと浮いちまっているようだ。近いうちに僕は無様に散るのだろう」
  - 無様散太郎

「いつかこの書き溜めた駄文を纏めたい。たった一冊だけでいい、製本してやりたいと思っている。そうして、部屋の中で一等目立つとこ

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20200104 モラトリアム・エレクトリックギター

20200104 モラトリアム・エレクトリックギター

 遥か昔のこと。おむすびが転がったかと思えば、鬼が老人のこぶを取ったり着けたりして、桃は川を流れ、もと光る竹なむ一筋ありけっていた時代。
 それは僕が大学生だった頃で、青年期を蔑ろにしながら軽音楽サークルに所属し、低級の日々を謳歌していた。晴れやかなるキャンパスライフがそこにはあると盲目的に信じていた気持ちは、三ヶ月と保たなかった。地域で無理くりに参加させられた子供会のソフトボールですら、僕がバッ

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20200103 無題

 酒を呷ったところで嘉すべきことなど一つもない。功徳など詰める訳もなく、ただ不徳を致すばかりだ。それだというのに、頭では理解していながらに、心がどうしてもとごねるものだからまた一杯、もう一杯と呷り、酩酊に近づいていく。僕の逃げ道を奪われて堪るか、と喚くのは僕の悪い癖だし、それに付き合わされる友人の身にもなれば汗顔の至りだった。今日も泥濘んだ逃げ道に足を取られている。
「あいつは糞尿だ! 馬鹿だ、愚

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20200103 僕と喫茶店

20200103 僕と喫茶店

 昔のメモ帳が発掘されたので供養の為に。よろしければご一読ください。

 ◯

 秋の残滓を探した。この街の何処を探しても、それらの行方は杳として知れなかった。小さい秋探しは難航を極めている。僕はいじらしくも不格好な姿勢で冬に抗っていた。運動も季節も音痴だった。しかしながら、僕は秋といった季節に微塵の執着も持ち合わせてはいなかった。ただ、これから訪れる肌を突き刺す冬を思えば、怯懦にも似た焦燥感が丹

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