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〈実録〉奪還父さんブライアン ―片親疎外・子供拉致と戦う話

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帰宅すると家の中がやけにがらんとしている。妻と子供たちの姿が見当たらない。家財道具が無くなっている。 警察に捜索願を出しに行くと「ご家族は無事ですが、あなたには行方を伝えられませ…
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#再会

子供との再会は果たしたが、今も私は元妻の掌で踊らされている道化師に過ぎない。

子供との再会は果たしたが、今も私は元妻の掌で踊らされている道化師に過ぎない。

■31
 息子との再会を果たした日のことが、頭をよぎった。元妻の実家の玄関での攻防、そのやりとりがフラッシュバックする。
 「子供たちのことより、おまえと話がしたい」。そう言う私に「何の話をするの?」と返す元妻。
「おまえに謝りたいんや」
「もう謝ってもらったよ。ほかに話が無いなら、お引き取りください」
 あのときの「ほかの話」というのは、「このこと」だったのだ。一気につながった。

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「今、付き合っている人はいるの?」元妻の予想外の質問に、たじろいだ。

「今、付き合っている人はいるの?」元妻の予想外の質問に、たじろいだ。

■27
 「今、付き合ってる人はいるの?」話は予想もしていない方向へ振れた。 正直に言えば、元妻と別れてから二人の女性と交際したことがある。
 友人から「新しい出会いがあれば、考えも明るくなって、人生が好転していくよ」というアドバイスをもらったことも理由ではあったが、私があまりの淋しさに耐えられなかったというのが実際のところだ。
 二人とも素敵な人だったが、長くは続かなかった。元妻と結婚する前は楽

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「再会により、娘の心は平和になり、息子は父親を見つけた」と、元妻が言った。

「再会により、娘の心は平和になり、息子は父親を見つけた」と、元妻が言った。

■26
 元妻の車に乗り、近くにある二十四時間営業の大型スーパーストアに行った。駐車場に車を停めて、スーパーで買ったコーヒーを飲みながら話をした。田舎だからカフェなど無い。
 元妻によると、私の「学校凸撃再会」以来、娘の「改善」はめざましいものがあったそうだ。
朝、起きられるようになった。忘れ物が少なくなった。勉強がはかどるようになった。居残りをさせられることも少なくなり、なにより情緒が安定して明

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〈26〉三年ぶりの家族の食卓。これはゴールではなく、スタートに立てるかの分水嶺だ。

〈26〉三年ぶりの家族の食卓。これはゴールではなく、スタートに立てるかの分水嶺だ。

■26
 時計を見ると、驚いたことに1時間半も経過していた。どう思い返しても、そんなに時間が経っているはずはない。体感では二十分ほどだった。時間の流れがひずむくらい、濃密な時間だったからだろう。
「準備をしてくる」と元妻が家の中に引っ込んだ。
「まさか、このまま出てこないのか」と思ったとき、ドアは再び開いた。元妻に続き、娘が出てくる。弟の手を引いている。
 両腕に二人を抱っこしたかったが、奥歯をき

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〈24〉「この人が、お父さんだよ!」

〈24〉「この人が、お父さんだよ!」

■24 
 一時間に三本しかない電車が、タイミングよくホームへ滑り込んできた。窓外には青々とした田園が広がり、それを照らす強い西陽が夕陽へ遷り変わろうとしている。
 元妻の実家は、駅から徒歩一分だ。駅前で何度か深呼吸をした。閑散とした駅前では男の子が三人、遊んでいる。ありふれた夏休みの風景だ。
 もしかしたら、私の子供たちも家の前で遊んでいるかもしれない。
 しかし元妻が、そんなことを許しているか

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「奥さんは嘘をついていた」校長は言う「暴力をふるわれた子供は、こんなふうになつきません」。

「奥さんは嘘をついていた」校長は言う「暴力をふるわれた子供は、こんなふうになつきません」。

■12
 校長室へ向かいながら、私は娘と一緒に歌を歌っていたが、胸の内にはメラメラと闘志を燃やしていた。校長とじかに話して、私がこの子の父親であると認めさせるのだ。
 校長室の手前に、職員室があった。瞬時ためらったが、教員から校長へ取り次いでもらうことにした。これも賭けだった。男性教員などに取り押さえられるブライアン(奪還父さん)もいるからだ。しかし子供の前で、人として当然の手順を踏んで見せること

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「パパ…いなかった…」 幼い娘の、しぼりだすような声が胸をえぐった。

「パパ…いなかった…」 幼い娘の、しぼりだすような声が胸をえぐった。

■11
 一ヶ月後、私は準備万端ととのえて、娘の通う小学校を訪れた。
 下校時刻になり、黄色い帽子をかぶった子供たちがぞろぞろと出てくる。
四月。娘は今月から二年生になっているから、帽子をかぶっていない子たちを注視しなければならない。
私は門塀越しに娘の姿を探した。見当たらない。黄色い帽子にまじって、身体の大きな二、三年生も出てきた。しかし娘だけが出てこない。
 児童の姿がまばらになってきたころ、

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