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Jリーグ 観戦記|川崎の真髄|2020年J1第29節 川崎F vs G大阪

 夕方の多摩川線。窓外には黒く輝く多摩川。丸子橋の灯が川面に映える。橙の光を受け、漆黒の川はカーテンのように揺れていた。

 吸い寄せられるようにして、等々力へと導かれる。慣れた道筋。身体も心も覚えている。いつもの七番ゲート。階段を上り、スタジアムを見渡す。平和な熱狂。この空間は温もりにあふれている。適度に熱された空気。粒子の一つ一つを全身で浴び、身体の芯から感情が溶け出した。

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 『ポケットモンスター』の松本梨香による選手紹介。大衆に寄り添った姿勢。適度な力の抜け具合。万物と融合し、それらも水色によって彩られる。クラブと世界の幸福な関係。キックオフの前から、川崎の強さが垣間見える。

 ガンバとのファーストコンタクト。中腰に構えたブロック。パトリックを狙ったロングボール。三笘への素早い寄せ。突破口となるべく、ディフェンスラインへと下がる田中と守田。掌握した相手との間合い。宝箱に詰めた宝物たちが次々とピッチに放たれる。川崎の魅力を凝縮した試合だ。

 登里享平。川崎の攻撃を加速させる、絶対不可欠なピース。高速のオーバーラップ。左足から放たれる、刀のようなパス。局面の明暗を反転させる切れ味。レアンドロ・ダミアンの先制点を鮮やかに演出した。

 戦慄のカウンター。ガンバを陣地へと呼び込む。ボールを奪い、選手たちが前線の空白に向かって突き進む。その光景を眼にし、僕は羽を大きく広げようとする孔雀を連想した。

 スペースへの侵入。確実にボールを届ける技。高い次元で完成された、技術と運動量の融合。一人一人が相手を磁石のごとく引き寄せることができ、同時に引き離すこともできる。川崎の攻撃を眺めていると、ボール以外の場所で選手の動きが視界を過ぎる。先の先の先。煙突から吐き出される煙のように、そんな思いが沸々と浮かぶ。

 ハットトリックの家長。相手を切り裂く三笘。ゴール前の大岩を彷彿とさせるジェジエウ。強さと魅力の象徴でもある中村憲剛。高度に洗練されたこのサッカーを語る上で、すべての選手が欠かせない。優勝した川崎。夜空の下で輝く等々力を横目に、これからも川崎に魅了され続けたいと意識が僕に呼びかける。

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川崎F 5-0 G大阪

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