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Jリーグ 観戦記|創意工夫と王の君臨|2021年J1第14節 川崎F vs 札幌

 小塚和季。その名前に人々の耳目が集まる。大分トリニータから加入した今季。先発に名を連ねた彼は、いかなる彩りを中盤にもたらすのか。雲が支配する空。銀色の世界で映えるフロンターレブルーに眼を注ぎながら、そんな好奇心が身体を巡る。

 札幌のサッカーからは思索と狙いがほとばしる。勝利への欲。そこに創意工夫が込められる。視線の先には白の背中にくっきりと浮かぶ「三十五」があった。小柏剛が鄭成龍の前に広がる広野へと幾度も走る。ディフェンスラインから繰り出される低い弾道の縦パス。その動きとボールが交わることはほとんどない。しかし、その疾走は中盤に空間を生み、谷口とジェジエウの意識を背後へと向ける。

 安定したビルドアップ。その安定は攻撃に地盤を築く。そこにゴールキーパーの菅野も関与する。数的同数の戦いにおいて、すべてのリソースを活用できるか否かが勝敗を分ける。効率と効果の追求。そんな当然の事実に気づかされる。

 ボールを奪われれば、アンデルソン・ロペスと駒井が川崎の守備陣を強襲した。収縮と拡大を繰り返す十一人。札幌の絵図にはチームスポーツたるサッカーへの深いリスペクトが香り立つ。

 注目の小塚は前半で退いた。ボールを循環させた。目につく失敗もなかった。しかし、川崎の中盤で台頭するためには、それだけでは足りないのかもしれない。小塚だけが上塗りできる色。その色を見つけることが、川崎で生きる術なのか。

 札幌に傾いた流れを取り戻すべく、田中碧がピッチに足を踏み入れる。厚みを増した体躯。そこには威厳すらも漂い、田中が残してきた歩みの長さと深さを感じずにはいられない。

 記憶に残るようなサイドチェンジやロングパスはない。札幌の中盤を切り裂くドリブルもなく、地を這うようなミドシュートもなかった。しかし、その存在感は圧倒的だ。田中はボールを札幌のゴールへと近づける。相手の間隙を縫い、突進を跳ね返す。ゴールとゴールの間に横たわる距離。その距離は誰しもが埋められるものではない。

 菅からボールを奪い、次の瞬間には前線のレアンドロ・ダミアンへと縦パスを入れた。右に構えた家長からのクロスは旗手を超えて、三笘の足元へと転がる。揺れるゴールネット。

 すべては田中碧から始まった。目立たないが、彼はゴール前にも侵入していた。飽くなき積極性は志の高さを存分に印象づける。二点の創造。その風格は「川崎の王」と表現しても決して大袈裟には聞こえない。

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川崎F 2-0 札幌

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