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Jリーグ 観戦記|構造化の勝利|2021年YBCルヴァンカップ準々決勝 川崎F vs 浦和

 五月に訪れて以来の等々力。この場所で夏を感じることはなかった。時は過ぎ、田中碧と三笘薫は欧州へと旅立った。そして、大陸と敵地を転線しながらの戦いは川崎に傷痕を刻んだ。守備を支えたジェジエウと谷口がいない。車屋もいない。諸行無常。四カ月という時の経過が色濃くピッチへと投影される。

 浦和を率いるリカルド・ロドリゲスからはサッカーへの愛が感じられる。得点を奪い、相手の攻撃を防ぐ。普遍の目的に個性が感じられる。それはビジョンと化し、そのビジョンが構造化される。ビジョンを実践する上での選手選定と指導。相手の研究。そのサッカーには細部への飽くなき探究心が垣間見られる。全ては私見でしかないが、僕はその心に好感を持つ。なぜか。それは関わるすべてを大切にしようとする、愛情を感じるせいかもしれない。

 選手の立ち位置と身体の向きを目まぐるしく変え、浦和はボールを相手陣内へと運ぶ。体系化されたサッカー。必然的にフリーとスペースを作る動きの裏には才能と努力の香りがする。そして、丁寧に鍛練を積み上げた美しさがある。

 微かな違いが大きな結果をもたらすと僕は信じてやまない。意味を持ったバックパス。川崎を引き寄せ、相手陣内にスペースを作る組み立てと配球。左サイドに生まれたスペースへと鋭角なボールが幾度も飛ぶ。内に絞っては選択肢を作り、サイドに張ってはボールを持ち上がる。関根のそんな動きも印象深い。

 浦和の革新。その象徴が小泉佳穂だ。動きに苛烈さのようなものは感じない。しかし、川崎の選手たちの間に存在する空白地帯へと身を移し、そこで起点を作り続ける。ボールは彼を経由し、芝生の上で自由が与えられる。小泉は蝶のように軽やかな動きで川崎の守備をかわし続けた。守備では相手のディフェンスラインから時と間を奪い続けた。ピッチ上に存在する光をすべて集めるかのように、その金色の髪は始まりから終わりまで輝きを放った。

 結果として、川崎は川崎らしからぬプレーながらも、一時は二点を先行した。「川崎らしからぬ」とはどういう意味か。「相手の想像を超えない」と僕は捉える。前半の攻撃は浦和の守備に導かれるようにしてパスを回した。浦和はボールを奪うために、相手の選手を意図的に空ける。運動量が増えたシミッチ。レアンドロ・ダミアンを狙った、一か八かのロングボール。重心を下げた家長。強引ささえも感じる川崎の攻撃はある意味、眺めていて新鮮だった。

 ゴールを狙える位置にボールを運べれば、川崎の強さは健在だ。同点の場面も「アシストのアシスト」足るパスによって浦和の守備を分散させた。退屈な文章に華やかな形容詞を添えるかのように。家長がもたらした落ち着きと混沌によって、川崎は志向するサッカーを取り戻していく。

 後半に入ってジェジエウが投入され、攻守に安定がもたらされた。長谷川が起用され、時間と推進力が加わった。コーナーキックから奪った二点は個人技で打開できる、今季の川崎の強さを具現化している。

 その一方で、勝利にふさわしかったのは浦和だったという気持ちを拭うことはできない。終盤のゴールは見方によっては「気の緩み」であり、「消極性」と捉えられてもおかしくはない。しかし、疲労が募る時間帯に安定してボールを川崎のゴール前へと運んだ構造は浦和が勝利する確率を論理的に高めた。

 歓喜に沸く白。その傍らで沈む水色。高まる寒さ、込み上げる熱量。上昇曲線を描く浦和。田中碧と三笘薫の不在が重く支配する川崎。素晴らしき一戦を拝み、日々に新たな色が差した感覚を覚える。凛とした初秋の空気を吸い込みながら、後半戦へと思いを馳せた。

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川崎F 3-3 浦和

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