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#猫
【全話】本当に怖くない猫の話
はじめに
noteでこれまで書いた同じタイトルのものをまとめようと思い立ちました。この「本当に怖くない猫の話」を一つにしています。
正直、誰か読んでくださったかわからないですが、9万字以上も書いたんですね。
noteでは、ほとんど日記や読書感想文を書いています。たまにこうした小説を性懲りもなく書いていますが、あまり気にせずお付き合いいください。
誤字脱字など校正に手を出すと、話がすっかり変わって
続・本当に怖くない猫の話 part.8
その後の太宰のその後
何でも屋は普段は結婚相談所の職員をしているが、本業は何でも屋で猫の依頼をされることが多い。それは、単純な迷い猫探しではなく、例えば、猫の新たな飼い主を探したりであるとか、猫にまつわる家族の厄介事を相談されることもある。
それらはいつも非常に難解であるが、いつの間にか話を聞いているうちに、本人たちの中で自己解決してしまう。だから、結局のところ、何でも屋の仕事もほとんどは結婚
本当に怖くない猫の話 part.7
アレルギーの猫は怖くない
穀物アレルギーの猫の飼い主が結婚相談所『ハッピープラス』に現れた。人間が猫のアレルギーなのでなく、猫がアレルギーを持っている。猫が穀物を食べられないので、自分も食べないのだという。だから、結婚相手もそれを理解して、グレインフリーな肉食生活を送ってくれる人が良いそうだ。そういった要望に応えられるのか、何でも屋は返答に困り、所長に対応をお願いした。
「そういったご相談であ
本当に怖くない猫の話 part.2
何でも屋は、ある女性に猫のお見合いを頼まれた。成功報酬20万円の仕事だ。他人様から見ればずいぶんとバカバカしいような話かもしれないが、彼は少し張り切っていた。子どもの頃に飼っていたオス猫が近所のボス猫になるくらい強く、それでいて捨てられた子猫を見つけて助けて育ててやるくらいに優しかったのだ。生きていれば、女性の賢い飼い猫の良い伴侶になったに違いないと思った。
「この子を、お見合いさせたいという話
本当に怖くない猫の話 Part.3
半年前に仕事を辞め、失業保険が切れてから何でも屋を始めた男の一日は暇だ。数年前に亡くなった祖父の家で一人暮らし。庭の手入れをするのが、両親と約束したその家に住む条件だったので、毎朝少しずつ庭木を切ったり手入れをしている。朝ごはんを食べたら、毎日ネットフリマに古物を一つ出品してわずかな収入の糧としていた。今月は臨時収入があったので、朝食が豪華になった。ベーコンエッグ、コーンポタージュ、蜂蜜トースト、
もっとみる本当に怖くない猫の話 Part.4
三十路を超えて何でも屋を開業した?と言ってよいかもしれないと最近思い始めた。買い物代行をネットに出したら、思いのほか依頼が舞い込んだ。1日1件は必ず仕事がくる。コロナ禍で失業者が溢れ、男もその一例ではあるが、これが通常時であれば、こんな商売は成り立たなかったかもしれない。外出自粛が叫ばれる昨今にあって、ネットを見ている時間もみな増えているのだろう。
何でも屋が初めて受けた依頼に、その日、一筋の光
本当に怖くない猫の話 part.5
彼女は、猫を撫でながらかつてのことを思い出していた。
仕事を辞め、実家で一人暮らしを始めて1年目にその猫はやってきた。
「あっちへ行きなさいよ!しっ、しっ」
桜の花も散り切った4月の中頃のことだ。生後2か月ちょっとくらいだった。庭先に現れた三毛猫は鼻水を垂らしてやせぎすでいかにも病気持ちといった感じだった。
(かわいそうだけど、拾ったら病院に連れていかなければならないものね)
猫は治らな
本当に怖くない猫の話 part.6 前編
無職になると何もかもが嫌になる瞬間が必ずくる。何でも屋は今がそういうタイミングだった。「何でも屋」なんて名乗ったところで、家賃のいらない祖父母の家でその日暮らしをしていれば、定職につかないフリーター扱いされても仕方がない。いい年をして・・・と親が言ってきたわけでもなかったが、ささいなことで言い争いをしてしまい、親が差し入れに持ってきた大量のパックのおかずを食卓の上で見た時に何でも屋は何とも気まずい
もっとみる本当に怖くない猫の話 part.6 後編
依頼人は8時過ぎに身なりを整えて起きてきた。黒猫と三毛猫に挟まれている何でも屋を見て少し眉を上げたものの、落ち着いた様子でお茶を淹れると何でも屋にもすすめた。
「今日はどうしましょうか」
「とりあえず、その子猫のことを聞いてみないといけませんね」
「そうですね。お願いします」
何でも屋は何となく一人で旅館の人に子猫のことを聞きにいく気がしなかったので、ひたすら依頼人が起きてくるのを待ってい
本当に怖くない猫の話 part.7
何でも屋は憤っていた。
今朝、久々に母に電話をした。近況報告でもと思っていたら、いつの間にか愚痴になった。
『気のせいよ』
は?
何でも屋の愚痴を母は切って捨てた。
『猫も飼って悠々自適の暮らしなんでしょ。疲れているなんて気のせいよ。じゃ、このご時世だから絶対帰って来ないでね』
母はすげなく言って電話を切った。
何でも屋は膝の上の子猫を撫でながら天井を仰いだ。身体がだるい。熱はないの