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【映画評】「アメリカン・ヒストリーX」 憎悪の果てに

これは美しい兄弟愛の物語であると同時に、アメリカに古くから根強く人種差別と貧富の差を浮き彫りにした衝撃の問題作でもある

父親を黒人に殺されて以降、兄のデレクはその犯人だけでなく黒人全体にまで憎悪を広げていた

アメリカに病巣のように巣食う人種差別の問題は、こうした境遇を持つデレクのような若者にとっては、”白人至上主義”に傾倒していくには十分な素地が、おそらくアメリカ社会全土には地下水脈のように暗く、果てしなく広がっている

ある晩、車を盗みに入った黒人をデレクは惨殺する

警察が急行して身柄を押さえられるが、その姿は聖職者のように「正しいことをした」といわんばかりに胸を張り、堂々と刑務所へ送られていく

エドワード・ノートンがデレク役を演じる

そうした兄の姿を弟のデニーは誰よりも間近にみて育ち、かれも白人至上主義に傾倒していくのは何よりも自然なことのように思えた

やがてデニーは兄以上に過激な主義を掲げ、デレクを崇拝する地域社会の仲間たちからも認められ、それは直線的な行動力となり、ハイスクールの黒人と衝突を始める

エドワード・ファーロングが繊細な弟役のデニーを演じる

一方、服役中のデレクはー

半ば自身が招いてしまった所内でのある暴力事件をきっかけに、これまでの自分に対して深く激しく葛藤し、また自分自身に対して鋭い反問の刃を突きつけ・・・

やがてデレクは出所し、家族、最愛の弟デニーと再会するが、兄弟はお互いに激しく戸惑う

デニーの部屋をみて深い懸念を抱くデレク

デレクは刑務所内で人間の公平性を、自分の痛みとして心の深いところで学びとったが、対照的にデニーはその繊細すぎる心を、周りの環境も大きく作用して、黒人に対する憎悪によって染め上げられてしまっていた

兄弟は共に食事をとり、共に歩き、何度も話し合いを続ける

兄弟の間にある深い奈落のような谷が、あるいはアメリカの最も暗い病巣を暗示しているのかもしれない

デレクは必死になってデニーの周りの環境を整え、昔の白人至上主義の仲間たちとも距離をとり、たとえ弟にも言うことができない自身が体験した刑務所内での事件を思い切って告白した夜から、デニーは変わり始める

変わり始めるがー

すでにデニーが憎悪を糧に撒いた種は、あまりに苛烈で、あまりに早急に発芽しー





衝撃の結末は、デレクの叫びと涙で幕を落とす


主演のエドワード・ノートンがスピルバーグ作品を断ってまで挑んだといわれる90年代の名作



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