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ショートショート・短編

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さらっと読めて、ちょっと考えちゃうようなショートショートが書けたら良いなと思って書いてます。
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2023年7月の記事一覧

【#シロクマ文芸部】書く時間

【#シロクマ文芸部】書く時間

お題:書く時間
140文字

書く時間は君への時間。
君のことだけを考える時間。
なぜ僕はあんな事をしてしまったのか。
決して君を怒らせたかった訳じゃない。
だけど結局、君は怒ってしまったね。
どうしたらこの気持ちを君に伝えられるのか。僕は自分の無力さに途方に暮れている。

こんな反省文じゃ、先生許してくれないだろうなぁ。

【シロクマ文芸部】食べる夜

【シロクマ文芸部】食べる夜

お題:食べる夜
(410字)

食べる夜に誰も気がついていない。
その夜はいつもより少し静かで、艶のない雲が星々の瞬きを遮る。
闇は窓の隙間から忍び込む。
その闇はふたつに分かれ、人のような形になって、寝ているアナタのベッドの隣に立つ。
「この人はずいぶんと辛い思いをしてきたんだね」
「してきたんだね」
「かわいそうに。苦しかっただろうね」
「だろうね」
闇のひとりが、寝ているアナタの胸の上に手を

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【ショートショート】あなたのいない世界で #虎吉の交流部屋初企画

【ショートショート】あなたのいない世界で #虎吉の交流部屋初企画

ミーン、ミン、ミン、ミー。
セミの声が少しずつ、ボリュームを上げるように街の音とともに耳に入ってくる。
昼寝をしていたようだ。
陽を遮るためにカーテンを閉め、エアコンをかけていたにもかかわらず、じっとりと粘り気のある汗が体を覆っている。ソファまで少し湿ったような感じがする。
読んでいた文庫本は、ページが開かれたまま胸に乗っていた。
僕はページを閉じて傍に置き、体を起こした。
夢を見ていた。
夢とは

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【シロクマ文芸部】消えた鍵

【シロクマ文芸部】消えた鍵

お題:消えた鍵

「消えた鍵はいりませんか?」
そう呟きながら歩く鍵屋の声は、熱された空気と渦巻くようなセミの声に溶けて消える。
地平線から湧き上がるような入道雲の上に、絵具をそのまま塗りたくったような青い空。遮るもののない太陽の光に灼かれたアスファルトが、下から鍵屋を炙る。
数十メートル先は蜃気楼に揺れ、国道をゆく車の排気ガスが、汗ばんだ肌に貼りつく。額から流れた汗は、縁石に落ちた途端に蒸発して

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【54字の宴】肝試し

【54字の宴】肝試し

ベタな感じですが、初54文字。
54文字の宴に参加させていただきました。

お題:肝試し

【短編】父の指

【短編】父の指

「お義父さんの四十九日のことなんだけどね」
 夕食が済んだテーブルを片付けながら妻が言う。十九時からのニュースは終盤の天気予報に入った。私はその画面を見るともなく眺めている。
 娘はソファに寝そべりながら、幼稚園から借りてきた絵本を、声を出しながら読んでいる。
「私だけ先に帰ってきちゃダメかな?次の日の仕事、休めそうにないのよ」
「良いんじゃないかな。法事が終われば日帰りできちゃうから、俺たちも泊

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【短編】水槽のクラゲと線香花火

【短編】水槽のクラゲと線香花火

(4845文字)

丘を越えると日本海が見えた。
夏の終わりの青空を、珍しく穏やかな水面が映している。
クラゲの水族館に行ってみたいと言ったのは夏菜子だった。

山形県鶴岡市にある加茂水族館は、小さな水族館だが、展示しているクラゲの種類が世界一ということで有名になった。
コンパクトにまとめられた館内は、もちろん魚介類や海獣の展示もあるが、やはり見どころは色も形も様々なクラゲだ。
小さな水槽の中で漂

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【シロクマ文芸部】街クジラは空を飛ぶ

【シロクマ文芸部】街クジラは空を飛ぶ

街クジラは空を飛ぶ。
街から街へと旅をする。
大きな胸びれと尾びれをゆっくりと動かし、風を捕まえ、優雅に泳ぐ。
「父ちゃん、あれはなに?」
畑のかたわらで、ひとり遊びをしていた子供が、父親に質問をする。
父親は鍬を振り下ろす腕を休め、手拭いでひたいの汗を拭いながら、子供が指差す方向を、目を細めて眺める。
金色に輝きながら揺れる麦畑の向こう、雪が消えた山脈の手前に、黒い大きな塊が浮かんでいて、ゆっく

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