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もうウイダーじゃなくても

全然まだXのことをTwitterと呼んでしまう。そこに長年呼んできた意地などはもうなく、世間も続々と「(旧Twitter)」と併記しながらXと表記ないし呼称している流れになっているとはよくわかっているつもりだが、つい、というやつだ。

あまりに突然で鮮やかな変化だった。いつの間にか、みたいな感じでは全然なかったことを覚えている。なんか多分、別にTwitterと言ったところでわざわざ「あぁ、Xね」とか言ってくる感じの人間関係が側にないこともあり、「長年うちらの間ではそう呼んできたアレのことを共通認識の名前で呼ぶ方がなんとなく便利」とどこかで思っているのかもしれない。

ところでみなさん、ウイダーinゼリーが今「ウイダー」なしの「inゼリー」になってるのっていつ気づきました?

私はというと、ある日やや風邪気味で「これはもしかしたらワンチャン発熱あるな」と思い買い出しをお願いした際のことであった。色味やパウチの感じはよく知ってるものなのだが、はたと「あれ?ウイダーって書いてない…?」と思ったのだ。

正直なことを言うと、最初買ったお店の「なんとかゼリー風ドメスティックブランド」だと思ったのだ。しかしその割に「in」の字体ががよく知ってるそれすぎる。私に絶対フォント感がないからではない。もしこれがそのものズバリでないのならちょっとハラハラするぞ…となるくらいだったのだ。

そこで調べたところ、実は2018年からすでにウイダーではなかった。健康優良児すぎてなかなかお目にかかってこなかったこともあり、全く気づいていなかった。

ウイダーとは何らか健康に良い成分のことかと思っていたのだが、ライセンス契約をしていたアメリカの会社の名前だったそう。

そっかあ、と思ったところで私はこの「パウチ状の容器に入っていて、吸い込み口がついたゼリー、また、そのさま」のものを「ウイダー」と呼び続けてしまう。そのものズバリだけではなく、「ウイダーっぽいゼリー」みたいな感じで類似の形状の商品も巻き込まれがちだ。自分で認識しやすいだけでなく、歳の近い相手には特に、インゼリーよりもウイダーと呼ぶ方が伝わる気がしてしまう。これもまた私にとっての"Twitter"だ。

先日の夏休みを振り返る。

小笠原諸島に行ってきたのだが、小笠原というのは運が良ければイルカやクジラに出会える海域なのだ。しかし、とはいえどこにでもいるわけではもちろんなく、ある程度まとまった場所や沖合に出向く必要がある。そうなると割と小型の船で向かうことが必要になってくるのだが、こうした船は船酔い持ちとまぁ相性がよろしくない。そして我々夫婦は例に漏れずとってもセンシティブな三半規管を持っているのであった。

そこで、お昼はもう固形物は諦めようと話して決めたのだった。とはいえ何らか欲しくなるだろうから、ということで、出発前にドラッグストアで「ウイダー」を買い、荷物に詰めて向かったのだった。

当日はやはりかえって気持ち良いくらい予想通りに酔った。酔い止めを飲んで随分楽に過ごせたが、それでもいつもの爆食欲は港で留守番状態である。お昼の時間は船の上でとのことだったので、空腹感はなかったもののウイダーを飲んだ。

その途端。みずみずしい甘さが口いっぱいに広がって、心底驚いた!
おおよそカロリーが枯渇した体では何でも素晴らしく美味しいが、空腹感を忘れていてはその気持ちも思い出せない。ところがさすがウイダーは10秒チャージを謳っていた時期が長いだけあって、一口ごとに文字通り喜びに似た味わいが駆け巡っていくように染み渡っていった。ひんやりとした甘さが晩夏の日差しに心地よい。目を白黒させながらウイダーを味わう私たちと、舟板一枚隔てて透明な海。何だか不思議な気持ちだったが、とにかくとにかくとにかく美味しかった。

そうやって過ごした船のおかげで、イルカにもクジラにも会えたのだった。間近で見るのは本当に不思議な気持ちになったが、同時に、彼らの生態について解説を聞きながら動きを見ていると、それらの一挙手一投足、ないしひとおよぎ、、が、あまりにも無駄なく命を明日につなげる様子であることにとても納得した。
マッコウクジラが冷たい深海から体を温め息をするために水面に上がることも、私たちがウイダーを選び美味しく味わうことも、等しくそれぞれの世界を生きるための動きだ。尊い。
スケールはあまりにも違ったが、文字通りのコバルトブルーの海の上で私たちは生きている。

なお、陸に着いたとたん食欲は寂しかったとばかりに駆け寄ってきてくれたので夕飯は信じられない量を食べ、それもまた良かった。

ウイダー、もとい、inゼリー、大好き。

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