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YORU珈琲店の自由帳。

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よるつき の セカイ の ヒトたち が じくう を こえておとずれる かふぇ に おいてあるのーと と みんな の かいわ。
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【SS】10月の夕刻

【SS】10月の夕刻

日が落ちて世界が橙色に滲んで境界が曖昧になった頃、繁忙の街の喧騒の中を人波を無視して鼻歌混じりに軽やかなステップを踏みながら歩く男がいた。
背の高いその男は長い2本の尻尾を靡かせながら、まるで誰にも見えていないかのようにひらりひらりと雑踏の中を舞っている。
髪も肌も服も、全てが橙色に染め上げられていて今にも消えそうな幻のようだとも思った。

本当に見えないもの…将又見えてはいけないものなのかもしれ

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ある日の会話。(24.10.8)

ある日の会話。(24.10.8)

「しあわせは人それぞれな訳でさ、僕が察するにキイチはユエンにくっついて寄り掛かっている事で安心できるしそれを拒絶されないことが嬉しくて、ユエンはキイチがそうやって自分をちょっとした止り木としてでも頼ってくれるのが嬉しいのだと思うよ。そういう小さな気持ちの積み重ねが彼らのしあわせというものだったんじゃないかな。…当て付けの愛も付け焼き刃の幸せも…結局は誰かが見せた幻想、…誰かにとっての理想、そうだろ

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『ずっとずっと、こうしてまた生まれてこれるまであたたかい夢を見ていたんだ。あの日確かにオレは死んだけどハワードがずっと離さないで守ってくれていたからあたたかかったんだ。今度はオレが守るからな、だってオレが兄貴なんだから』
ーレナード

深夜、自由時間。

深夜、自由時間。

俺たちの夢の中にはひとつのセカイがある。

言い換えると、現実から意識を切り離した時に必ず辿り着く場所がある。

赤と青の月が昇る明けない夜空、
産業革命時代のような工業団地、
ランドマークの大規模商業施設、
町全体にタールを塗りたくったような廃れた路地、
這い回る影、
他種族が行き交うクエスト紹介所、
等、諸々がそこには存在する。

そんな中で昨日から今朝にかけて、俺は倉庫型商業施設でデカイチ(

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ある日の会話(24.09.20)

ある日の会話(24.09.20)

「…それはなんですか?…随分と弱っているようですが…」

いつものようにカウンター席でコーヒーを啜っていると手の空いたマスターが俺の隣の席に置かれたケージを眺めてそう言った。
俺はカップから口を離してそれに視線を移す。
丸っこくて青白いー手提げ付きゴミ袋を縛った見た目のーナニカがケージの中でドス黒いタールのような液体を撒き散らしながら震えている。

「生ゴミですね。ああえっと席に置いてすみません…

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ある日の会話(24.9.13)

ある日の会話(24.9.13)

話し声が近くに聞こえて夢現からゆっくりとそちらに意識を向けていく。
聞こえるのはマスターと少年の声。
カウンターテーブルに突っ伏したまま重い瞼を薄く開いて声の方に焦点を合わせていると目の前が突然真っ暗になった。

「あっこら、ハワード…!寝てるヒトのジャマしちゃダメだぞ」

慌てたような少年の声とそれに返事をするような猫の鳴き声がして再び目の前が明るくなる。僕はゆっくりと瞬きをして呼吸を始めるとテ

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『“そういうヒトだったんだ”と思われてもいい、僕はそこから逃げるように立ち去った。僕の場所ではなくなったそこにもう戻ることはないだろう。』
ー理

ある日の会話(24.9.10)

ある日の会話(24.9.10)

カラランッ!
珈琲店の扉が勢いよく開かれ、扉に付いているベルがけたたましく鳴った。
カツカツと早足に靴の音を立てて入ってきたのは黒い制服を身に纏った赤茶色の髪の女性だ。彼女は明らかに不機嫌そうな面持ちで真っ直ぐにカウンター席へ向かってきてテーブルに手をついた。

「マスター、ユエ来てない?」

「いらっしゃいませ。…ユエ…ユエンさんですか?いえ、本日はまだいらしておりませんね」

「マ?あのヤロど

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ある日の会話(24.9.7)

ある日の会話(24.9.7)

「…そういえばですけど、ここのマスターさん変わったんですか」

「いえ?僕はずっとこの店を営んでいますよ。アナタから見て変わったとするのならばそれはアナタがいた所とは別の時空のここにきたということではないですかね、そういう方たまにいらっしゃいますよ」

「あーなるです、そっちでしたか。じゃあいつもので」

「はい、かしこまりました」

手帳に事柄を記しながら暫く待っているといつもの通り、コーヒーと

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『意志を持つヒトの気持ちや考えた事の方が正しくて尊重されるべきで、私のような不鮮明なものの気持ちなどは間違っていてお粗末で誰かに影響するには迷惑で。だから自分の気持ちを押し付けず、意志のあるそれを肯定してあげるのが私なりの思いやりだったんだけど…何が間違っていたのかな』
ー由縁

『おこってはいない、あいてが勝手にそう考えてそう接してそう言ったのだから、ぼくはそれが“そのひと”であるとうけとめるだけなのだから』
ー夕

「ナツメ様は光です。太陽や灯りの様な輝くあたたかな光。濁りのない綺麗な白色、俺の希望の色…です」

「9月になりましたね。昨日はここの席でよるつきさんが『なんとなく毎日投稿してるのに低気圧で頭回らなくてくそ』って潰れていました。台風の影響でしょうか?
台風と言えば最近イチさんが振っ切れてデッドプールみたいになっていて来店されると絡まれて大変です。」
ー珈琲店バイト(六)