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日記じゃないもの

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日記以外をまとめたものです。
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2022年1月の記事一覧

【会話劇】私にはできない

【会話劇】私にはできない

 深夜、山道を走る車が一台。

「やっぱり私にはできないよ。」

 Aは絞り上げたような声でようやく口を開く。

「今さら何を言うんですか。恐がっても同じことです。」

 Bは啖呵を切ったように喋りはじめた。

「恐いことでしょう。でもね、今までも似たようなことをやってきたじゃないですか。あなた受験はしましたよね。就活もしましたよね。誰かの人生を台無しにして今のあなたがある。あなたも私も

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陶酔論

 最近読んだ坂口安吾の「いずこへ」という短編小説のなかにとある女性が出てくる。この女性には旦那がいるのだが、浮気性でたくさんの男と関係を持っている。それでいろんな男の気を惹くために一生懸命着飾っているのだが、坂口安吾はこの女性の一連の行為を男の好色を引き立てるという自己の陶酔のための努力と書いている。

 他にも人間は実は陶酔を求めて生きているのではないかと思うフシがあって、いつか聞いた立川談志

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目の手術体験記

 昨年の9月から12月にかけて網膜剥離で両目を手術しました。その経験をずっと書こうと思っていたのですが、だいぶ遅れてしまいました。治していただいたお医者さん、本当にありがとうございました。それで手術される方や全く縁のない方にもこれを読んで手術がどんなものかイメージすることの助けにでもなれば幸いです。私はこれがはじめての手術で、それをいきなり2連チャンしてきました。素人ではありますが、2回も経験した

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深いところへ

深いところへ

 生きてて追い詰められてくると、普段は全く縁のなかったことを考えはじめたりする。そのときは「人間とはなんだろう」とか「人生ってなんだろう」とか哲学にも満たないそんなようなことを考えていた(今も若干)。私の場合はそんなことでもないと考えたりしないが、他の人は追い詰められると何を考えはじめるのかちょっと興味がある。でも、やっぱり人間とか人生とか自分に密接にかかわるものを考えるのではないかと思う。

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「あきたびじょん」とやら

「あきたびじょん」とやら

 ちょうど1年前のこの時期に、用があって秋田へ行った。散策ついでにぶらぶら歩いていたら秋田県庁の前を通る。大抵どこの県庁も横断幕で、その県のスローガンなんか掲げていたりするが、秋田の場合は「あきたびじょん」。厳密に言うと「ょ」がすごく小さくて、遠目に見ると「あきたびじん」と読めるようになっている(写真参照)。これを見たとき私は正直なところ「秋田美人は色々背負わされて大変だな」と思ってしまった。秋田

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「ヤバイ」からの自立

「ヤバイ」からの自立

 「ヤバイ」という言葉はとにかくヤバい。

 「それヤバい」だけ言ってればほとんど会話になるからヤバイ。海外の人に日本語を教えるなら「もったいない」とか「ありがとう」なんかより、「ヤバイ」のヤバさをヤバいほど教えたい。かくいう私は海外の人と一度たりともまともに話したことがないので、マジでヤバイ。

 こんな調子で「ヤバイ」を使えばなんとなく文章にはなるのだが、これは頭のなかにある「喜び」とか「

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逆立ちしなよ

逆立ちしなよ

君はなにをしてるんだい?逆立ちしなよ。
なぜって、みんなが逆立ちしているからさ。
君にはしない理由なんかあるのかい?意地を張ることはないよ。
みんなと違うことをしていると不安になるだろ?逆立ちしなよ。逆立ちすると安心するぜ。生きててこんなに安心することはないんだから。この一体感、この安心感のためにみんな逆立ちをするのさ。
みんなが逆立ちしてなにを考えてるかなんてそんなことどうだっていいじゃないか。

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やっぱりサヨナラだけが人生

やっぱりサヨナラだけが人生

 人間は猿や豚と同じ哺乳類であり、ミミズやオケラと同じ動物で、木や雑草と同じ生き物である。

 生き物がこれだけ違っていてもすべからく共通して通る2つの通過点があって、それが「生まれること」と「死ぬこと」である。もう生まれてしまったからには、必ずやらねばならないことはあとは死ぬことだけなのだ。

 井伏鱒二(が厳密には訳をつけた)の「サヨナラだけが人生だ」という言葉がある。わけもなく心動かされ

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自由に溺れたブルックス

自由に溺れたブルックス

 果たして自由ってそんなに素晴らしいものなんだろうかと思ったりする。

 言わずと知れた名作「ショーシャンクの空に」のなかに、ブルックスというおじいちゃんが登場する(名前が分からなくて調べた)。彼はずいぶん長いこと刑務所で暮らしていたのだが、劇中ようやく仮釈放までこぎつける。刑務所を出るとそこは待ちに待った自由の世界。ところがこの人、全くシャバに馴染めず、しまいには自ら命を絶ってしまう。

 

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作家ってスゴイ

作家ってスゴイ

 ブログをはじめてから改めて本を読んでみると本職の凄さが一段と感じられる。
 いま読んでるコラムなんかでも、入り口は「ん?」となるような少し馴染みのない話題で入って、最後は核心をついたところにズバッと収まる。
 この軌道、見てて惚れ惚れする。思えば文章を書くという行為は、より本を好きになるための手段でもあるわけだ。図らずもそれをやっていた。
 これを読んだ後に見るとアラ不思議。自分の文章がゴミクズ

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