画像2

世界的な鉄鋼の工場を持つ大企業の社長、G・H,ボンディは、発明品を売却しようとしている大学時代の友人、マレク技師の広告文を新聞で見つけた。きっと失敗して売却に至ったのだと、彼の破産を期待して彼を尋ねることにした。

マレクと再開したボンディは、話半分でマレクの発明品に関する話を聞き流していたが、次第にマレクが発明した「カルブラートル」の重要性に気づき、真剣な話へと転移する。マレク技師が発明したものは、いわゆる原子力発電を可能にする装置で、少量な燃料から膨大なエネルギーを生み出すことを可能にした。しかし副作用もあった。

燃料になる物資が含んでいる原子エネルギーを完全に燃焼させることで、これまで外に出ていなかった爆発的な力を発生させることができる一方で、その装置に近づいた者は、ふわふわ浮いているような高揚感と、驚くほどの幸福感に包まれ、人格までをも変えてしまう何かに精神状態を侵されてしまうことがわかった。

アレクは、「万物はすべて霊魂を帯びている。神はこの世の全てに霊魂を与えていると説く。」という前提のもと、どんな物質の中にも神が存在し、閉じ込められているのだとすれば、その物質を完全に破壊した時に解放される神による作用が起きていると考えられ、精神状態への影響も「神=絶対」によるもので、それが真実であると考えた。

絶対が与える影響を理解した一方で、ボンディはそのカルブラートルが生み出すエネルギーによる経済効果も同時に理解し、全世界的なビジネス展開を考え、カルブラートル技術を買い取ることを決め、早く手放したいマレクと契約を結んだ。

ボンディはすぐさまカルブラートルの製造工場を拵え、ロンドン、ドイツ、チェコ、ロシア、日本など、全世界にカルブラートルを流通させはじめた。石炭など既存のエネルギー会社を淘汰し、株式市場を混乱させ、政府を経済的に追い込むなど、世界的に大きな動きを発生させることになる。

彼が流通させたカルブラートルが影響を与えたのは、経済的な影響だけではなく、カルブラートルを使用している各地で、奇妙な宗教的言動や行動が感染的に見られるようになった。銀行は金庫を開けて、訪れた人たちに対してお金を分け与え、重役会のメンバーには宗教的な言辞を言い合うなどの神経異常現象が見られるなど、新聞でも同様のニュースを取り上げられるほど、たくさん事件が起こりはじめた。

予想以上の混乱を引き起こしてしまったボンディは、銀行や政治の世界にカルブラートルの作用が及ぶのを恐れて、流通を止め、石炭・石油でのエネルギー製造に切り替えることを主張するも、その流れを止めることはできなかった。世界中でカルブラートルによる暖房が使われはじめた。

「絶対」は、産業の構造を崩壊させはじめる。カルブラートルが吐き出す絶対は、昼夜問わず手を止めることなく働き続けた。銀行業務をはじめた絶対は、自ら帳簿をつけ、計算・更新を行い、重役会に対して文書で命令を発している。紡績工場では、紡績機と織り機が自分で勝手に一日中動き続けるようになり、労働者たちの仕事はなくなった。原料がなくなるまで生産を続けた後、絶対は、あらゆる物質を原料にし、生産を止めることはなかった。

その結果、過剰生産により生産物の価値は下がり、紙幣の価値も暴落し、労働者は解雇され、市場は崩壊した。それでも、絶対は仕事を止めず、あらゆる産業界は、神に汚染された。
また、宗教的な異変も報告されるようになった。

カルブラートルを暖房として使用していたクゼンダは、喘息持ちのパン屋に両手を当て、病を治す奇跡を行い、別の者に対しては結核をも治療した。また彼は、両足が地面から離れ、空中に浮遊したり、相手の考えていることがわかったり、様々なチカラを得るようになっていた。
さまざまな霊感と回心 、道徳的効果 、奇跡 、空中浮遊 、恍惚状態 、占い預言 、そして主として宗教的信仰を人々に与え、宗教的啓示が突然発生した。ブラホウシュ哲学博士は、この一連の騒動を心理学的な観点から、変性ヒステリ ー患者の病理学的症例として 、もう一つは迷信深く知的に劣った大衆の心理的集団感染として分析した。

神は集団 、氏族 、または部族に所属する小さな神である、という前提において、現在の宗教的な波がいくつもの方向に分散し 、それぞれが他派の偏見を圧して主導権を握るべく集中することがあり得る。と彼は主張している。つまり、宗教戦争の時代の到来を予期したものである。彼の予言は的確であり、実際に、それぞれの宗教観を守るための「最大の戦争」が勃発することになる。

誰かが持つ信仰が大きければ大きいほど、その分だけ、それを信仰しない人たちを激しく軽蔑し、衝突するようになるってしまう。つまり、絶対=神を認めることにより、その他の神を排除する考え方が争いを生んでしまう。他者に対する理解を示すことで、争いは防ぐことができることを教訓として言い表し、締めくくられている。

画像1

#読書 #読書記録 #読書感想文 #読書部
#読書好きな人と繋がりたい
#哲学 #人生 #考え方 #記録
#本 #ブックレビュー #推薦図書
#絶対製造工場 #カレルチャペック

画像3


この記事が参加している募集

#推薦図書

42,616件

#読書感想文

190,092件

多くの人の個性や表現が埋もれてしまわないように、クリエイターとして、価値を掘り出し、届ける活動を行ってまいります。ブランドづくりに軸足を置いていますが、メディアでの発信や書籍展開など、活動の場の創出ができるようにも努めてまいりますので、どうぞご支援のほどよろしくお願いいたします。