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エヴァンゲリオンの元ネタとしてのOVA「BIRTH」

最近80年代OVAにハマって色々見てるんだが、「世界初のOVA」というのは1983年制作、押井守監督作品「DALLOS」だという。
元々これはTVアニメ企画だったらしいが、諸般の事情でボツとなり、OVAに差し替えになったとやら。
押井さんの名が監督としてクレジットされてるけど、実際は彼の師匠である鳥海永行氏の色が濃い作品だったみたいだね。
これはバンダイから出たOVAであり、これを見たビクターが「じゃウチも」と制作したのが「BIRTH」という作品である。
これ、「DALLOS」と並んでアニメオタクには名の知られた作品。

「BIRTH」(1984年)

率直にいうが、万人にウケるアニメではない。
なのになぜ有名なのかというと、天才アニメーター・金田伊功の作品だからさ。
金田氏は「アニメの革命児」という異名をもつ伝説的アニメーターで、
・金田パース
・金田光り
・金田ビーム
・金田爆発

というように、彼の名前を冠した作画テクニックが数多く存在する。
こういうアニメーターの名前を冠したものといえば「板野サーカス」が有名だが、その板野一郎にとっての憧れの存在が金田さんだったわけよ。
その技術については語るより見た方が早いので、こちらをどうぞ↓↓

ジブリ作品を数多く手掛けて、めったに人を誉めない宮崎駿が誉めたぐらいなんだから(ナウシカは金田の画が一番いい、と)、相当なもんである。
で、「BIRTH」に話を戻すが、これは彼の監督作ってわけではないものの、原作は金田さんだったらしく、実質は彼の作品だったといっていいだろう。
なぜか、庵野秀明がこれの制作に参加してたりもする。
「ストーリーが意味不明」「アニメーターのマスターベーション」と批判をされた本作だが、意外と私は嫌いじゃないんだよね。
もちろん、金田さんのテクニックを存分に披露する為にこそ作られたっぽいあざとさは感じるものの、その一方でこれ、ちゃんとSFなんだよ。

作中、上の画の謎の女性アーリアが突然出てくる。
そして彼女が、主人公たちに次のような主旨を語るんだ。

・宇宙とは一個の生命体であり、今は胎児のような状態。

・宇宙が人類を含むオーガニック(有機)で満たされれば、次なる高次元のステージへ行ける。

・しかし、オーガニックを滅ぼそうとするイノガニック(無機)が存在し、イノガニックは宇宙を崩壊させる恐れがある。

・ただイノガニックを生んだのもまた宇宙であり、なぜこれが存在するのかはよく分からない。

要はイノガニックを倒して、と言いたかったようなんだが、有機vs無機という設定が面白いと思ってね。
このアーリアという女性は、この惑星の意識体のようだ。
で、物語は襲うイノガニック、逃げる主人公一行というのが延々と続くわけで、最後のオチは最終兵器のビームを放ったら星もろとも全部消えてしまいました、という感じ(笑)。

バッドエンド?
いや、プラズマ化した主人公たちは意識体(?)の中に包括され、それらを見届けたアーリアが穏やかな表情をしてたところを見るに、バッドエンドではないんだろう。
むしろ、これが彼女の言ってた次なる高次元ステージへのシフト?
というよりも、これを見て私が思い出したのが、「エヴァンゲリオン」のサードインパクトである。

「エヴァンゲリオン」

そのまんまじゃん。
というか、これの制作に携わってた庵野秀明は絶対「BIRTH」の影響受けてるでしょ。
と考えると、意外とこの作品も「エヴァンゲリオン」の元ネタとして馬鹿にできないんだよね。
そもそも、金田さんのカラーを現代において最も色濃く受け継いでるのが、ガイナックス系列のTRIGGERだと思う。
「金田パース」も、「金田光り」も、「金田ビーム」も、「金田爆発」も、全部継承してるし。
きっと「BIRTH」は、これからアニメーターを目指す人たちにとって教本のようなアニメだと思う。
興味ある方は、ネットで「birth ova」と検索してみてください。
普通にフル動画を見れるから。
ちなみに、巨匠・宮崎駿は「BIRTH」について、こういうコメントを寄せている。

「あの少女のお尻は、踊る時の金田氏にとてもよく似ているのである。
あの少女のお尻がどう動くのか、これは見物だと、くだらない処に期待している自分である」

しかし、アニメオタクはともかく、一般的に金田伊功の名は世間に知られていない。
なぜって、監督じゃないからだよ。
監督でなければ、作品に名前を冠することはまずないから。
というか、アニメを見ない人って、たとえ監督であっても宮崎駿以外の人はほとんど知らないんじゃないか?
試しに、身近にいるアニメを見てなさそうなお年寄りにでもヒアリングしてみりゃいいさ。

「お爺ちゃん、庵野秀明って知ってる?」
「庵野秀明、ああ、知っとるよ。
あれじゃろ、壊れかけのレディオ」
「それ徳永秀明。
秀明しか合ってねーじゃねーか。
じゃ、今敏は知ってる?」
「今敏、ああ、知っとるよ。
あれじゃろ、札幌のサッカーチームで・・」
「それコンサドーレ。
コンサしか合ってねーじゃねーか。
じゃ、富野由悠季は知ってる?」
「富野由悠季、ああ、知っとるよ。
あれじゃろ、メンインブラックで渋い演技を見せてた・・」
「それトミーリージョーンズ。
トミしか合ってねーじゃねーか」

みたいな会話になると思うぞ?
案外、みんなそんなもんである。

監督タイプのアニメーターですらそうなんだから、監督しないタイプは世間的にほぼ無名といっていいんじゃないだろうか。
実際、「ガンダム」といえばみんな富野由悠季の名を挙げるが、もうひとり安彦良和という優秀なアニメーターがいたことを忘れちゃいけない。
「ガンダム」なんて、半分は安彦さんの功績じゃないか?
それこそApple作ったスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックみたいなもんで、みんなジョブズばかり讃えるけど、ウォズニアックだって絶対いい仕事してたはずなんだよ。
「あしたのジョー」や「エースをねらえ!」もそうだよな?
みんな出崎統ばかり讃えるけど、一方であの作画をやってのけた杉野昭夫という天才アニメーターがいたことを忘れちゃいけない。
押井守は出崎さんのことをとても尊敬してるんだけど、一方で「杉野さんの画力あっての出崎さん」とも認識しており、「自分も早く杉野さんのような天才を見つけて組まなければ」と考えるようになったという。
で、ようやく見つけた天才が黄瀬和哉という男で、ただし押井さんいわく「黄瀬には逃げられた」らしい(笑)。

今では押井さん抜きで「攻殻」をプロデュースする黄瀬さん

こういうアニメーターの歴史を紐解けば、まず最大手の東映動画に森康二という天才アニメーターの元祖というべき存在がいたのよ。
宮崎駿や高畑勲の師匠に当たる人だね。
「日本アニメーションの父」とまで呼ばれている。
あと、森さんの後輩として大塚康生という天才アニメーターもいた。
この人が、まだ新人だった宮崎・高畑を抜擢したともいわれている。
でも森さんにせよ大塚さんにせよ、監督をしないから意外と名前が知られてない存在だよね。
そうそう、アニメ「SHIROBAKO」の中で、杉江さんというお爺ちゃんっぽいアニメーターが出てくるでしょ?
この杉江さんって、森さんをモデルにしているという話なんだ。

「SHIROBAKO」の杉江さん(左)と森康二さん(右)

私、「SHIROBAKO」の中で特にこの杉江さんのくだりが好きでさぁ・・。
ヒロインのあおいは若いから杉江さんのことをただの窓際族としか認識してなかったんだけど、トップアニメーターの小笠原さんは杉江さんのことを心から尊敬しているんだ。
そういうこと。
分かる人には、この世代の凄さが身に染みて分かってるのよね。
だって、こういうアニメ黎明期の世代は、模範にすべき先輩すらいない状態の手探りでやってきたはずなんだから。
世代として、子供の頃からアニメを見て育ったというはずもなく、いまどきの「アニメが好きだからアニメーターになりました」みたいなスタンスとは全然違うと思う。
それでいて、現代のアニメーターですら舌を巻く、あの技術の完成度は一体何なんだ?

理解不能な世代である。
こういうのを、私は日本人固有の民族性的職人魂として認識している。
たとえば戦国時代、我が国は鉄砲の伝来以降、当時の職人は製造元の欧州へ研修に出たわけでもないのに、なぜか自力で鉄砲の複製に成功したというじゃん?
しかも、そこから僅か数十年のうちに、日本は世界一の鉄砲保有国にまでなったという。
こういうのを、日本人の職人魂としか説明のしようがないわけよ。
そしてそれと同じ精神性が、60~70年代の日本アニメ界でも発揮されたんだと思う。
スゲーよなぁ。
私は基本、ジジイババアは嫌いだが、ことアニメに関してはどうしても例外になってしまう。

「金田爆発」
「金田光り」
「金田パース」


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