ミワユウカ

プロデューサーからマーケターにジョブチェンジしたアラサー社会不適合人。 徒然なるまま…

ミワユウカ

プロデューサーからマーケターにジョブチェンジしたアラサー社会不適合人。 徒然なるままに脳内をアウトプットする備忘録。

最近の記事

酒と女の賞味期限

「女の賞味期限」と揶揄される年齢を迎えた頃。突如ウイスキーにはまった。 きっかけはダイエットだ。親子三代酒豪の家の出、二十歳になるやいなや酒の味を覚えた。地元の居酒屋へ足繁く通い、ビールに始まり焼酎に立ち寄り白ワインを経由して日本酒で一日を終える。そんな二十代を駆け抜けてきたが、27歳を超えた頃、肝臓よりも先に肌が曲がり角を迎えた。 酒と共に迎えた朝、内臓は元気だが顔に元気がない。目の下のクマは酷く、肌にハリがない。それが酒を受け入れる己の体の変化のせいだと気付くのには、そう

    • 祖母の忘れもの

       「さいきん、ご近所に ちいちゃいワンちゃんがいてね、お散歩中に私のことを見つけると、ワァッと嬉しそうな顔をして、動かなくなっちゃうのよ」 自称89歳の祖母が語る、推定500回目の「さいきん」の話である。 83歳で認知症を発病した、実年齢86歳の祖母は、10年前の「さいきん」をずっと生きている。わたしは何度でも「それはいいね、何色の犬なの?」と笑顔で返事をする。 認知症が発覚してからの3年間で、祖母は多くのことを忘れた。 前回会ったときは、時計の読み方を知っていた。 前々

      • 海底に沈んだiPhone11、10か月後に救出される

        「石巻警察署より、お客様の契約されていたSIMが入っているiPhoneが取得されたとの連絡がありました。現在こちらのSIMはすでに新規発行済みのものかと存じますが、担当警察官の連絡先をお伝えします。」 2023年6月1日の昼下がり。0120から始まる見知らぬ番号からの着信があった。訝しみながら電話に出ると、契約している携帯電話回線であるNUROモバイルからの入電であった。 曰く、10か月も前に海の底に沈んだiPhone11が見つかったというのだ。 この入電に対して、驚いた

        • 「自分らしさ」という言葉の解像度

          近年、至るメディアで目にする「自分らしさ」という言葉。この言葉が世の中に出るようになったのは、2018年より開始されたパンテーン(P&G Japan)による「さあ、この髪でいこう。#HairWeGo」キャンペーンが皮切りだったように思う。 世界中で、あらゆる業界が「自己解放」や「自己肯定」を軸に据えた活動を展開し、そこに高確率で採用され続ける「自分+○○」というキャッチコピー。一見、消費者の自己肯定感を高める万能薬のように見えて、実は、定義と意味を適切に説明するには難しすぎ

        酒と女の賞味期限

          祖母、グレる

          新卒の頃から使っていたカーテンが、引越し先の窓に合わなかった。 大学の卒業式と同時に一人暮らしデビューを果たし早7年。入居したその足で買った無印良品のドビー織ノンプリーツカーテンは、その後5回に渡る引越しについて来てくれる相棒となった。心底気に入っているわけではないが、新入社員から三十路になるまで、衣食住を共にした相棒を手放すことに抵抗感がある。 学生時代の家庭科の成績は2だったが、この手直しは自分でしてやりたい気分になり、父方の祖母に教えを乞うことにした。 祖母と一緒にカ

          祖母、グレる

          犬の呼吸と体温

          己はまさしく「母」になるための情性を内包していると察したのは、育ちかけのイヌを腕の中に抱いた時だった。 肺が凍て付く寒さの夜。愛車の中で仔犬を撫でていた。生後4か月のラブラドール・レトリーバーの背中には、ベルベットのようにやわらかい毛と、獣と呼ぶに相応しい硬い毛が混ざって生えていた。異なる手触りの体毛を、てのひらで揉み込むように撫でる。仔犬は、吸うのと吐くのとが同じ長さの規則正しい呼吸を繰り返す。だんだんと、吸う息が長く、吐く息は深くなり、やがて寝息に変わった。 春風が地面の

          犬の呼吸と体温

          28歳独身女性による“Z世代”体験レポ

          「Z世代」とは。 日本では一般的に、1996年から2015年の間に生まれた世代と定義される。 特徴として、デジタルネイティブ・スマホネイティブでSNSの利用頻度が高く、モノよりも体験価値を重要視し、プライベート優先でタムパ(タイムパフォーマンス)が悪いことは避ける傾向がある。と、言われている。 Z総研が2021年6月に発表した『Z世代が選ぶ2021上半期トレンドランキング』によると、流行語は「はにゃ?」、流行った食べ物は「地球グミ」、流行ったモノコトは「TikTok」だそう

          28歳独身女性による“Z世代”体験レポ

          記憶のにおい

          ハイラックスで海辺を走っていた。左手には、み空色の地平線が広がっていた。台風が通り過ぎた後の海辺には、波と戯れたい人々の頭がたくさん見えた。 遠目から見るとアシカのようだ。波に揺られて、たゆたうアシカ。生来の資質である遊泳能力を忘れ、心地好さそうに、ぷかぷかと波に身を任せる。同じ景色を過去にも見たことがあるかのような既視感を覚える。あの時わたしは、まだ子どもだったような――そんなことを考えていた時、もわん、と、雨の降った後、熱い地面で蒸されたドクダミのようなにおいがした。

          記憶のにおい

          ペーパードライバー、40,000キロ走る

          クルマを買った。40,126キロ走った。来年には、メーターのゼロがもうひとつ増えるだろう。 志村ユウカ、27歳。来週で28歳。 横浜市在住で、トヨタのハイラックススポーツピックアップ/RZN169Hに乗っている。 水冷直列4気筒エンジン 総排気量2,693cc 4790×1790×1795mm 日本では「大きいクルマ」に分類される車体だ。 このクルマを買う前は、スズキのジムニー/JA22に乗っていた。 24年落ち、走行距離15万キロ越えのおんぼろ軽自動車。 見た目もか

          ペーパードライバー、40,000キロ走る

          コロナ禍にキャリアアップ転職してみた

          転職活動を終えた。転職先を決めた。次の職場は、今の職場よりも忙しいだろう。 わたしは現在、都内にある映像プロダクションでプロデューサーとして働いている。エンタメ領域全般の動画広告が得意で、SNS運用と連動した視聴者参加型企画が好きだ。 従業員規模10名、所謂"小規模先鋭下請け"のプロデューサー。業務領域が幅広く、企画立案から営業、制作はもちろん、メディアアタックやプレスリリースの配信、ローンチ後の効果測定と、KPI未達時の言い訳資料作成代行まで、マルチタスクに働いてきた。

          コロナ禍にキャリアアップ転職してみた

          わたしと仕事の話

          「あ、」と一瞬でも心が動くものを作り続けたい。 「あ、」と感じた瞬間の心の衝動は、次の瞬間を生き続けるに値する理由になり得るから。 だからわたしは、広告をつくっている。 広告制作の仕事をはじめて5年が経過した。 酸いも甘いも噛み分けて日々実感することは、広告というモノの大多数は、その役割を終えたら忘れられ、消費されていくことに価値がある、ということである。 そこにどんな物語や苦労があろうと、大半のそれは視聴者にとってはどうでもいいことであり、時に褒め称えられ、時に炎上する己

          わたしと仕事の話

          死んだカラスと、ヒトの遺伝子

          ススキが生える海岸で空を見ていた。海辺の空は高く、波がテトラポットに当たって砕ける音がした。心地好い潮風に吹かれながらまどろんでいると、鳶がカラスに纏わりつかれているのが目に入った。 羽を大きく広げ、優雅な凧のように空を舞う鳶と、その周りを、しゃがれた声で鳴きながら激しく飛び回る二羽のカラス。その異様な様子に目を凝らすと、どうやら、鳶が幼いカラスを捕らえ、それを二羽のカラスが取り返そうと威嚇しているようであった。 数分の争いの後、鳶は遂に獲物を手放し空高く舞い上がっていっ

          死んだカラスと、ヒトの遺伝子

          死にたい衝動と、その瞬間に脳が思いついた死ぬ方法の記録

          2020年9月28日 わたしはいま、人生で一番死に近い場所にいる。 わたしは今、死にたくてたまらない。確実に死ぬ方法を考えては、死にたくなくて実施できずにいる。 この衝動をなにか別のものに当てたら生き続ける理由が増えるかもしれないと思い、noteに書き留めることにした。いつか、だれかの役に立つかもしれないし。 首つり腕を切って階段でベルトで首を吊った。最初はそこまで苦しくなかった。段々と視界が砂嵐のようになり、本格的に脳に酸素が回らなくなってきたころ、急に全身が痛くなり、

          死にたい衝動と、その瞬間に脳が思いついた死ぬ方法の記録

          境目に咲く

          目で見える「あの世」との境目、それが水際。 なぜこんなに惹かれるのだろう、と自分でも不思議に思うくらい、昔から水にまつわるものが好きだった。海、川、池、湖、沼、雨、水族館、水の部首を持つ漢字。まだ義務教育を受ける前、週末ともなると宮城県松島町の「松島水族館」へ遊びに行き、巨大で分厚いガラスの奥に創られた異世界に魅せられた。はじめて書いた卒業アルバムには、将来の夢は水槽を掃除する人になりたいと書いたことも覚えている。 古来、日本では、水は「あの世」のイメージと結びつけられて

          境目に咲く

          「東京大学×アート」プロジェクトに参加した話

          ある夏の暑すぎる日、オーバーヒートして働かない脳を急激に覚醒させたツイートがあった。 アートと研究…だと…? 近年よく見る、アートとプロダクトを掛け合わせて相乗効果を創出するマーケティング(例えば鉄道娘だとか)に興味を抱いていたわたしは、脊髄反射で参加申請のリプライを飛ばした。 高井伸さんの発信から参加させていただくことになった、この「東京大学×アート」プロジェクト。詳細は以下、高井さんの素晴らしいnoteをご覧頂きたい。 要するに、 無機材料科学の研究者/桂ゆかり

          「東京大学×アート」プロジェクトに参加した話

          5号車15番D席

          どこからか聞こえてきた咳払いの音に、車内の空気が緊張する。 禍々しい息苦しさに救いを求めて深呼吸を試みたけれど、マスク越しの酸素は頼りなく、ただ血液を循環させる以上の作用は求められなかった。 犯人捜しをしそうになる視線を無理やり車窓の外に向ける。水を含んだ綿のように膨れたねずみ色の雲に、心のささくれ立った不穏な部分をかえって刺激され、どうしようもなくなって視線をノートパソコンに戻す。 待機画面に映し出される青々としたアマゾンの写真には、「まぁ、落ち着きなって」と煽られている気

          5号車15番D席