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海底に沈んだiPhone11、10か月後に救出される

「石巻警察署より、お客様の契約されていたSIMが入っているiPhoneが取得されたとの連絡がありました。現在こちらのSIMはすでに新規発行済みのものかと存じますが、担当警察官の連絡先をお伝えします。」

2023年6月1日の昼下がり。0120から始まる見知らぬ番号からの着信があった。訝しみながら電話に出ると、契約している携帯電話回線であるNUROモバイルからの入電であった。
曰く、10か月も前に海の底に沈んだiPhone11が見つかったというのだ。

この入電に対して、驚いたことが3つある。

  1. NUROモバイルが、解約済みのSIMに対してもサポートをしてくれたこと

  2. 石巻警察署が、わざわざ水没したiPhone11を分解し、SIMを調べてNUROモバイルに問い合わせをしてくれたこと

  3. 見つからないと思っていたiPhone11が見つかったこと

まず、NUROモバイルと石巻警察署の愛とやさしさに感涙し、そのあと、iPhone11が見つかったことに驚いた。


間抜けなわたしがiPhone11を紛失したのは2022年8月26日、母方の実家である宮城県に帰省し、東松島市の月浜海岸でSUPをしていた最中である。

離れ小島に上陸するために接岸しようとしたその瞬間、想定以上に大きかった波を捉えることができずに転覆し、首にかけていた防水ケースごと水の底にiPhone11が沈んだ。

iPhone11が沈む2分前に撮影された写真

シュノーケルをつけて、クラゲに刺されながら海中を探しても見つからず、涙ながらにiPhone11を諦めたことを覚えている。

その帰り足で、石巻市内の家電量販店に立ち寄り新たなiPhoneを調達しようとしたが、ご老齢の店員に「SIMフリー」という単語が通じなくてまた泣いたこともよく覚えている。

新しいSIMカードを手に入れた直後に投稿したInstagram Stories

結局、SIMカードの再発行には3日かかり、帰省期間中にSIMカードを手に入れることは難しいことが発覚したため、NUROモバイルからのSIMカードの発行を待ちつつ、ヨドバシ.comでiPhone13 miniを購入した。
生活費の支払いで溜まりに溜まったポイント約30,000円分を使ったものの、手出しで50,000円ほどの痛い出費であった。


それから約10か月後の6月1日、海底に水没して久しいiPhone11の安否確認をすべく、石巻警察署の担当警察官に連絡をした。以下は、その際の会話の文字起こしである。



「こぢらのiPhoneを落どされたのは、どのあたりが分がるのすか?」

――(iCloudに残っていた、その日の最後に撮影した写真の写真から特定し)多分、月浜のあだりですね

位置情報は月浜漁港を示している


「月浜ね、はい、はい。ほんで、こぢらのiPhoneに、何がケースはつけでますか?」

――(iCloudに残っていた、iPhone11が写っている写真の写真から特定し)たしか、青の花柄のケースをつけてたと思います。カメラの部分まで覆うような形の。

2022年7月31日に友人と試着室で撮影した写真。青い花柄のケースがついている


「はい、青のケースですね。お花の。んで、iPhoneの色は?」

――(即答で)紫色です。あと、白いフチのついた防水ケースに入っている状態で落としたんです。

「紫、白のフチの防水ケースね…はい、確認でぎました!」


約10か月ぶりに聞く石巻弁にほっこりしながら、己のiPhone11が石巻警察署で保管されていることを確認する。
横浜に住んでおり、直接取りに行くことができない旨を伝えると、代引き配送で送ってくれることになった。

それから3日後に届いたものが、以下である。

石巻警察署から届いた小包
返送用封筒と受領証明書、そして丁寧に梱包されたiPhone11
緩衝材の後ろに透けて見える防水ケースとiPhone11

なんと丁寧な梱包だろう。こんなにも丁寧に梱包してくれるなんて、きっと石巻警察署の人々は神に違いない。

胸の高鳴りを抑え、震える指で開封する。

梱包材を取り除いた姿
防水ケースから取り出したiPhone11

ああ、なんということだろう。
海底に沈み、10か月後に陸に上がったiPhone11と防水ケースの姿である。
なんか、思っていたより遥かにきれいではないか!?

防水ケースの紐に絡まった漁獲網が、iPhone11の海底旅の苦難を物語る

想像以上に「落としたままの状態」のiPhone11を目の前にして、これはもしや、まだ使えるのでは?という考えが頭をよぎる。
しかしその幻想は、本体をひっくり返したその瞬間に、無残にも打ち砕かれた。

背面からは想像がつかない姿のiPhone11

潮を吹いた画面を見た瞬間、「あ、こりゃ死んでますわ」と声に出ていた。
歪に浮き上がった液晶の端は本体の浸水を意味しており、最早修理を検討する余地などなかった。

通常であればそのまま破棄するが、せっかく、NUROモバイルと石巻警察署の協力のおかげで海の底から還ってきた元相棒である。その雄姿をしかと目に焼き付けねばと、ケースを外してみることにした。

夫による悪質な悪戯の痕跡

ケースを外した瞬間、見覚えのない偽装免許証が入っていた。
ここで、石巻警察署の担当者との会話を思い出してほしい。

「はい、青のケースですね。お花の。んで、iPhoneの色は?」

――(即答で)紫色です。あと、白いフチのついた防水ケースに入っている状態で落としたんです。

「紫、白のフチの防水ケースね…はい、確認でぎました!」

石巻警察署の担当者との会話より

石巻警察署の担当者がこの偽装免許証を見つけた時どんな反応をしたのかと考えた瞬間、海底にしずんだままのほうがどれほどよかったか、と心底ゲンナリした。

潮の吹き方が夫の悪戯の痕跡を残している
膨張したバッテリー=完全なる死
心なしか色褪せたiPhone11

今回得た学びは以下の通りだ。

  • 海に沈んだiPhone11は10か月後に出てくる

  • この世には取得したiPhone11を警察に届けてくれる優しい人がいる

  • 防水ケースは10か月という時間と水圧に負ける

  • 石巻警察署とNUROモバイルは神対応


その後この文鎮をメルカリに出品したところ、水没したジャンク品にも拘らず、わずか30分で売れるという信じ難いことが起こった。

ジャンク品と明記したうえでの出品
誰がこのゴミを買うんだ
imei…?

しかし、ざんねんなことに購入者が支払い前に垢BANされたので、iPhone11は我が家の棚の守り神となっている。

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