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short‐short:普通の形
手を伸ばしている若い男性が視線に入った。
スーパーのペットボトル・コーナー。
視線はその二段目。
見ると、セール中とある。
彼は悔しそうに顔を歪めた。
車椅子だ。
腰を浮かし、支える手が震えるほど再び伸ばす。
届くことは無さそうだ。
彼はぐったりと車椅子に身体を預けた。
「これですか?」
声をかけた。
セール品のお茶、五百CC。
彼は驚いたように目をパチクリさせる。
「あれ
short-short:サンタ
「サンタさん来るかな?」
今日はクリスマス。
街は色づき華やいでいる。
娘の父親が失踪して1ヶ月が経つ。
彼は何時もこう言っていた。
「俺は猫みたいに死にたい」
そういう意味だとは思わなかった。
届けは出したけど諦めている。
「俺が被災したら1週間もたないだろうな」
震災の報を聞く度に彼は言った。
映像を見ながら、まるで我が事のように苦痛に顔を歪め、被災中の病人を思い胸を痛めた
short‐short:秋
「秋か」
路上に花が開いていた。
遠目でもわかる。
その様は飛び降りを想起させる。
コンクリートにまかれた脳漿。
手を合わせたい気持ちになる。
飛び降りというよりは落とされたと言った方がいい。
事件だ。
犯人は解っている。
カラスだろう。
主犯だろうが、共犯の可能性も。
今回は目撃していないが、いつぞや目にした。
被害者は「渋柿」。
路上に身を投げた柿はなんとも哀れだ。