小説_ヒーロー_W1280

ショート・ショート:ヒーロー

ある晴れた朗らかな日曜日。

道を歩いていると少年は力を得たと実感した。

花粉症に耐え抜いたご褒美だろうか。

理由はわからない。

実感としてある。

でも、少年は慎重だった。

今の力をもってすれば、くしゃみ一つ、放屁一発で町を破壊出来そうな感覚があるからだ。

「力ある所に責任あり。」

何かのアニメで聞いたことがある。

まず辺りを見渡す。

超感覚で一瞬で把握出来た。

(凄い!!)

同時に怪人はおろか怪獣もいないことがわかった。

困った。

大いなる力を発揮する相手がい無い。

鼻がムズムズする。

(まずい!!)

治りかけとはいえ、まだ完全に治ったわけではない。

半ズボンのポケットを探る。

(しまった!!)

点鼻薬を忘れた。

もうほとんどクシャミも収まったからティッシュしかない。

気になると尚のこと鼻がムズムズしてくる。

このままでは町が危ない。

限界だった。

少年は咄嗟にティッシュを握り、鼻に充てがうと念じた。

(ティッシュ・バリアー!!)

ティッシュは瞬時に広がり彼の周囲を覆う。

少しして爆音。

バリアーは衝撃波によって桜の花びらを伴って散り散りになる。

彼を中心として猛烈な爆風。

桜吹雪。

同時に舞い散るチィッシュの断片。

「うわ~綺麗!凄い!」

通りかかった女性二人がスマートフォンを構え写真を撮っている。

危ないところだった。

「さっき凄い音しなかった?」

「した、した!なんだったんだろ?」

「さ~?でも、綺麗だったね。あんなに凄い桜吹雪はじめて見た!」

呑気なものだ。

少年はニヒルに笑う。

ところが。

オナラがしたくなった。

先程コンビニで焼き芋を買って食べたばかりだ。

今のクシャミでガスが一気に圧縮されたのだろうか。

クシャミと同時に出ることもある。

これはマズイ。

何かで読んだことがある。

オナラで地球を救った物語。

地球を破壊してしまうかもしれない。

彼はサイコキネシスを無意識に使い空を飛んだ。

感動に浸る間も無く音速で舞い上がる。

飛行機が見えた。

「787だ!!」

彼は飛行機が好きだった。

しばし並走すると、コックピットに近づく。

パイロットと目があう。

思わず手を振る。

コックピットはパニック状態。

(ドリームライナーを巻き込んじゃう・・・)

少年は更に上空へ。

知らずバリアーを貼って酸素を生成しているとも知らずに成層圏へ。

もう限界。

出ちゃう。

彼は宇宙へ尻を向ける。


「ブレーク・ウィンドー!!」


英語塾へ通っている友達が自慢げに「オナラのことを言うんだぜ」と言ったのを覚えていた。

放屁。

それは巨大なソーラー・レイのごとく宇宙を凪いだ。


(地球を救ったんだ。)


彼は自宅マンションのベランダに降り立つと力が消え去ったことを感じた。

窓ガラスを叩くと、母親が驚いてガラス戸を開ける。

「え?どうしたの、遊びに行ったわよね!?」

「うん、行ったよ。面白かった!」

「あれ、お尻が丸見えじゃないの!何やってるのよ~」

その夜、ニュースでは地球の側を未観測の彗星が通り過ぎたと大騒ぎになっていた。

NASAでは原因を究明していると報じる。

彼は一人満足そうに笑うとクシャミを一つ。

「ティッシュ・バリアー!」

母が見る。

「なにそれ?」

少年は立ち上がると母にお尻を向けた。

「ブレイク・ウィンドー!」

放屁。

「こら~!・・・やったなぁ~クスグリ地獄!」

少年を捕まえると全身をくするぐる。

身悶えする少年。

ニュースではあのパイロットが映し出されている。

二人は笑い転げて気づかない。

「さて、ご飯にしよ」

「うん!」

平和は守られた。


おわり

最終的には”本”という形で手に取れるように考えております。