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光に堕ちた涙 -もしくは運命に踊らされた悲しみの系譜

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私の回顧録。 不定期で更新。
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#ノンフィクション

最終章 "人"という字に"夢"が寄り添って"儚い"と読みます

最終章 "人"という字に"夢"が寄り添って"儚い"と読みます

あの北新地220万の乱から嘘のように静かな日々が流れていました。
出稼ぎから帰ってきた風俗嬢とカロリを飲み、職業不詳の男性客とシャンペンを軽く飲み、全裸で踊れば着物姿の初老の女性に箸で"息子"を掴まれる。
ざっくり言えばこんな感じの毎日を過ごしていました。

この日もいつもと同じく"貧"と"富"を結び、資本主義の縮図を見せつけるかの如く走る阪急電車に乗り込みました。
握り締めたエナジードリンクがひ

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第19章 昼は大学生、夜は水商売!あたいはちょっぴり哀しい魔法少女なの!

第19章 昼は大学生、夜は水商売!あたいはちょっぴり哀しい魔法少女なの!

飛び交う高級酒、パラパラを踊る従業員、知らぬ間に消えた黒人とフリーザ様。
この異様な雰囲気の中、席の片隅で悪魔のような眼差しで飲酒する大学生、それが私でした。
黒人からの告白を受けたフリーザ様が消えて以降の数十分間は記憶にございません。
(※ただ単純に悲しく悔しかったので、目の前のシャンペンをひたすら飲み散らかす妖怪と化していた)

せっせと酒を注ぎ、オオスズメバチの巣みたいな髪型のホステスが歌う

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第18章 社畜って哀しいね。だってみんな優しい。

第18章 社畜って哀しいね。だってみんな優しい。

私とフリーザ(最高級のキャバ嬢)の高貴すぎる時間を無惨に奪い去った黒人(付き人の男性)。

私はその場の空気に耐えきれず、洗い場の奥に逃げ込みました。

ハイライトを口に咥え、火をつけました。
辛めの口当たり。
肺に流れ込む重厚感たっぷりの煙。
"労働者階級のタバコ"を肺全体で感じました。

「クヨクヨしてても何も変わらへん。切り替えよ」

私は清潔で健やかな花王のような人間なので、落ちた気持ちを

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第十七章 金持ちはアスベストより有害

第十七章 金持ちはアスベストより有害

A社長の席には取っ替え引っ替えキャバ嬢が次々にやってきました。

北新地の高級クラブのナンバーワン、ミナミのキャバクラのナンバーワン、某有名ゲームに登場したキャバ嬢も来店。

当店はお客様が1番!!の姿勢を貫く、良心的公共酒場なので、来店された一人一人のお客様のチャージ料金をきっちり計算しています。
(※実際は搾れるだけ搾り取れ、売り上げが全ての反社会的暴力酒場)

チャージ料金を計算したところ、

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第十六章 醜いアリは美女の残り香で"餌"を探す

第十六章 醜いアリは美女の残り香で"餌"を探す

見たことのないホステス、金持ち、従業員。
その誰もが義務教育はおろか、人としての尊厳を捨てたと言っていいほどの狂気に包まれていました。

店内のグラスがほぼ使われていたので、私はアライグマのようにせっせと目の前のグラスを洗っていました。

そこにやってきたのは付き人の男性(ほぼ黒人)。
「兄ちゃん、なんか飲みもんくれや。」
ここをスポーツバーと勘違いしているのでしょうか。
ちゃんと席につき、席ごと

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第十五章 貧乏人は二度死ぬ

第十五章 貧乏人は二度死ぬ

仮装した男たち。
耳障りな猫撫で声を発しながらシャンペンを飲むホステス。
トイレットペーパーのように金を使う成金。
困惑した表情の貧困大学生。

大阪カースト制度の模範解答がそこにありました。

私は震えた手つきでグラスを口に運び、宴の行く末を見守っていました。

金ピカに光るミラーボールがステージ上を卑猥にチカチカと照らします。
もくもくと焚かれたスモークからバニーガールの男たちが登場。
一斉に

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第十四章 泣いてない。いつもより炭酸が強いだけ。

第十四章 泣いてない。いつもより炭酸が強いだけ。

扉が開く音と同時に現れたのは"お金の愛人"社長Aさん。
強欲、支配、権力が融合し、服を着て歩いているような男性。
迎えにいった戦士たちも後に続きます。
その顔は、ミッドウェーに向かう兵士の"それ"でした

その後に雪崩れ込むキャバ嬢たち。

全員食べても歯応えすらなさそうなガリガリな腕、竹ぼうきのようなマツエク、大きく盛られた髪の毛は孔雀が求愛する時のようになっていました。

その後ろをついてきた

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第十三章 ホンマもんは、美女の匂いを嗅ぎながらティッシュ片手に米二合を喰らう

第十三章 ホンマもんは、美女の匂いを嗅ぎながらティッシュ片手に米二合を喰らう

兵隊の一員となった私。
心の自分が慟哭していました。
しかし、あくまでこの状況を楽しんでいるかのように振る舞わないといけません
(※慟哭とは声を出して激しく泣くこと)

ハイパーVIP来店イベントの警戒レベルは西日本豪雨以上。

"命を守るための最善の行動をとってください"と私の脳は全神経へと通達。

"今すぐに武器を持ち、戦いの準備をして下さい。目の前の戦いから逃げないで"と社畜メンタルは真反対

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第十二章 北新地 金と女としばしば社畜

第十二章 北新地 金と女としばしば社畜

大学と北新地を往復する生活を始めて約半年。
たばこはエコーからハイライトに変わったと言うのに私の心は半年前よりもっと荒んでいました。

"プロ"との初出勤、Jさんのバースデー、グラスと心が割れたあの日、そして若者の憤死。

それ以外にもクソ女に投げられたタバコの空き箱、頭からかけられたシャンパン、罵詈雑言とクレーム。
その一つ一つが、私の心を確実に痛めつけました。

二十余年前、大阪に爆誕した私。

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第六章 戦を終えた兵士は灰のように静かに眠る

第六章 戦を終えた兵士は灰のように静かに眠る

北新地の空に赤マルとエコーの香りを残しながら、店内へと足を進める私とJさん。

御堂筋のように真っ直ぐ歩く私と対極にJさんの足取りは、京都から琵琶湖へと抜ける山中越えを彷彿させるグニャグニャと奇妙な千鳥ルートで進んでいました。
(※山中越えはかつて走り屋達を熱狂させ、当時最強と言われたLHというオービスを導入させるに至った)

店内に帰るとグループ最強の喧嘩師KNさんがコーヒー牛乳を飲み、横には北

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第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

チクタク、チクタクとJさんのアルコール爆弾は確実に彼の体内を蝕み、意識を遠い別世界へと誘って行きます。

Jさんは奥の灰皿の前に置かれた空き瓶ケースに腰掛け、買ったばかりの赤マルに火をつけました。

「まだ序盤やのに酔うてもうたわ。」
"死神が振り下ろした鎌"、"アルコール時限爆弾"。
私は歯の裏まで出かかった言葉を吐き気を催しながらも胃の中に逆戻りさせました。

私は清潔で健やかな花王のような人

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序章

序章

今日は解体新書ではなく、私の回想録にしたいと思います。

大学時代、濡れた犬のような異臭を放つポロアパートで一人暮らしをしていた私は、授業と部活とアルバイトに殺されていました。

吸い殻が溢れるペットボトル、ゴミ箱はなく無造作に置かれたゴミ袋、酒の空き缶。
私の居住する部屋には、人間の荒んだ心が百貨店のように敷き詰められていました。

日本国民なので"健康で文化的な最低限度の生活を営む権利"を持っ

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