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序章

今日は解体新書ではなく、私の回想録にしたいと思います。


大学時代、濡れた犬のような異臭を放つポロアパートで一人暮らしをしていた私は、授業と部活とアルバイトに殺されていました。

吸い殻が溢れるペットボトル、ゴミ箱はなく無造作に置かれたゴミ袋、酒の空き缶。
私の居住する部屋には、人間の荒んだ心が百貨店のように敷き詰められていました。

日本国民なので"健康で文化的な最低限度の生活を営む権利"を持っていますが、金が無くてはできないことは義務教育を満期で出所しているので心得ていました。

生きるゼニを稼ぐため本当に様々な仕事をしました。
ガールズバーのキャッチ、セクキャバのボーイ、雀荘、びっくりドンキーなど。

どれもうまくいかず、潰れたり変なことなったりで長続きできませんでした。

といいつつも飯食う為には金を稼がないと生きていけないわけです。

せっせと働いていた雀荘は警察が入りクビになり、ハンバーグ屋ではつまみ食いがバレて生活のパイプライン"賄い"を追われ自暴自棄になった私は
「もうええわ!どうせ金ないんやったら、自分の好きなことを仕事にしたらぁ!!」
と自分を奮い立たせました。

当時一緒に住んでいた後輩が「おい、酒飲んで金くれる仕事あるらしいぞ」と甘ぁい話を持ちかけました。
「ほんまけ?んな夢みたいな仕事あんのか」と"日本史上最も偉大なタバコ"エコーの煙を吐き出し、目を輝かせる私。
「バーテンダーや」と彼は言いました。
「なるほど!行くなら大阪一番の街や!高級酒飲み街言うたら、北新地しかないやろが!!酒、女根こそぎいったらぁ」ということで頭の中がお花畑な私は、某アルバイトサイトで「北新地 バーテンダー」で調べて片っ端から応募しました。

数々の面接を受けるもうまくいきません。
それもそのはず、私の顔は「中東の武器商人」「反社会的顔」「呪われた血」と言われているくらい酷いものでした。
「どいつもこいつも無理ゲーや!あほんだら!!新しい顔と絶対的身分くれ」と行き場のない気持ちをぶつけていました。

後輩も僕に負けず酷い顔なので苦戦していましたが、一足先に決まりました。
北新地で受けたはずなのに、なぜか梅田東通りのバーに決まったとのこと。
不思議に思いましたが、先を越された悔しさでハンカチを噛み締めました。

そんな時一件の電話が私の元に来ました。どうやら、片っ端から応募していた新地のバーのようです。
とんとん拍子で面接に進み、いよいよ当日を迎えました。
ビシーっ!!と戦闘服(入学式前に買った死にかけのスーツ)を纏い、出陣しました。
カバンには履歴書、ポケットにはエコー、胸には大きな夢を乗せて、、、


北新地のネオンを横目に闊歩。
まるで自分がこの街を支配したかのような金持ち、横切るホステスの作り笑い。
何もかもが新鮮で何か自分がワンランク上の世界に、ぐいっと入り込んだ感覚になりました。

指定された店に着きました。
真っ黒の門、薄暗い階段、店は地下。
北新地とは思えないほど暗く、雰囲気が炭素量50%以上に思えました。
震える足で階段を降りていきます。
階段の横には多数の穴がありました。
ちょうど成人男性の拳1個分くらいの穴でした。
入り口の扉に手をかけ、大きく深呼吸しました。

"もうええやろ。なんとかなる。なるようになるいつか春は来るトラトラトラ"と自分に言い聞かせながら。

見た目よりやけに重い扉を開いて、店内に入り込みました。

その先が今後の学生生活を大きく変える"シベリア"への停車駅なしの特急列車だということも知らずに、、、

ー続—

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