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第19章 昼は大学生、夜は水商売!あたいはちょっぴり哀しい魔法少女なの!


飛び交う高級酒、パラパラを踊る従業員、知らぬ間に消えた黒人フリーザ様。
この異様な雰囲気の中、席の片隅で悪魔のような眼差しで飲酒する大学生、それがでした。
黒人からの告白を受けたフリーザ様が消えて以降の数十分間は記憶にございません。
(※ただ単純に悲しく悔しかったので、目の前のシャンペンをひたすら飲み散らかす妖怪と化していた)

せっせと酒を注ぎ、オオスズメバチの巣みたいな髪型のホステスが歌う浜崎あゆみに手拍子し、社長のタバコに火をつける20代発展途上貧困大学生がそこにいました。
気づけば時計の針は5時に差し掛かっていました。
「ほな、チェック」
突然の会計
なんの計算もしていませんでした。
太平洋戦争開戦時の真珠湾を彷彿される奇襲攻撃を受けて、我々従業員は総動員で計算作業に取りかかります。
(※9割以上は、泥酔しており戦力にならないどころかシラフでも計算すらままならない義務教育不受講者)

会計は220万円
鳥取県だったら200坪くらいの土地が買えそうな値段。
私の時給の2200時間分です。
とてつもない羨望憎悪の渦が音を立てながら巻き起こる中、私は会計が書かれた伝票を社長に渡しました。
社長は乱暴に伝票を受け取り、支払い金額を確認したあと真っ黒の鞄に手をかけました。
中から出てきたのは、"出処不明"の札束2セットと3セット目から数えた数十枚の金。
私はまるで生後2日目の赤ん坊を抱くように丁寧に頂戴した後、泥酔した社員とともに数えました。
「丁度です。ありがとうございました。」
宛名なし金額のみの如何にも怪しい領収書を社長に手渡しました。
「ありがとう」
社長は人差し指と中指の間で領収書を受け取り鞄に仕舞い込みました。

店の外はもう明るくなっており、日光が""を照らし出すかのように降り注ぎました。
社長はホステス数人とタクシーに乗り込み、北新地の船大工通りを真っ直ぐ、ただ真っ直ぐと進んでいきました。
時刻の割に異常なほど薄暗い階段を降り、やけに重い扉を開けて店内に戻りました。
散乱するおしぼりシャンパンの空き瓶が先ほどまでの"戦闘"の激しさを物語っています。
私はさっきまで社長が座っていた席に腰掛け、ハイライトに火をつけました。
高貴重厚感のあるが肺の奥底まで届き、疲労と悲しみを引き連れて口から出て行きました。
あと数時間後には大学の授業に出席しなくてはならないと考えると、このまま北新地ごと核の業火に包まれても良いとまで思いました。
ハイライトをもう一度吸い込み、吐き出した時、机の上に置かれた残りカスとなったシャンペンが目に入りました。
私は気の抜けたシャンパンをグイッと飲み、やけに固いタイムカードを押し、退勤しました。

社畜を照らす太陽、少し路面が濡れた船大工通り
アルコール香水タバコの臭いが、札束シャンペンの景色を思い出させます。
「ふぅー、今からは大学生♪単位と仲間達に囲まれながらワンダフォーなキャンパスライフに迎うのよ!だって私は昼は大学生、夜は水商売の魔法少女なんだから♪」
と自分を励まし、全集中の呼吸と言わんばかりに私は社長がタクシーで走った真っ直ぐな道を、蛇行しながら進み南海電車に向かっていくのでした。
(※実際は、核の業火に包まれてしまいたいと願う大貧困大学生がタバコと酒の匂いを吐き出すだけのチンカスの呼吸ゴミの型)

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