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絵本と櫻子と王子さま

☆☆ショートショート
「王子さまは、少女の手に触って呪文を唱えました、”トロトロトローリ”すると凍り付いていた全てのものが一瞬の内に溶け始めたのです・・・」お母さんは櫻子の表情を見ながら絵本のページをめくりました。

夜8時になると子ども部屋にやってきて、櫻子が寝るまで絵本を読んでくれていたお母さん。櫻子はその時間が大好きでした。

学生時代に演劇部にいたお母さんは、物語のさまざまな登場人物を声で上手に演じてくれました。

ある時は王子さま、ある時はおばあさん、時にはカボチャになったり、狼になったり臨場感たっぷりに読んでくれていたのです。

櫻子が本を読むのが好きになったのは母の影響が大きいと思います。

小学校に入ったばかりの頃から「本の虫のさくらちゃん」と言われるくらい図書館にしょっちゅう通って本を読みあさっていました。

「櫻子ちゃんは、いっつも本を持っとるねー、いっつも本のタイトルが違う」友達からそう言われて櫻子は、「だってね、本は私の友達だから」と答えていました。彼女は本からたくさんのことを学んでいました。


小さい頃から本に囲まれた生活を夢見ていた櫻子は今、町の図書館で図書館司書として働いています。仕事の中で一番好きなのは本の読み聞かせです。

この日、櫻子は自分が作った絵本を読み聞かせする事にしました。本好きが講じて、自分で創作するようになったのです。

集まった人たちは子どもたちが中心ですが中には娘さんに連れられたおばあさんもいました。

オリジナル絵本のストーリーは、空に住む悪魔の仕業でカエルになってしまったお姫様を農民の青年が日照り続きの畑から助けてあげて、森の池にかえしてあげると、魔法が溶けてそこに美しいお姫様が表れたと言うメルヘンな物語です。タイトルは「キャサリンの池」

お母さん譲りの櫻子の読み聞かせは聞く人の心を捉えます。

「こんなに日照りが続いていたら、君もきっといつか干からびてしまうね、ようし、少し遠いけれどあの森の中のお城の噴水に君を連れて行ってあげる、あそこなら湧き水があるから、きっと君も元気になると思うよ

そう言って青年は、水に浸した蓮の葉にカエルを挟んで森に向かいました。暫く走った所に崖があって、青年は転びそうになりました・・・」

その時、絵本を見ていたおばあちゃんが言ったのです。

「あなた危ないわよ、崖がある、気を付けて」と、櫻子も見ていた子どもたちもそのおばあさんの大きな声にびっくりしました。

おばあさんのご主人はハイキングが好きでおばあさんと二人で紅葉の名所に行った時に、滝の近くで足を滑らせて大怪我をしたことがありました。おばあさんの脳裏にそのことがよぎったのかも知れません。

付き添いでの娘さんもびっくりしました。最近少し物忘れが多くなっていたお母さんは、意思表示でうなずくことは出来ましたがほとんど話さなかったからです。

ところが櫻子さんの真に迫った読み聞かせで思わず声を出したのです。

おばあさんは絵本の中の青年に、若い頃のご主人の姿を重ねていたのかも知れません。

娘さんの話によると、資産家の令嬢だったお母さんが家族の猛反対の中、家庭教師をしていたご主人と結婚したと言うのです。

櫻子さんは物語の村の青年とお姫様がそのことをきっかけに結ばれて、青年が王子さまになったと言うハッピーエンドだったのが本当に良かったと思いました。

櫻子さんは、あらゆるものに優しい気持ちで接することが出来れば、必ず誰かが見ていて、いつか幸せを手にすることが出来るんだと言う事をこの絵本で伝えたかったのです。


その日、櫻子さんは病気をして言葉が上手く話せなくなって、リハビリをしているお母さんに電話をしました。

「お母さんに教えられた通り、気持ちを込めて読み聞かせを頑張ったらね、奇跡が起きたの、話せなかったおばあさんから声がでたのよ」と伝えると、お母さんは電話越しに、「よ・か・っ・た・ね・櫻子」とぎれとぎれに思いを答えてくれました。


櫻子は、これからは今まで以上に読み聞かせを頑張らないとと思ったのです。

【毎日がバトル:山田家の女たち】

《絵本は伝わりやすいけん、のめり込むんよねー》

リクライニングチェアーでくつろいでいるばあばと。


「一番言いたいことは何なんかなー、物語の根幹は」

「人やものには優しくせんといかん、そうしよったら天が見よってええことがある言う事なんよー」

「絵本は人に伝わりやすいわいねー、ほじゃけん大人も子どもものめり込むんよ、おばあさんの声が出て良かったわい、お母さんもうれしかったろうね」

私も絵本から学ぶことがたくさんあります。


【ばあばの俳句】


この秋のトレンド羽織りペアルック


ばあばはブティックから送られてくるカタログを隈なくチェックして好きな着こなしはイラストに描きます。秋冬号ではこのコートが気に入ったらしく早速描いていました。親子でコートのペアルックです。

素敵だけれど私としてはやっぱり、デザインは違った方嬉しいです。(笑)


最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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