マガジンのカバー画像

家族のおはなし

21
祖父母(故人)、両親、子ども3人(私、弟、妹)。18歳で一人暮らしを始めるまで、この7人で暮らしてきました。思い出や、家族について思うこと。
運営しているクリエイター

記事一覧

平成最後のお盆に

平成最後のお盆に

お盆は帰省していました。妹も帰って来ていて、両親と4人でのんびり過ごすことができました。

13日がお盆の入り。4人で夕食を食べ始めた直後、父だったか母だったかが、「あ」と声を上げました。「仏壇を拝まなくちゃ」と。慌てて全員で仏壇のある茶の間へ。順番に線香をあげ、祖父と祖母に「おかえり」と声をかけました。

実家には仏壇があり、花やご飯はいつも絶やしません。ただ、お線香をあげ、鐘を鳴らしてきちんと

もっとみる
父のアップルパイ

父のアップルパイ

年の瀬に、父がアップルパイを焼いた。

父がアップルパイを焼くのは三度目だといい、もうすっかり手慣れたものだった。カスタードクリームは前日につくったほうがなじみが良くなる、というのも学びのひとつ。小鍋を使ってちゃちゃっとつくっていた。

ただ、パイシートは三度目にしてようやく使い方がわかったらしい。ずっと説明書きを読まずにきたらしく、「そのまま伸ばしてください」とあるものを1枚ずつ剥がそうとしてい

もっとみる
【妹・3】変わること、変わらないこと(優柔不断さ)

【妹・3】変わること、変わらないこと(優柔不断さ)

最近、妹がものすごく優柔不断なことに気がついた。メニューを決めるときでも、外出するかどうかでも、かなり迷う。先日は家電選びに付き合って、けっこう大変だった。

「優柔不断だったのね」と言ったら、「知らなかったの?」と返された。

今まで妹の性格にまったく気がつかなかったのは、私も優柔不断だったからだ。それが仕事を通じて少しずつ改善されてきたので、妹のことが見えてくるようになったのだろう。「えーっと

もっとみる
【母・5】バームクーヘン

【母・5】バームクーヘン

先日の母の誕生日にはランチとケーキをご馳走したのですが、母の日にはここ数年バームクーヘンを贈っています。

母の日ばかりでなく、下手をすれば誕生日もバームクーヘン。困ったときのバームクーヘンです。旅先から送ることもあって、数年かけて結構いろいろなバームクーヘンを食べたのではないかなぁ、と。

5年くらい前、たまたま帰省の手土産をねんりん家にしたらえらく喜ばれて、それで、バームクーヘンが母の大好物だ

もっとみる
【母・4】折々の葉書

【母・4】折々の葉書

お盆の帰省から数日後、母から葉書が届いた。「夏が終わったとお父さんが嘆いています」「誕生日プレゼントをありがとう」と、そんなことが書かれていた。

携帯電話を持っていない母は、メールの代わりに、葉書を送ってくれる。誕生日やクリスマスなど、イベントのときに送ってくれることもあるけれど、たいがいは「なんでもないとき」に届く。遠出したときの写真をプリントしたものだったり、桜の名所で買った絵葉書だったり。

もっとみる
【家・4】両親のジャムづくり

【家・4】両親のジャムづくり

「なんて雑な切り方なんだ」

「じゃあ自分でやればいいじゃない」

「瓶はいくつ必要なの?」

「…(聞いていない)」

「そんなに砂糖入れるの!?」

「レシピに書いてあるんだから当たり前だ」

このお盆に、桃ジャムをつくっていた両親の会話。そんな言い方しなくても、とか、一言多いよ、とか、久しぶりにハラハラしてしまった。でも、そんなふうに気を揉むことも懐かしいなぁ、と思って、キッチンの声を黙って

もっとみる
【家・3】ドライな家族

【家・3】ドライな家族

誰かに家族のことを話すとき、よく「ドライな家族」と言っている。実は私の中では、「ドライ」という言葉とうちの家族はあまり結びつかないのだけれど。

大学で上京して一人暮らしを始めたとき、同級生が「ホームシックで毎晩電話している」と聞いてほんとうにびっくりした。わが家は「便りがないのは良い便り」ってやつで、現実的な用事がないかぎり連絡を取ることがなかったからだ。母から「ちゃんと食べてる?」なんて電話が

もっとみる
【祖父・2】旅行は義務

【祖父・2】旅行は義務

祖父の定年後、祖父母はよく旅行に出かけていた。万里の長城で撮られた写真は、2人が亡くなった今でも実家に飾られている。

「おじいちゃんって、旅行が好きだったんだねぇ」となにげなく母に言うと、「義務感でね」と返ってきて驚いた。旅行が義務とは一体…?

詳しく聞いてみると、祖父は「仕事をしている間はどこへも連れて行けなかったから、定年後はあちこち連れていく」と決めていたそうなのだ。祖母への感謝の気持ち

もっとみる
【妹・2】ジャージ姿の妹(と、着替える私)

【妹・2】ジャージ姿の妹(と、着替える私)

実家での妹の部屋着は、ジャージである。高校生くらいから着ている、年季の入った赤いやつ。彼女はほんとうに出不精で、隙あらば寝ているので、朝から晩までジャージで過ごしていることも珍しくない。

一人暮らしが長くなった今でこそ1日部屋着で過ごしている私だけれど、実家にいたころはそんなこと許されなかった。たとえ外出する予定がなくても、朝起きたら必ず着替えるようにと言われていたのだ。

だから、大学生になっ

もっとみる
【父・1】舟和の芋ようかん

【父・1】舟和の芋ようかん

週末、妹と舟和の芋ようかんを食べた。近所のスーパーでたまたま売っていて、妹が即座にカゴに入れたのが面白かった。子どものころから好きだったもんね。変わらなさに、ちょっと笑ってしまった。

舟和の芋ようかんは、父の東京出張の定番土産だった。みんなで喜んで食べていたけれど、だれよりも好きだったのが妹。彼女のために2切目をガマンすることさえあった。

一度、妹が帰省土産に買って帰ったそうだ。そうしたら、実

もっとみる
【母・3】決死の自動車免許

【母・3】決死の自動車免許

「おかあさん、免許を取ろうと思うの」

そう言われたときのことを、なぜだかよく覚えている。私は中学2年生で、沖縄への修学旅行を明日に控えていた。友だちがいなかった私にとって、修学旅行なんてこの上なく憂うつな行事だった。母は、そんな私の気持ちは当然お見通しだったと思う。

お風呂に入ろうと脱衣所で着替えていると、突然声をかけられた。「免許を取る」と。いきなりすぎて、「えっ…ああ、そうなの」くらいの反

もっとみる
【私・2】家族は狂っている

【私・2】家族は狂っている

江國香織さんの『流しのしたの骨』という小説が大好きだ。中学生くらいのときに初めて読んで以来、ずっと手元にある。今でも半年に一度くらい読み返すから、登場人物が知り合いのように思える。

一言でいうと、家族の物語だ。メインストーリーがあるわけではなく、主人公に恋人ができたり、ハムスターを飼い始めたり、年末に餃子をつくったり、両親と4人きょうだいの日常がおだやかに語られていく。でも、どこかしらへんなのだ

もっとみる
【妹・1】空気のような存在

【妹・1】空気のような存在

「空気のような存在」という言葉があるけれど、妹といると、家族って本当にそうなんだなぁと感じる。

妹とはわりに仲がいいと思う。まあまあ近くに住んでいて、お互いまあまあ時間に都合がつきやすい仕事だということもあって、2ヶ月に一度は会っている。どちらかの家に泊まりに行って、だらだら飲んで…という流れ。

何をするでもなく、というのがいつものことで、ぼーっとテレビを見ていたり、漫画を読んでいたりすること

もっとみる

【祖母・1】よろけた足

祖母が亡くなったのは、高校生のときだった。病気が見つかった祖母は、何度か入退院をくり返していたと思う。退院してくると、「ゆっくりしていて」と心配する周囲をよそに、母の家事を手伝ってくれていた。

私はほんとうに家事をしない子どもだった。リビングで寝転んで本を読んでいることが多かったのだけれど、ごろごろする私を祖母がまたいでお掃除か何かをする…という光景がいつものことだった。私が小さかったころから、

もっとみる