宮﨑征男

上田アンサンブル・オーケストラ団長。violaどうぞよろしくお願いします🙇

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柴崎友香 『続きと始まり』 集英社

 今日1日の出来事は、そのほとんどが記憶から時間とともに薄れ通り過ぎていく。ましてや、今朝通勤途中ですれ違った車を運転していた女性が何を考えていたかなどは思いもよらない。そんな一人ひとりの生活に流れていく時間や、家族、職場など私たちの周りにいる人たちの物語である。  2020年3月から2022年2月までの出来事で構成され、2011年の3.11震災の記憶や忍び寄るコロナ禍に翻弄されつつも日常生活をおくる3人を中心に描かれる。  大阪に生まれ滋賀で暮らす2人の子育て中でパートタ

    • スターバックスの魅力

      スターバックスにはどうも足が向いてしまう魅力がある。店内の席に座るにはちょっとした気構えがいるのでもっぱらドライブスルーが多い。 連休初日に草刈り鎌の補修で少し離れた金物屋に行った。帰りに暑かったので冷たいものを飲もうと運転しながら考えた。セブンイレブンでマンゴーアイスを買って家で食べるかクーポン20円を使ってアイスコーヒーにするか。距離はあるがコーヒーゼリーに長門牧場のソフトクリームがのったのがいいか。信号を二つか三つ過ぎた時にスターバックスが閃いた。覚えるまでに時間がか

      • ベートーベンと云えば

        ベートーベンと云えば「ダダダダーン」や「ジャジャジャジャーン」。副題の「運命」で有名な交響曲第5番ハ短調作品67。八分休符の音なき音から始まるフレーズは曲全体のモチーフだ。とくに古典は作品番号で呼ばれ題名が最初からあるわけではない。「運命」も後々にネーミングと曲がセットで自然と広まった。副題の印象が強すぎると先入観なしに作品に対峙したい人には厄介である。しかし同時期に並行して作曲された第6番へ長調作品68「田園」は自身で楽譜にタイトルを書いた標題音楽である。1808年12月ベ

        • 《批評》という語のイメージ

          《批評》とはある対象の価値、それをどのようにとらえるかという基準を示すひとつの指標である。誰もが「そうだ」と首肯できる根拠が感じられないと独りよがりのただの感想に埋没してしまう怖さがつきまとう。  芸術作品でも人物でも、またある時代でも森羅万象すべてが批評の対象になりえる。批評は批判や批難ではない。批評しようとする側が、その対象を語りたいと選ぶ時からすでに批評は始まっている。批評家はなぜそれを選択したのかという「自分」とまず向き合うことになる。このように色々な人が様々な場面

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        柴崎友香 『続きと始まり』 集英社

          花や音楽のある生活

          「同じ空がよく見えるのは心の角度しだいだから」言わずと知れた、きゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」のワンフレーズだ。風景や花、美術や音楽また文芸作品なども含めて森羅万象そのもの自体は何も変わらないが、受け手側のこちらの余裕やそのときの体調や気分、それこそ「心の角度」しだいで見え方や聞こえ方、印象の残り方が大きく変わってくる。 芥川賞作家の柴崎友香さん『続きと始まり』の一場面で、車で通勤する女性が毎日同じ場所から見える街並みの風景がどのように心に映るかで、その日の見え方を自

          花や音楽のある生活

          時間の感覚

          めまぐるしく時間が過ぎ、短時間で多くの情報を処理するように急かされる。長い小説は速読でかっ飛ばし、映画も2時間の作品なんてもってのほか、音楽でもクラシックは敷居が高く交響曲などは長すぎる。学校でも授業中にフラフラと歩き回る光景はあたりまえ。予備校の映像授業は15分単位が主流となって市場に出回り始めている。 日々の生活の中でゆっくりと芸術作品に対峙する余裕は欲しくても、なかなかそうにはなり難い。昭和時代の人気アニメ「巨人の星」では、ピッチャー星飛雄馬の渾身の一球がバッター花形

          時間の感覚

          笑いについて

          笑顔は心地よい。うれしさが伝わるし、楽しさを表現できるし周りの空気を和ませてくれる。一日の始まりも一日の終わりも、ましてや人生の最初にしても、そして人生の終わりにしても。産声は当の本人は泣いていても、周りはすべて笑顔だし、最期は本人は笑顔で周りは泣き笑いでいきたいものだ。とても難しいことでもあり、でもとても簡単で単純なことでもある。 喜怒哀楽は感情の直接表現で、「ことばの世界」は追いついていかない。ただその感情をなんとか言葉で表現しようとして、たくさんの微妙な色合いが込めら

          笑いについて

          アン・ビーティ『この世界の女たち』河出書房新社

          望遠鏡を覗くと遠くの世界を見渡すことができ鳥瞰することができる。反対に時間や空間を微小化し限りなく小さく焦点をあてた顕微鏡から見る世界もまた逆に小さければ小さいほど広大な世界を映す。顕微鏡の世界もまた一つの宇宙でもある。 アン・ビーティの描く 『この世界の女たち』は、日々の生活に流れる時間をそれぞれの登場人物の視点から同時進行に追体験することができる。読者自身のよりどころとする生き方と照合しつつ、脚下とは別の視点、人生の照顧を教えてくれる。 感謝祭の特別なディナーの準備を

          アン・ビーティ『この世界の女たち』河出書房新社

          間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』早川書房SFマガジン2024.02

          100年後には今生きている人はこの世には誰一人も存在しない。ただ一人生き延びた「わたし」を除いては。 不老不死として脳の融合手術を受け、マシンの身体と脳が融合した人工人間の「わたし」。ヒトの人たる由縁が揺らぐ、記憶の断片が走馬灯のように浮かび、雪片のような淡く儚い記憶が次々に蘇る。誰にあてて書くのか。自分の1世紀前の家族について。 生きていることがつらくて、自らいったん終止符を打つと決意した。安楽死ではなく脳の融合手術を医師の勧めで受けた。2123年に遥か昔の家族について

          間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』早川書房SFマガジン2024.02

          チャック・パラニューク『インベンション・オブ・サウンド』早川書房 2023.1 電子書籍版

          この小説はかなり衝撃的だ。本物よりも本物らしく聞こえてしまう「悲鳴」が彼方から聞こえてくるホラーサスペンス。 太古から生き物に宿る音の記憶が想起され、ヒトの脳に共鳴して導き出される世界に交錯する二人。ゲイツ・フォスターは17年前に行方不明になった娘をひたすら探し続ける私立探偵。雑踏の数多の人の容姿をコンピュータのエイジプログレッションシステムを使い顔認証して、自力で犯人を捜して復讐することを誓う。大都会で交錯する向かいの高層一室に住む音響技師のミッツィ・アィヴズは「悲鳴」の

          チャック・パラニューク『インベンション・オブ・サウンド』早川書房 2023.1 電子書籍版

          街中ピアノ。

          NHKで放送されている「空港ピアノ」とか「駅ピアノ」は日常生活に音楽が同化していて見ていて飽きない。Youtubeでもたくさんの街中ピアノがアップされていて、世の中には上手に音楽に付き合っている人が多いのに励まされる。 Play me, I'm yours. というキャッチでも広まったようにも捉えているが、別の潮流でも身近にピアノを置きたいという様々な期待感が醸成されて日本でも定着してきている。 かくいう自分も、2020年春から蔓延しているコロナ禍で外出や諸活動や、他者と

          街中ピアノ。

          音声入力やフラッシュ暗算に脳ミソが追いつかない

          1.音声入力  文字を記録するには手で書いたりワープロやコンピュータに打ち込み記録する。長い年月に風化しないためには印刷術や、インクの原料、紙のすき方、またコンピュータの記憶媒体を再現できるかなどの課題の克服がある。  古代からの遺品の中には木簡や陶器や石などに刻んで年月を乗り越えて目にすることが出きるものもある。  裁判記録や国会などで速記という特殊技能で記録をとったり、音声や映像で記録をとることもある。  最近のコンピュータの進化やAIの進化で、話した言葉をそのまま文字に

          音声入力やフラッシュ暗算に脳ミソが追いつかない

          同じ空がよく見えるのは心の角度しだいだから

          言わずと知れた、きゃりーぱみゅぱみゅの「つけまつける」のワンフレーズで日本中をまさに駆け巡ったことで記憶に残っている。これ以上でもこれ以下でもないのだが、実はとても奥が深いことばだ。  最近単行本になった柴崎友香さんの『続きと始まり』のなかに、毎日車で通勤をする橋を通り過ぎる風景、同じ風景がどのようにその日には見えるかで自分の体調や心象をはかる、という場面があった。  風景でも、花でも、また音楽でもそのもの自体は不変で何も変わってはいないのだが、こちら側の見たり聞いた

          同じ空がよく見えるのは心の角度しだいだから

          本を読む 書評を書く

           本を読むには流儀があるようにずっと思っていた。思っていたというよりは思い込んでいた。だから登場人物とか場所とか日時など、また行間を読むなど、その本のテーマも含めて自分がしっかり読めていないまま読み進めていくと、すごく取り残されていると思ったり、このあたりで読むことをやめてしまおうと通り過ぎてしまうこともあった。  そういうジレンマをいつも抱えていたが最近少し考え方感じ方が変わってきている。  柴崎友香さんの『続きと始まり』という本が新聞の連載を終え単行本になった。一つひとつ

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          『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣

          間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」が掲載された。源流の一滴が大河となり大海につながるように、静かに全世代に読み広がると思う作品に年の瀬に出逢えた。受賞作だそう。表現方法がとても繊細で新鮮です。 SFマガジン2024.2月号(2023.12.25発売)

          『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣

          『ニッポンの思想』(増補新版)佐々木敦

          思想の系譜を平明に紐解く 時代を伴走する著者ならではの視点で思想の系譜と受容側の思想への期待の交差を描く。その時代の空気感が思想に色を添えてしまう不易と流行を読み取れた。文庫化されるまでの系譜が新たに補足され、改めて「君ならどう思うか」と一人ひとりに質問を投げかける好著。 (miya) 『ニッポンの思想』増補新版(ちくま書房)

          『ニッポンの思想』(増補新版)佐々木敦