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ベートーベンと云えば

ベートーベンと云えば「ダダダダーン」や「ジャジャジャジャーン」。副題の「運命」で有名な交響曲第5番ハ短調作品67。八分休符の音なき音から始まるフレーズは曲全体のモチーフだ。とくに古典は作品番号で呼ばれ題名が最初からあるわけではない。「運命」も後々にネーミングと曲がセットで自然と広まった。副題の印象が強すぎると先入観なしに作品に対峙したい人には厄介である。しかし同時期に並行して作曲された第6番へ長調作品68「田園」は自身で楽譜にタイトルを書いた標題音楽である。1808年12月ベートーベン自ら指揮をした初演プログラムは「田舎の生活の思い出」と名付けられ、初演の『ウィーン新聞』の公演広告にも記されているそうだ。田舎の自然の風景や生活を音楽で積極的に描写しようとした。

作品番号で名づけられ分類されるクラシック音楽だが、たとえば音楽会のプログラムでは次のように紹介される。作品番号、調性、拍子、形式など整然として、また補足した一つ二つの曲の逸話が何気なく作品の自立を支えている。動物や植物のように整然と分類されまず名前が付けられると音楽であってもまずは市民権を得る。

交響曲第3番 変ホ長調「英雄」作品55
第1楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の3拍子 ソナタ形式
第2楽章 アダージオ ハ短調 4分の2拍子 葬送行進曲 小ロンド形式
第3楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の3拍子 複合3部形式
第4楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の2拍子 自由な変奏曲の形式 パッサカリア

ベートーベン(1770~1827)が生きた時代は、今のように国境線が明確な国家という意識よりは、君主制に対抗する共和の象徴ナポレオンという複線の構造をしていました。フランス共和制を掲げ、世界史の教科書にも印象的な「自由」「平等」「博愛」の萌芽がヨーロッパの変革期を牽引した時代です。フランス革命後の新たな潮流を好意的に捉えていたベートーベンは若き将軍ナポレオンに献呈しようと「英雄」を作曲しました。諸説はありますが、第2楽章は葬送行進曲としても有名です。日本で「英雄」は1909年(明治42年)11月に上野の奏楽堂で第一楽章のみ初演され、1920年(大正9年)12月には全曲が同じく奏楽堂で演奏されました。
(注)上田アンサンブル・オーケストラ 創立20周年記念第16回定期演奏会 2024年5月12日 上田市交流文化芸術センター サントミューゼ大ホール プログラムより (注1)

演奏される曲の選曲自体がまず批評的である。演奏された音楽もまたその出来次第で批評の対象になる。比較対象となる演奏が数多あるからだ。同じ曲でも演奏家が違うと平凡にもなり逆に名曲にもなる。作曲家の評価、作品の評価また演奏された曲の評価、演奏した者の評価と批評の対象は限りなく拡がっていく。また時代背景や国家、民族性などと音楽との関係などにも派生する。実際日本で年末恒例の「第九」や「運命」の浸透性や波及にはプロパガンダの側面も見逃せない。(注2)

演奏自体の技術的な面を含めた評価は評論家や批評家のことばが頼りになる。自分で感想を言おうとしても、いいとか悪い程度の相手にうまく伝えきれないことばしか浮かんでこないのだ。管弦楽の演奏は形而上でありどのように感得していいか受け止めていいかも分からない。

ところで、標題がつけられていない曲はどのように捉えればいいのだろう。どのように語り継がれ演奏し続けられているか。ベートーベン交響曲第7番は標題やタイトルがことばにできない一例だ。音楽が深淵すぎて一言ではなかなか形容できない曲である。演奏者にも聴取者にもインスピレーションを多く与える交響曲第7番は映画やコマーシャルなど多くの場面の挿入曲として映画監督や映像作家に一部のフレーズが使われている。それぞれ独立した作品のある場面で共通して同じ曲がBGMや場面の重層の効果が期待されている。

それらを集約した記録がウィキペディア(Wikipedia)にある。どのような場面でこの曲が使われているのかを集めて鳥瞰すると曲のもっている共通性が垣間見える。言い尽くされた批評とは別に具体例の積み重ねもまた実証的な評価である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
BGMなどに使用
·アベル・ガンスの映画『楽聖ベートーベン』Un grand amour de Beethoven (1936年)では、巨木を見上げるショットに第2楽章の主題が重ねられた。
·TVドキュメンタリー『COSMOS』にて使用されていた。
·映画『未来惑星ザルドス』にて、第2楽章が使用された。
·アニメ『ドラゴンハーフ』 - OVAのエンディング曲として使われている「私のたまごやき」は第4楽章をアレンジしたものである。クレジットは「作曲:Ludwig van Beethoven、編曲:田中公平
·『恋愛小説 (2004年のテレビドラマ)』にて、玉木宏扮する主人公がレコードをかけるシーンにて使用された。
·テレビドラマ『のだめカンタービレ』 - オープニングで、第1楽章第1主題が使用されている。劇中のオーケストラも演奏していた。また、テレビアニメ『のだめカンタービレ』のエンディング曲として使われているCrystal Kayの『こんなに近くで...』には第1楽章第1主題のフレーズが隠されている。
·ソフトバンクモバイル - 「予想外編」のCMで使用されている。
·日本ハムシャウエッセンのCM(2008年暮頃)
·サラ・ブライトマンが第2楽章のメロディに合わせて"Figlio perduto"の題名で歌った(アルバム"Classics"に収録)。
·映画『愛と哀しみのボレロ』ではジョルジュ・ドンが第4楽章に合わせて踊る場面がある。
·アニメ『銀河英雄伝説』では第4楽章がドーリア星域会戦や第8次イゼルローン攻防戦のシーンに、33話「要塞対要塞」において、第1楽章第1主題が用いられ、劇場版新たなる戦いの序曲では第2楽章が使用されている。
·映画『落下の王国』では第2楽章が主題曲として用いられた。
·映画『ノウイング』では第2楽章が用いられた。
·アサヒビール「ザ・マスター」CM曲(2010年)[1]
·映画『愛のむき出し』では、第2楽章が用いられた。
·映画『英国王のスピーチ』では、第2楽章のかなり遅いバージョンが用いられた。
·映画『神々と男たち』では、宣伝用媒体(トレイラー)で第2楽章が用いられた。映画本編では未使用である。
·ディープ・パープル"Exposition"で第2楽章が用いられた。
·アニメ『ハーメルンのバイオリン弾き』では12話「旅の終わりに」において、第2楽章が魔曲として用いられた。
·テレビドラマ『外事警察』では、第2楽章が用いられた。
·PCゲーム『WarThunder』では、メニュー画面で第2楽章が用いられた。
·映画『X-MEN:アポカリプス』では、第2楽章のアレンジ版が用いられた。
·年末ジャンボ宝くじ テレビCM(2020年)

映画や映像にBGMや曲をのせるのは効果音とはまた違って趣や色を添えるので場面の表現にはなくてはならない形容の音として捉えることができる。その一場面にストーリー性を付与するので、目にし耳にする受容者の感性、内省的な化学反応に委ねる表現方法として機能する。音楽や効果音は深層の記憶を想起させる魔力がある。また、それぞれの時代を映す音楽は時代の投影だしその時代に好まれる音楽や作られる音楽は時代の要請で生まれたものである。ベートーベン交響曲第7番は感性の中でもとくに精神性に訴える何かを想起させる力を内包する。

ベートーベン交響曲第7番2楽章、ことばによる紹介を試みる。

アレグレットは後世に標題を持たない第7番の中でも「不滅の2楽章」と評される。天の啓示を主旋律とするならば、対旋律の内声部、中低音のリズムは漆黒の小宇宙の黙示録か。人類の体内に宿る遥か彼方の記憶の断片が想起される。微視的な顕微鏡の中にこそ壮大な宇宙空間が広がっている


(注1)プログラムPDF ※リンクを張れないため未掲
(注2) 新聞記事でたどる日本のベートーヴェン受容(2) 1928 年から1945 年まで
 メタデータ
言語: jpn
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公開日: 2023-03-31
キーワード (Ja):
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作成者: 越懸澤, 麻衣, Koshikakezawa, Mai メールアドレス:
洗足学園大学紀要
URL https://senzoku.repo.nii.ac.jp/records/2682
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