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しなやかに、生きていく。ドキュメンタリー映画『ドストエフスキーと愛に生きる』スイス・ドイツ、2009年


ウクライナのキエフ出身、老翻訳家スベトラナ・ガイヤー。スターリン時代のソ連で父親が粛正され、その後、キエフはドイツ軍に占領された。けれど、彼女はドイツ語とフランス語ができたので、ドイツ軍の通訳を務め、ドイツ軍の撤退と共にドイツに移住。その後、奨学金を貰って大学に進学し、結婚し、子供を産み、ドイツの大学でロシア語講師を務めながら、ロシア文学の翻訳をする。映画撮影時は83歳。現役の翻訳家で、一家の主で家事も完璧。

ただただ、すごい人生です。ソ連(ロシア)でもドイツでも彼女は異邦人だけれど、それをものともせず大変な時代を生き抜いた人。あの時代、彼女のような人たちはきっとたくさんいて、彼女はその中でも幸運な一握りの人だったのでしょう。

友達のユダヤ人はナチスに殺されたけれど、「ドイツの偉大な文学者たちは、ドイツという国そのものではない」と彼女はいいます。それでも、負い目は感じているとのこと。そうでしょうね。

敵国人だった彼女に奨学金を与え、救ってくれたお礼にと、一生涯かけてロシア文学をドイツ語訳する彼女。映画の完成を待たず、彼女は天に召されたけれど、きっとあちらでも文学を片手にご健在なのではないかと思います。

余談ですが、この映画のパンフレットは、すごく作りこまれています。外国語の翻訳という仕事について、それからドストエフスキーという作家とその作品について、ちゃんと若い人に紹介するステキな作りになっていて、愛があります。最近は、気に入った映画のパンフを買おうと思っても、中身が薄くてがっかりすることが多いので、今回はとてもうれしかったです。

邦題:ドストエフスキーと愛に生きる
原題: Die Frau mit den 5 Elefanten
監督: バディム・イェンドレイコ
製作:スイス・ドイツ合作(2009年)93分

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