見出し画像

工場労働の思い出

新卒で2年あまり働いた会社から逃げ出し、その後2年ほどひきこもっていたが、その間に発達障害の診断を受けるなどした。それから障害者雇用で、地方のもの作り工場で5年ほど働いていた。その思い出からいくつか取り出してみよう。

(1)通路の柱にお声掛けする人

社会人になっても相手と目を合わせて「あいさつ」ができない人間だったので、工場の通路に向かってあいさつすることにした。毎朝通るから、だれもいない通路でも大声であいさつを繰り返していた。

(2)ピタゴラスの定理

工場ではパイプ(エレクター)工作をすることもある。パイプを専用のカッターで切断したり、コネクタで接続したりして、棚や台車などちょっとしたものを従業員が自作するのだ。私もつくったし、現場の係長も工作していたのをみかけた。ある時、係長から声をかけられた。パイプで四角い枠をつくりたいが、枠だけだとひしゃげるから対角線にもパイプを入れたい。30cm x 40cm の枠なのだが対角線の長さを計算してほしいというのである。私は三平方の定理を思い出して50cmと答えたのだが、中学数学をふつうは思い出せないし、デスクにあるパソコンなりスマホなりで公式を検索しないことに驚いた。ちなみに計算するまでもなく、3対4対5というのは最も有名な直角三角形の比率でもある。

(3)安全標語

毎年、安全標語を書かされる。私は誰よりも早く提出していた。なぜかというと毎年まったく同じ標語を提出していたからである。しかし誰も気がつかなかった。いい加減なものだ。

(4)ポケモン

管理職の人が毎日現場のみんなを集めて連絡事項を伝えてくれる。たいていは工場内で起こった災害の報告などである。ある日、課長が「これも言うまでもないことかもしれないが……」といった感じでいつもと違った話を始めた。「明日から〝ポケモンGO〟が配信される」「以前から伝えているように工場内はスマホ禁止だ。持ち込んでプレイなどしないように」というのである。うーん、なんだか、子供みたいな注意だが、しないよりしたほうがいいとの判断だったのだろう。

(5)学歴

それまでで自分自身の学歴を意識したのは、大学受験で志望校を決めるときぐらいで、偏差値が高ければ就職のチャンスが広がる程度にしか考えていなかった。しかし、高卒の人しかいない工場で障害者雇用で働く今となっては大学の学費はまったく必要なかったな……という感想をつぶやくほかはなかった。別に自分以外が高卒だからどうとは思わなかった。工場では目の前の作業があるだけだ。それを私よりうまくこなせる人の方が多い。学歴や能書きなんて何の関係もないのである……。と思って過ごしていたら、実際には学歴に劣等感を持つ人もいたようで、中には「おい!大学!ww」などと私を呼んでからかう人もいた。からかわれようとからかわれまいと、職場であり、相手は目上の人なので、なんと呼ばれようと気にせずに具体的な用件に反応していたのだが、本当に学歴に劣等感を持っている人ってオフラインで実在するのだなあとそのときはじめて思った。

(1263字、2024.05.18)

#毎日note #毎日更新 #毎日投稿 #note #エッセイ #コラム #人生 #生き方 #日常 #言葉 #コミュニケーション #スキしてみて

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,955件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?