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唄う小説を描きたい。美しい物を書きたい。 雨の日に。

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    まだ18年しか生きていない青の人生と思考

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空へ、海より。

  僕にはギターを弾く友人がいた。ギターのために指先の爪は綺麗に手入れしてあり、冬でも逆剥け1つ無く、引き篭っているせいで病的に白く美しかった。写真を撮ることが好きな僕とは正反対で外に出ても燦燦とした太陽には当たらず、狭い小道でギターを弾くような、風情のある、なんというか、器用なやつだった。   カメラが好きな僕としては、小道でギターを弾く美しい少年なんて勿体なさすぎる被写体だった。おかげでカメラロールには彼の錆れない美しい姿と音色とで沢山だった。6本の弦と己の手で演奏して

    • あの町の隠れ家

        少し離れた薄暗い小道を行った先、まるで忙しい日常から隠れているようなカフェを見つけた。  撮影も、会話も禁止。菓子と珈琲とお酒を楽しむ場所。だからこの手記はお店を出て記憶を辿りながら書いている。聞こえるのは店主が豆を挽く音、グラスがぶつかる繊細な音。店内は深夜1時を思うような暖かい光と影。私の目の前には辛口のジンジャーエール。錆びた不格好な瓶に、ドライフラワー。   記憶を辿りながらといいながら、私は意外にも慌てている。あのショコラテリーヌの感動を忘れたくなくて。

      • 夏を追いかけて

          八月の始まり、私は使い古した木蘭色のボストンバッグに必要なだけの着替えとそれ以上の書籍、曲がり癖のついたイヤホンを無造作に詰めていた。あとは自信が無いだけの飾るアクセサリーと、デジタルカメラ。     これから故郷、北海道へ帰る。東京とは違って、瑠璃を思うような爽やかな風と、牧羊犬がうたた寝をしそうな心地よい陽の光。慌ただしい都会に踊る迷子を忘れ、瞳を閉じれば木々が囁く声と、走れば追いつきそうなほどのどかな電車の音に耳を澄ませることに胸を躍らせて。   飛行機か

        • 黒い願い

            心のビーカーから想いが溢れる時、心臓がドクドクと痛む。血液にも波を打つ。   羽毛の枕が破けた時みたいにふわっと飛び出るのではなく、ドロドロ、ゴツゴツと。   透明な水みたいに、さらさらして美しいものでは痛まない。形を持ち、大きくて、眠れそうなほど温かい。けれどそれはとても重たくて、こぼれ落ちる度に鈍痛が走る。水銀がガラスに触れる時に音がしそうなくらいには繊細だった。誰かへの贈り物を守るためのハート型の緩衝材がとても重たそうに見えてしまう。 嗚呼、私も人間だったの

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          1本

        記事

          1- 存在

          ……冬の初めに薄く凍った湖の上。 その凍った湖はとっても水が綺麗で、氷にはよく晴れた暖かい空が映えて、幻想のような綺麗な花が透き通って湖底に咲いてるみたい。 けれどそこは棘が刺さるような痛みを運ぶ寒さで、周りには何も無い。歩いていればいいかもしれないけれどやっぱり滑ってしまう。歩くことさえ難しい時がある。立ち止まってもいいと思うけど。 少し衝撃が走ると穴が空いて、冷たい湖の中に沈んでしまって、心から、芯から冷える場所。 誰にも気づかれなくて、息も詰まる。声も届かなくて

          1- 存在

          Breathed sing

            何処から間違えてしまっていたのだろうか。何故結ばれた心を斬られなければならなかったのか。   笑いあえていたのはたったの2年だけだったのにふと浮かぶ記憶は色濃くて、今は話すことも出来ないのに自然と笑みが零れるほど幸せな時間だった。   雪が積もった針葉樹の梢にある鳥栖みたいに、中で眠る小さな希望がいつ振り落とされるかわからないような。儚くて温かい残酷さ。その希望達は風に散った。   無様だった。強がっていた自分が滑稽だった。人に愛されるのも、人を愛するのも、才

          Breathed sing

          18の記憶

          貴方が見てくれていることを思って。 最後の手紙だと思って書きます。 私が綴った手紙を大切に 机にしまっていてくれたこと、愛していました。   貴方が残した300の日々には きっと一生分の幸せと 二度とはない僥倖がありました。   それなのに 出会いが一瞬だったように、 さよならも一瞬でした。 貴方が傍から居なくなってから、 『嫌い』『これでよかった』『いなくなれ』 『別れてすぐ他の女に行く奴』 『本気じゃなかったんだ』 沢山の悪口を垂れ流していた私でしたが、 きっ

          18の記憶

          花に心臓

             「おはよ。」 その声とドアが開く音を聞いて、白い壁に囲まれた、春の風が揺らす木漏れ日が映える窓から瞳を移した。植物図鑑が整頓された棚の横のパイプ椅子に彼は腰掛けた。日々変わらない景色に彼は、僕が飽きてしまうほど華を齎してくれる。今日も片手に花束があった。今日は橙色のガーベラだった。   「今日も来たの?昨日も花を持ってた。」   「何回来たっていいだろ。」 いつか僕に渡してくれた花も廃れてしまうとは忘れて、花瓶の花の寿命を足した。ほんの少し、僕がほんの少しだけでも

          花に心臓

          水辺の楽譜

          カメラ好きの私が過酷な旅をした。   特急に乗って2時間ほどの所に、行き慣れた町があった。海、それと町も綺麗だから、毎年風鈴が揺れる頃に1人で足を運ぶ。   今年もその季節になって、古びれるも美しい駅の同じ時間、同じ特急、同じ席を取る。ノースリーブのワンピースに麦わら帽子、サンダル。 それとお気に入りの______ あ、忘れた。   お気に入りのカメラを家に忘れてきてしまった。鼓動が大きく鳴ったあと、気づかなかった蝉の声が鼓膜を叩いた。出発まであと10分。絶対に取りに

          水辺の楽譜

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          失恋したあなたへ。 あの日々はながーいながい 夢を見ていただけってことにしようよ。 忘れない夢だってある。 だからその記憶だけたった1つ、ポケットにいれて。 だからほんとは、 なーんにもなかったの。 そういう事にしておこうよ、ね。

          残らない写真

          いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。 イヤホンから心地良い音が流れ、 古い窓の隙間から吹く冷たい夜の兆しが 体温をほどよく下げていた。 外はもう日が沈み、 淡い桃色に濃い青が溶けて紫の残照があった。 ______いつぶりだろう、 こんなに心奪われる宙の表情を見たのは。 私の寝起きには勿体ないくらいだった。 せめて自分の記憶のシャッターを切ろうと 空と目を合わせて瞬きをする。

          残らない写真

          非日常

          土曜日の友人との待ち合わせ。 日差しが強くなる前の、風の心地いい新緑の日だった。   1本の木を囲んだベンチに腰をかけて、 イヤホンを取り出して、自分のノートも取り出した。 風も心待ちにしていたのか 私のノートをパラパラとめくり、 木漏れ日が淡く仄かにそれを照らした。 気に入った言葉を書き留めたノート。 時々見開きに収まるほどの短編。 気に入ってくれたのだろうか。 この文書はノートにはない。 何も無い、けれどささやかな幸福を持ち合わせた 今日と出会った思い出に。

          非日常

          “足”の行先

            薄暗い入口から続くアンティークな階段を上った先にあったとても小さなカフェ。他の目的地があったのだが、なぜかその入口を見た途端、勝手に方向転換した自分の足。カフェのドアを開けるまで明るい道は無いが店内は大きな窓から陽が差し込み、1人で来るのに何の抵抗もない場所だった。ドアを開けてから何を頼みたかったのかを忘れていることに気づいた。 『お好きなお席にどうぞ』と通された時ほど自由な時はない。1人できて、好きな席に。しかも人も少なく、居たとしても読書をしている知的な方ばかりだっ

          “足”の行先

          陽炎と雨

            日曜日になった午前2時のことだった。暇潰しのつもりで始めた優しいSNSで、或る画家の方に出会った。     恋人と電話を繋いでおきながらその恋人は瞼を閉じて夢へ。その日はやけに呼吸が静かだった。     地球が起きているかも分からない真夜中。その画家の方と本の話になった。書物や作家にとても詳しい方で、装丁にも興味のある方だった。旅先の宿でぼんやりしながら読書すること、森博嗣の短編を勧めてくれた。スカイ・クロラシリーズだとかと共に。   神保町を巡るだけでもかなり楽しいと

          陽炎と雨

          2人だけで

          毒とさえ呼ばれてしまった人類の発明品。 それでも私は必要としたい。 朝まだき、空を見上げること。 燦爛の白昼夢に、彩りを齎すこと。 彼誰時、隣に居ない貴方に心から触れること。 この小さな画面越しに この先もずっと記憶を残します。 _________その走馬灯を貴方が貰ってくれませんか。   決して美しくないかも知れません。 蜻蛉のような儚い寂しさが靡くだけかも知れません。   それでも、どうか私と、   孤独にならない旅をしてください。

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          わからない

          誰にも愛されないことも辛いけど 全員に平等に愛されることも辛かった 『広く浅く』と『狭く深く』   周りに愛されることを覚えてしまうと、それに気づく度にあいされてしまった自分に嫌悪と怒りが芽生える。 その浅さにはもちろん 本物の愛など含まれていなかった。   この人しかいない。 そう思った人も人間であれば裏切ることもある。 自分の想いと相手の想いが矛盾していれば いつでも起こりうる。 起承転結で展開された在り来りな小説も 驚いて腰を抜かすほどだ。 いつまでも結びには辿り

          わからない