ame

唄う小説を描きたい。美しい物を書きたい。 雨の日にいらして下さい。

ame

唄う小説を描きたい。美しい物を書きたい。 雨の日にいらして下さい。

    最近の記事

    固定された記事

    空へ、海より。

      僕にはギターを弾く友人がいた。ギターのために指先の爪は綺麗に手入れしてあり、冬でも逆剥け1つ無く、引き篭っているせいで病的に白く美しかった。写真を撮ることが好きな僕とは正反対で外に出ても燦燦とした太陽には当たらず、狭い小道でギターを弾くような、風情のある、なんというか、器用なやつだった。   カメラが好きな僕としては、小道でギターを弾く美しい少年なんて勿体なさすぎる被写体だった。おかげでカメラロールには彼の錆れない美しい姿と音色とで沢山だった。6本の弦と己の手で演奏して

    スキ
    21
      • 花に心臓

           「おはよ。」 その声とドアが開く音を聞いて、白い壁に囲まれた、春の風が揺らす木漏れ日が映える窓から瞳を移した。植物図鑑が整頓された棚の横のパイプ椅子に彼は腰掛けた。日々変わらない景色に彼は、僕が飽きてしまうほど華を齎してくれる。今日も片手に花束があった。今日は橙色のガーベラだった。   「今日も来たの?昨日も花を持ってた。」   「何回来たっていいだろ。」 いつか僕に渡してくれた花も廃れてしまうとは忘れて、花瓶の花の寿命を足した。ほんの少し、僕がほんの少しだけでも

        • 水辺の楽譜

          カメラ好きの私が過酷な旅をした。   特急に乗って2時間ほどの所に、行き慣れた町があった。海、それと町も綺麗だから、毎年風鈴が揺れる頃に1人で足を運ぶ。   今年もその季節になって、古びれるも美しい駅の同じ時間、同じ特急、同じ席を取る。ノースリーブのワンピースに麦わら帽子、サンダル。 それとお気に入りの______ あ、忘れた。   お気に入りのカメラを家に忘れてきてしまった。鼓動が大きく鳴ったあと、気づかなかった蝉の声が鼓膜を叩いた。出発まであと10分。絶対に取りに

          スキ
          4
          • 14.4%

            失恋したあなたへ。 あの日々はながーいながい 夢を見ていただけってことにしようよ。 忘れない夢だってある。 だからその記憶だけたった1つ、ポケットにいれて。 だからほんとは、 なーんにもなかったの。 そういう事にしておこうよ、ね。

            スキ
            1

            花言葉 「遠距離」

            7月、向日葵が咲いた____ 花言葉通り、太陽だけを見つめる。 しかし 海の向こうの知らない所では、 それは偽りだった。 静かに咲く矛盾に気づけなかった。     今年は向日葵が綺麗に咲いてしまった。

            スキ
            2

            残らない写真

            いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。 イヤホンから心地良い音が流れ、 古い窓の隙間から吹く冷たい夜の兆しが 体温をほどよく下げていた。 外はもう日が沈み、 淡い桃色に濃い青が溶けて紫の残照があった。 ______いつぶりだろう、 こんなに心奪われる宙の表情を見たのは。 私の寝起きには勿体ないくらいだった。 せめて自分の記憶のシャッターを切ろうと 空と目を合わせて瞬きをする。

            スキ
            4

            非日常

            土曜日の友人との待ち合わせ。 日差しが強くなる前の、風の心地いい新緑の日だった。   1本の木を囲んだベンチに腰をかけて、 イヤホンを取り出して、自分のノートも取り出した。 風も心待ちにしていたのか 私のノートをパラパラとめくり、 木漏れ日が淡く仄かにそれを照らした。 気に入った言葉を書き留めたノート。 時々見開きに収まるほどの短編。 気に入ってくれたのだろうか。 この文書はノートにはない。 何も無い、けれどささやかな幸福を持ち合わせた 今日と出会った思い出に。

            スキ
            1

            “足”の行先

              薄暗い入口から続くアンティークな階段を上った先にあったとても小さなカフェ。他の目的地があったのだが、なぜかその入口を見た途端、勝手に方向転換した自分の足。カフェのドアを開けるまで明るい道は無いが店内は大きな窓から陽が差し込み、1人で来るのに何の抵抗もない場所だった。ドアを開けてから何を頼みたかったのかを忘れていることに気づいた。 『お好きなお席にどうぞ』と通された時ほど自由な時はない。1人できて、好きな席に。しかも人も少なく、居たとしても読書をしている知的な方ばかりだっ

            スキ
            4

            足りなかったもの

              平凡な高校2年生。複雑な家庭環境にある訳でもなく、話せるくらいの友人もいる。特別成績も悪くはなくて、周りの足を引っ張るほど鈍くもなかった。    ……それでも、愛されている心地はしなかった。愛に飢えていた。生きているのが楽しくなかった。将来の夢も、生きがいもなかった。けれど誰かのために生きるほどの勇気もなかった。 「いっそ消えてしまおう」   そう思って今このロボットの前に立っている。失う物なんてなかった。拾おうともしなかったから。何かやりたい事が見つかってしまっても

            スキ
            1

            陽炎と雨

              日曜日になった午前2時のことだった。暇潰しのつもりで始めた優しいSNSで、或る画家の方に出会った。     恋人と電話を繋いでおきながらその恋人は瞼を閉じて夢へ。その日はやけに呼吸が静かだった。     地球が起きているかも分からない真夜中。その画家の方と本の話になった。書物や作家にとても詳しい方で、装丁にも興味のある方だった。旅先の宿でぼんやりしながら読書すること、森博嗣の短編を勧めてくれた。スカイ・クロラシリーズだとかと共に。   神保町を巡るだけでもかなり楽しいと

            スキ
            2

            2人だけで

            毒とさえ呼ばれてしまった人類の発明品。 それでも私は必要としたい。 朝まだき、空を見上げること。 燦爛の白昼夢に、彩りを齎すこと。 彼誰時、隣に居ない貴方に心から触れること。 この小さな画面越しに この先もずっと記憶を残します。 _________その走馬灯を貴方が貰ってくれませんか。   決して美しくないかも知れません。 蜻蛉のような儚い寂しさが靡くだけかも知れません。   それでも、どうか私と、   孤独にならない旅をしてください。

            スキ
            1

            勿忘草

              気がつくと見慣れた場所に帰ってきていた。心地良いかと言われるとそうではなくて、むしろ探し物が見つからない時みたいにむず痒い思いをした。それにこの姿では歩くのが少し難しい。文句は言えないけど。   太陽が散るのどかな昼下がり。暇潰しに日課を始めた。『日課』というのは、人間観察のことだ。この能力に長けていると生活まで見える時がある。ここにいなければそんな能力使うまでもないのに…。朝からごみ拾いをする老人、脇道を散歩する親子、友人と居ながらも携帯から目を話さない高校生。ここか

            スキ
            1

            わからない

            誰にも愛されないことも辛いけど 全員に平等に愛されることも辛かった 『広く浅く』と『狭く深く』   周りに愛されることを覚えてしまうと、それに気づく度にあいされてしまった自分に嫌悪と怒りが芽生える。 その浅さにはもちろん 本物の愛など含まれていなかった。   この人しかいない。 そう思った人も人間であれば裏切ることもある。 自分の想いと相手の想いが矛盾していれば いつでも起こりうる。 起承転結で展開された在り来りな小説も 驚いて腰を抜かすほどだ。 いつまでも結びには辿り

            スキ
            2

            巡る幸色

              何時のまにか私の一番好きな季節、秋は姿を消し、初雪が降って独特なあの冬の匂いが強くなっていた。   今年の秋ははやかった。唯一風情に触れたと思えるのはアパートの近くの公園の銀杏並木を見たことだけだった。普通、落ちた銀杏を絨毯に見立てて写真を撮ったり、踏んで音を楽しんだりするだろう。そんな余裕も私には無かった。食欲の秋、芸術の秋、読書の秋と、時間と心 _______ 共に余裕のある人々は云う。秋に着ようと楽しみにしていたピスタチオカラーのワンピースをさらりと羽織るような洒

            スキ
            3

            狐の嫁入り

               2限目の日照雨。    強い雨だったのに、優しかった。11月の温い陽射しが、何処からかふとやって来た雫を輝かせる。教室もその時だけ異様に明るくなった。    廊下側に座る私は先生の話も最初から聞いてないのに、その音1つしない天気雨に気付ける訳が無かった。誰かが天気雨、と呟いたその声でやっと窓の向こうが天泣の真最中であることを知った。慌ただしく動いていた手を止めてじっと外を眺めた。前にいつ天気雨に見舞われたか思い出せなかったが、久しぶりだったことは確かだった。 『あ

            スキ
            3

            藍色の涙

            君のおかげで全部が美しく見えたんだ。 色が分からない友人がいた。白黒の世界だという。色覚異常者だからと言って突き放す必要なんてない。それに友人も私といることを楽しんでくれているようで、よく話をした。 色がわからないからか、こんな質問をよくしてくる。 『ねぇ、青ってどんな色なの?』 どんな色かと聞かれても…その色に定義がある訳じゃあるまいし、そもそも言葉で表現するには難しい。だから、世間一般的な青が使われる時を考えて返事をした。   「聞かれても難しいけど…青は悲しい時と

            スキ
            3