黒い願い
心のビーカーから想いが溢れる時、心臓がドクドクと痛む。血液にも波を打つ。
羽毛の枕が破けた時みたいにふわっと飛び出るのではなく、ドロドロ、ゴツゴツと。
透明な水みたいに、さらさらして美しいものでは痛まない。形を持ち、大きくて、眠れそうなほど温かい。けれどそれはとても重たくて、こぼれ落ちる度に鈍痛が走る。水銀がガラスに触れる時に音がしそうなくらいには繊細だった。誰かへの贈り物を守るためのハート型の緩衝材がとても重たそうに見えてしまう。
嗚呼、私も人間だったのか。安心した。
“君が愛した人”
考えたこともなかったけれど、その存在を認識する程溢れるものが大きく、さらに重たくなって私の感情を支える地面にヒビが入っていく。
君は誰かに好きだと言ったことがあるの?
愛していると伝えたことがあるの?
温かすぎるその瞳で見つめたことがあるの?
綺麗なその手で触れたことがあるの?
その広い胸で抱きしめたことがあるの?
優しい笑顔で照らしたことがあるの?
1度気になってしまえば離れないもので、私から少しの体温を奪うこの深夜に、その想いはついに涙になってしまった。
君以外は目に入れたくもないと思う程今は君しか見えていない。いつか君が私に最愛の眼差しを向けてくれるのではないかと、今でも有り得ない期待で心を弾ませてしまっている。心が前に独り歩きして私を置いていく。孤独、そして可憐に。
やっと言葉にできた1部の愛さえ君には届かなかった。全ては言葉にできない。容易く言葉にしたくない。だから君に優しく触れてみたかった。守りたかった。なんとかして言葉以外で伝えたかった。
けれど、全てを伝えてしまったら私のビーカーは真空にまでなってしまいそうで。そして君のことも薄めてしまいそうだ。
“なんかもう、いいや”
私の胸の隅に少しだけあった黒い歪から出るこの悪魔は、強がって口にした「嫌い」よりも鋭く、私の想いを突き刺した。
これが本当に正しい愛なのか。恋なのか。
それを自分に問うている時間が悔しい。けれど私はまだ君色の天国から抜け出せない。たとえその色が冷ややかになってしまっても。
君を想う心が潰されてしまいませんように。
君を想う夢が消えてしまいませんように。
君を想う手が冷たくなりませんように。
君を想う足が向かう場所を誤りませんように。
君を想う瞳が他の色に染まりませんように。
君が想う誰かが、君を傷つけませんように。
あのね、 _______
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