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陽炎と雨

  日曜日になった午前2時のことだった。暇潰しのつもりで始めた優しいSNSで、或る画家の方に出会った。
 
  恋人と電話を繋いでおきながらその恋人は瞼を閉じて夢へ。その日はやけに呼吸が静かだった。
 

  地球が起きているかも分からない真夜中。その画家の方と本の話になった。書物や作家にとても詳しい方で、装丁にも興味のある方だった。旅先の宿でぼんやりしながら読書すること、森博嗣の短編を勧めてくれた。スカイ・クロラシリーズだとかと共に。
  神保町を巡るだけでもかなり楽しいと謳う豊かで美しい方だった。古書を買うとメモが挟まってたりすると言う。その景色を勝手に想像して、勝手に感動していた。

  ふとメッセージを送る手が止まった。突然、不思議な空間に居ることに気づいた。不快じゃない、寧ろ快い不思議な空間だった。この人と話しているとまるで書物に触れている様だと思った。暖房の付いていない暗い部屋で、3枚の毛布に包まる、いつもと何も変わりない午前2時。なのに、この人と話すだけで違う世界に居る気がした。この世の者じゃなくなった気もしたけどそれさえも心地良かった。本当に何も分からないけど、誰かに話したくなる。そんな時間をくれた。



穏やかで微睡む真夜中。
僅か30分ばかりで幽世と見紛う。
もしかすると眠っているのは私の方かもしれない。
夢に居るのはこの私かもしれない。

その画家の方は陽炎のような掴めない
“作家”になりたいと仰った。
霞のような存在にと。
 

私が 遣らずの雨 になれば
貴方は消えず、留まってくれるでしょうか。

雨が降ってしまえば
儚く消えていってしまいますか ________

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