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“足”の行先

  薄暗い入口から続くアンティークな階段を上った先にあったとても小さなカフェ。他の目的地があったのだが、なぜかその入口を見た途端、勝手に方向転換した自分の足。カフェのドアを開けるまで明るい道は無いが店内は大きな窓から陽が差し込み、1人で来るのに何の抵抗もない場所だった。ドアを開けてから何を頼みたかったのかを忘れていることに気づいた。

『お好きなお席にどうぞ』と通された時ほど自由な時はない。1人できて、好きな席に。しかも人も少なく、居たとしても読書をしている知的な方ばかりだった。私はステンドグラスの窓が光る1番隅の席に腰かけた。満員電車だとか、スクランブル交差点に踊らされて疲労した足はきっとここに来たかったのだ。
とろみのある濃厚な白桃ジュースと、綺麗な正方形の胡桃が合わせられたブラウニーが運ばれてきた。合計で1500円ほどで、自分の住む街に比べたらなんと高いことかと思ったが旅先で遠慮することもないと思った。ただ口内炎があることが悔しい。

  大きな窓から見える街並みとまた黄色のステンドグラスの街灯が異国にいるような雰囲気を漂わせる。こう、ここはどこだろう、となるのではなくて……ふんわり。私の知る街だけど、勘違いしてしまいそうな、絵画の中に急に飛び込んだ感覚だった。

  人が増えてきた。きっとこの席を楽しみに来た常連の方もいるだろう。賑やかになるのも悪くないけど、いつまでもここで隠れていて欲しいと思える場所だ。

私に他の目的地があったことを思い出した。
そろそろこの異国の絵画とさよならしよう。

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