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【ファジサポ日誌】117.敗北の本質~第22節 清水エスパルス vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー ~

連敗を喫した直後のホーム戦ということもあり、ネジを巻き直してくることが予想された清水。
そして岡山は連勝はしていましたが、下位相手に内容の良し悪しはともかく辛勝が続いていたということもあり、やはり難しい戦いになるのではないかと予想しているサポーターも一定数存在していたアウェイ清水戦であったと思います。

残念な敗戦になってしまいました。
確かに今シーズン清水はホームで1敗もしていませんが、全体では岡山よりも多い6敗を喫していることもまた事実です。その相手は秋田、山口、愛媛など、岡山がこれまで互角以上に戦ってきた相手も含まれます。それらの各試合の細かい論点への言及は本題ではないので触れませんが、一般的に考えて、岡山としてはもう少し戦えた部分もあったのではないかとも感じさせられました。

非常に消化不良感が強い一戦です。
振り返ります。

1.試合結果&メンバー

先制を許す、後半の頭という最も大事にしたい時間帯に失点する、そしてダメを押される。久々に前半に得点を奪えたという点は率直に評価できますが、岡山としては非常にまずい試合運びをしてしまったことは事実です。
今回は試合のポイントになったと思います1失点目、2失点目に至るプロセスで気になった点を中心に解き明かしてみたいと思います。

J2第22節 清水-岡山 メンバー

メンバーです。

岡山はLWBに(17)末吉塁の名がありませんでした。
大事な試合において、またしても主力メンバーを欠いた状態で戦わなくてはならなくなりました。
サポーター心理として、戦う前にはマイナス要素は述べたくはなく、筆者もXでは代わりに入ったルーキー(55)藤井葉大への期待を強調しました。岡山サポとしては、これまでも大事な試合で主力が欠場するという経験を嫌と言うほど味わってきていますので、筆者の心境としてスタメン発表の段階で「またか」という落胆があったことも事実です。
(17)末吉の欠場理由は当然不明ですが、仮に負傷として、今シーズンに関しては高い負傷リスクを抱えたトレーニングに取り組んでいるという背景を踏まえましても、今後もベストメンバーできっちり臨める試合を期待してはならないのかもしれません。
もはやそんな気持ちにすらなります。

一方で(15)本山遥が久々にメンバー入りしました。様々なアクシデントに備えることが出来る選手の復帰は心強い限りです。

RSTには(39)早川隼平に代わって(10)田中雄大が入ります。最近(39)早川が少々停滞気味であるという点、そして(10)田中の前節交代出場後のパフォーマンスを評価されてのスタメン入りとみました。
また(39)早川をベンチに置くことで、後半の出力増という岡山のねらいが見えてきます。

2.レビュー

J2第22節 清水-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

(1)ゲームプラン早々の崩壊

さて、(39)早川をベンチに置いたねらいや木山監督をはじめとしたチームのこれまでのインタビュー記事(主にファジゲートなので内容には触れません。)を総合しましても、岡山のこの試合のゲームプランは出来るだけ長い時間イーブンを継続し、後半ロースコアの勝負に持ち込むというものであったと推測します。
そういう意味では開始20分での失点はあまりにも早過ぎたといえます。

試合序盤、清水は岡山最終ラインの裏狙い、そして岡山はCF(99)ルカオにボールを当てる形でシンプルに前進を図っていました。そしてそんな攻防が一区切りした15~18分、保持する清水とセットする岡山の膠着状態が続きます。そんなゆったりとした流れの中で、岡山のちょっとしたミスが展開に変化をもたらしました。
18分17秒、岡山自陣右サイドでのスローインがタッチを割り(遠くてはっきり確認出来ませんが、おそらく)、清水スローインへと移ってしまいました。この岡山のミスをきっかけに清水はほぼ全員のFPが岡山陣内へ入り込み再び保持します。
自陣最終ラインから回している間は、岡山の前線が清水の2ボランチへのパスコースをこまめに消していたため単に外回りのボール運びになっていましたが、岡山陣内に進入したことでOMF(33)乾貴士やLSH(10)カルリーニョス・ジュニオが下りて最終ラインからのボールを受けることが可能になります。そしてボールを受けてからは内側のレーンを前進、クロスを中心に岡山ゴールに迫り始めた最中での(10)C.ジュニオのゴラッソでした。

この5分間の緩い流れから一気に目の覚めるようなシュートを放った(10)C.ジュニオの緩急のつけ方が素晴らしかったことは事実で、GK(49)スベンド・ブローダーセンやRWB(88)柳貴博は局面での対応を悔やむコメントを出していました。

しかし、筆者はもっとフォーカスすべきはスローインのミスで流れを変えてしまったことにあると考えます。昨シーズンなど一時期、岡山のスローインは全く味方ボールにならない時期があり、その時より現在はかなり改善していますが、やはり大事なところでこうしてミスが出ます。

問題はチームとしてこうした点にフォーカス出来ているかで、もしゴラッソだから仕方がないというような失点の理由づけであるなら、この先も同じことを繰り返す可能性があるとすら思えるのです。

下位~中位チームとの対戦ではそんな岡山のミスも見逃してもらえるかもしれませんが、やはり上位相手ではそうはいかないということでしょう。

いきなりこの序盤から論点を堀り下げるのも、この後のレビューの展開がしんどくなってしまい避けたい気持ちもあるのですが、岡山の球際のこだわりについてはゴール前の最終局面の守備での努力は素晴らしいものであると思っています。細かいスタッツには触れませんが、例えば驚異的なシュートブロック数はその一端を示すものでもあります。しかし、その最終局面に至る過程の部分へのこだわりがあまりにも抜けていると感じる面もあるのです。
こうしたスローインの不確実性からそのようなチームの隙を垣間見るのです。

SPORTERIAさんより清水の時間帯別パスネットワーク図です。
前半0~15分よりも、15~30分の方が陣形全体が前寄りに移っていることがよくわかります。

(2)変化はチャンスになる

この失点後のキックオフでも岡山に何らかの反則があり、清水のFKになるという岡山のミスが起こっていました。明らかに清水はこの岡山の隙を一気に突こうと畳みかけようとしていましたが、(33)乾のクロスは大きく精度を欠き、岡山としては事無きを得ました。連続失点の匂いがしていた危険なシーンであったと思いましたが、この試合では他の局面でもみられた清水の粗さに救われた感はありました。
あくまでも筆者の主観ですが、以前にはあまり見られなかった「イケイケ感」からの粗さと思われます。第2クール以降、戦力の割に清水がリーグを圧倒出来ていない理由の一つが少しわかったような気がしました。

岡山はここからエンジンが点火します。
よく最初からビハインドの時のような攻めを展開すれば良いのに?と思われるサポーターは多いと思います。筆者も、失点後から同点に追いつくまでの岡山の攻撃は良かったと思いますが、これも前述のゲームプランが関係していて(仮説ですが)、1点ビハインドになったから追いつくためにリスクを獲りにいっているからなのです。

この日の(99)ルカオは清水CB(32)高木践とのマッチアップとなっていました。清水の試合を事前に何試合か見た上で、非常に良い選手という印象は持っており、(66)住吉ジェラニレショーンや(4)蓮川壮大が不在であるから、岡山の攻撃が楽になるとは筆者は思っていませんでした。

ボックス内での振るまいに限定していますが、(3)高橋祐治も含めて清水CB陣は全員が強いと思います、まともな勝負は避けてほしいと考えていました。

しかし、前述しましたように(99)ルカオは(32)高木とのマッチアップに挑みます。このマッチアップは完全に前半の段階から(32)高木に分があるように見えましたが、岡山は結構しつこく(32)高木を交わせない、勝てない(99)ルカオにボールを集めていました。
これには最近の(99)ルカオの好調ぶりがチームメートの信頼に繋がっているという背景もあったと思います。
実際に(99)ルカオもボールを収められなくても、自身にパスを出した味方に頻繁にOKサインを出しているのですが、何となく今日は勝てないかなという雰囲気も漂っていました。

しかし、このマンツーマンの勝負を上手く使えた岡山の攻撃が24分の(10)田中が迎えた決定機であったと思います。

J2第22節 清水-岡山 24分 岡山(10)田中の決定機

清水GK(57)権田修一からのゴールキックを岡山が自陣左サイドでマイボールにし、清水陣内左サイドで繋ぎます。サイドで清水に囲い込まれますが、(55)藤井→CH(7)竹内涼→LST(19)岩渕弘人と素早くショートパスを繋ぎ、この囲い込みから脱出。(99)岩渕から(99)ルカオにパスが出されますが、この(99)ルカオが左に流れたことで(32)高木を左へ吊り出すことが出来ています。
この(99)ルカオの動きにより(10)田中がフリーになりフィニッシュに至ったというシーンでした。このシーンでは間一髪で清水LSB(14)山原怜音が戻った分(10)田中のシュートは十分ヒットせず(57)権田のセーブに遭ったという状況でした。

シンプルですが、清水の「人についてくるディフェンス」を逆手にとった良い攻撃であったと思います。(99)ルカオとしてはなかなか(32)高木に勝てない状況が続いていましたが、その(32)高木を利用してスペースをつくる動き、これは(99)ルカオ自身がそこまで意図したものであったかどうかは分からないのですが、左右に流れチャンスメイクを行う本来得意とする動きが清水の守備網にスペースをつくったといえます。
この決定機の流れからのセットプレーで岡山は更に超決定機を迎えた訳ですが、いずれも決め切ることができませんでした。

思い起こせば、昨シーズンの日本平でも岡山は前半に今回と同方向(アウェイ側に向かった)への攻撃を選択。ステファン・ムークや櫻川ソロモンが決定機を迎えましたが悉く決められませんでした。
何度やってもボール1個分をモノに出来ない悔しさ、虚しさが筆者に去来する中、チームは諦めずに同点を目指します。
今の岡山は、決め切れないのであれば手数を増やそうという発想なので、その粘りが結実した同点ゴールであったと思います。

清水はブロックを組んでいますが、岡山のボールホルダーに対してのプレッシャーが弱かったと思います。この場面ではボックス内左でポジションをとる(99)ルカオに(3)高橋がついています。ここまでのプレーで清水に(99)ルカオへの意識が強まっていた面はあったと考えます。
よって(10)田中からのスルーパスというのはほとんど頭に無かったのではないかと推察します。極論しますと(99)ルカオが何も関与しなかったことで生まれたゴールともいえるのではないでしょうか。
それにしても、ホーム鹿児島戦もそうでしたが(10)田中→(19)岩渕の相性は非常に良いことがわかります。
岡山としては久々の前半の得点であり、かつ清水の守備を目線、意識といった部分も引きつけて出来たスペースを使うという逆転に向けての「解」が見つかった前半であったともいえるのです。

(3)自ら流れを失った後半

ホーム清水戦でも(49)ブローダーセンのPKストップからの流れを活かせなかった岡山でしたが、この試合でも前半でイーブンに出来た流れを後半早々に手放してしまいます。

失点自体は清水のセットプレーからでしたが、やはりこのCKに繋がった清水のビルドアップについて触れる必要があると思いました。

J2第22節 清水-岡山 47分26秒~ 清水のビルドアップ

まるで岡山が後半開始から前へと圧をかけることを予測していたかのような清水のビルドアップであったといえます。清水がかなり低い位置でゆっくりとボールを持ちます。
両CBはボックス内のポケットにいますが、両CHの(13)宮本航汰と(71)中村亮太朗もボックス近くの低い位置へと下りています。
この時点で岡山前線とは4対3、GK(57)権田も含めると5対3の数的優位をつくっていることに注目しなければなりません。

清水としては自陣ゴールに近い位置ではありますが、パス交換の判断さえ誤らなければ奪われる可能性は低い、リスク管理が出来ている状態といえます。
こうなると岡山の前線3枚としては1人が清水の複数の選手を見なくてはならなくなり、注意が分散します。おそらく清水の両CBは(19)岩渕や(10)田中の動きを止める役割を担っていたものと思われます。
もちろん危なくなれば彼らを逃げ道に使うことも出来るのです。

ここで(99)ルカオが、ボールが入った(13)宮本に制限をかけようとすると(71)中村が前向きになれます。そこで前方のスペースにRSH(19)松崎快が下りてきて受けます。岡山のビルドアップと比べた時に、岡山の選手は背後に相手がいた場合、再び最終ラインに戻すことが多いのですが、清水のこの場面では(71)中村が前向きでボール受けられる態勢になっているので、ここへ出します。(71)中村から(19)松崎へのリターンは読まれやすいのと、更に下りてきたCF(23)北川航也を経由することでその動きに呼応する岡山CB(5)柳育崇を剥がせることから、あえて(23)北川を経由したものと筆者は推察します。

一言で述べますと見事なビルドアップでした。しっかりしたパスワーク、技術を備えていることが大前提になりますが、岡山の各選手の動きの特徴を有機的に組み合わせて利用したビルドアップに見えました。
清水のベンチの様子をみると想像できますが、かなりスカウティングに力を入れている様子も窺えます。こんなところにも岡山との差はみえました。

またこの場面の清水の選手の動きからは、各選手が次に出来るスペースを予測して動いている様子も伝わってきます。ビルドアップの違いということであれば、この点がビルドアップの際、人から人へのパスが中心となる岡山との大きな違いともいえます。

それでは岡山はこの場面どのように振るまうべきであったのでしょうか。
単純明快に清水のボールホルダーに対して強く速くプレスしても良かったと思います。特に後半開始早々という時間帯でしたので体力的な問題はない筈ですし、仮に剥がされても強く行くことで相手のパスの精度は多少落ちます。そこで出来たズレからこぼれ球を狙っても良かったと思います。
この場面、清水のスローダウンにおつき合いしてしまった岡山の姿がありました。1失点目とは異なる形ですが、清水の緩急にしてやられたという事かもしれません。
となれば、何が何でもこの後のCKは岡山としては防がなくてはならない場面でした。寄せは普段よりも甘かったように見えました。残念です。

それでもまだ1点差でしたから、追いつけるチャンスはあったのですが、個人的にはこの後の岡山の攻撃は残念ながら効果的ではなかったように感じました。蒸し暑さも影響したとは思いますが、それは清水も同じことです。

岡山としては、前半の決定機、得点シーンにヒントがあったようにボランチ経由でしっかりつくりながら(99)ルカオらを囮に使い、(10)田中をフリーにする策が効果的であったと思いますが、実際には前線裏ねらいのロングボール、ミドルパス中心のボール運びになっていたように思います。

しかし、今の岡山のチームコンセプトに忠実なボール運びはどちらかといえば、後者であるのです。そして57分には攻撃のキーマンになっていた(10)田中を早々に(27)木村太哉とスイッチしてしまいます。ハイプレスの強度重視の交代であったのかもしれませんが、この試合(10)田中が効いていただけに悪手との印象は拭えませんでした。

そしてこの後半では悪いことに前線のスペースを狙ったパスの精度が良くなく、出し手、受け手のタイミング、意思もほぼ噛み合っていませんでした。
途中交代の(39)早川隼平が前方のスペースに走ってはイライラした様子も見せていた点が象徴的でした。
これはDAZN解説の太田宏介さんも指摘していましたが、前線3枚は足元で欲しがっている様子なのに、後方の出し手はひたすらスペースへと出し続けるのです。これではいくらパスを出しても、ゴールには近づけません。清水にカウンターの機会を与えるばかりになるのです。

そして最終的に(21)矢島慎也のダメ押しを許してしまった。そんな試合でした。
この場面はもうよろしいでしょう。
(5)柳(育)が後方スペースのカバーを(55)藤井に指示していましたが(55)藤井が飛び出してしまい、空いたスペースを使われてしまった。それだけです。筆者の悔しさを察していただければ幸いです。

3.まとめ

この試合は岡山が自動昇格圏内争いを戦えるかどうかの分水嶺であったと思います。その試合に完敗とあらば、現状、自動昇格は実力面で厳しいと考えざるを得ないとの感想を持ちました。
それには根拠があり、現時点でのトップ3チーム(長崎、横浜FC、清水)との勝点差、そしてこれら3チームの試合内容をみた時に長期間の停滞に入るような不調要因を感じられないこと、そして岡山のサッカーの完成度との差です。
しかし、もっと本質的なところ、相手のサッカーに合わさず自分たちのリズムで試合運びをする主導性と相手をみながらサッカーをする柔軟性を使い分けるといった戦術面での進化、苦しい時間帯に味方を観察し、味方の意図を読む、助けようとするプレーを出していくといった戦術を超えた部分での成長と、岡山が今よりも高いレベルで戦うために乗り越えなくてはならない壁は大きいといえます。

残り16試合でどこまでそうした能力をチームが身につけられるのか分かりませんが、努力を怠ってはなりません。上位3チームと述べ続けていますが、自動昇格枠はご存知のように2。今のトップ3のうち1チームは必ずプレーオフに回ります。
つまり、プレーオフから昇格を掴むにしても今以上のレベルアップは必須なのです。

残念ながら清水には今シーズンのリーグ戦でも勝てませんでしたが、まだ横浜FCや長崎との戦いは残っています。一皮剥けた手応えと共に秋の昇格戦線を戦えるよう引き続き出来る限りの応援を続けていきます。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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