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【ファジサポ日誌】110.臙魂共闘~第16節 ファジアーノ岡山 vs ヴァンフォーレ甲府 マッチレビュー~

長崎戦が終わってから、ファジに関する様々なことを考えた一週間でした。
チームのポジティブな面に目を向け、ポジティブな気持ちで、ポジティブに目の前の試合を応援する。
しかし、その姿勢を強調することは個人的には不安の裏返しという面もあります。

その不安とは、言うまでもなく怪我人が絶えないチーム状況から発生するものなのですが、仮に今シーズンJ1昇格を果たせなかった時のクラブの撤退戦を想像すると、その不安は輪をかけて大きくなっていきます。

筆者はファジアーノ岡山と長く付き合っていく「目線」と申しますか「方針」は持ち合わせているつもりで、それは今シーズンの成績に関係なく継続していくものなのですが、この2~3年のクラブはクラブとしての「成熟」と「結果」の二兎を追っているということを、負傷者が多い最近のチームの動向からも痛切に感じています。

こうした話はまた別の機会にと考えてはいますが、J1昇格とはファジアーノ岡山にとって「茨の道」であることは間違いないのだと、ただただ今はその厳しさを認識しているところです。

試合前日の横浜FC-清水を視聴しました。
2-0で横浜FCが勝利しましたが、岡山と何が違うのか?を知りたいという思いでした。
やりたいサッカーは岡山とも共通点はありますが、一言で述べますなら、横浜FCは全てが徹底しているように見えました。また徹底出来るだけのスピード、強度、技術を持った選手が良いコンディションでゲームに臨んでいると思いました。

正直なところ、岡山とは実力差があると感じました。

今後の岡山の浮上に怪我人の復帰が必須であることは間違いない点ですが、おそらくそれだけでも足りないと思います。今年J1昇格を果たすためには、サッカーの質そのものの向上が必要と考えますが、戦力が十分に整わない現状だからこそ、属人的ではなく、サッカーの仕組み、質の向上を目指していってほしいと思います。今の岡山にとってそれが勝利への近道であるとも思います。

そういう意味では、この甲府戦は前節長崎戦からみえた光明を、プレーの質の向上に伴って確かな灯へと変換できた一戦であったと思います。
素晴らしい戦いぶりでした。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

岡山としては今戦えるメンバーにより、最適な戦法を選択。決定機をモノにして、5戦ぶりの勝利を手にすることが出来ました。同じく中位~プレーオフ圏に位置する甲府から勝点3を得たという点でも、意義のある勝利であったといえます。
今の岡山の拠り所は堅守とハードワークにあったと感じさせる戦いぶりで、波状攻撃を耐え凌いだ長崎戦からの流れは継続していたと思います。
長崎戦からの進化という点では、メンバー選考にも苦しむチーム状況の中、選手たちの「共闘」がより目立ちました。この点はレビューで触れます。

J2第16節 岡山-甲府 メンバー

メンバーです。
岡山からはLCB(15)本山遥の名が消えました。現在のチーム状況から(15)本山をメンバー外にする戦術的理由は見当たらなく、残念ながら負傷したものと思われます。LCBには(5)柳育崇が入りましたが、ベンチにはついにCBの控えはいなくなりました。
不動のLWB(17)末吉塁は累積警告による出場停止、週中はこのポジションに誰が入るのか注目されましたが、木山監督は高卒ルーキー(55)藤井葉大の起用に踏み切りました。ここまでルヴァンカップで2試合に出場していましたが、いずれもLCBでの起用でした。リーグ戦初出場はいきなりのLWBでの起用となりました。
飯塚高校時代は、4バックのLSBをやっていました。完全な左のアウトサイドでプレーするという点では、まだやりやすさはあるのかな?などと試合前は素人考えながらに想像していました。

長崎戦で岡山デビューを果たしたRST(39)早川隼平はスタメン起用でのCスタデビュー戦です。前線の組み合わせも注目されましたが、長崎戦後半のゼロトップのようなスタイルではなく、(99)ルカオをワントップに置いてきました。
FW(9)グレイソンのように前線で張って収める役割は得意としない(99)ルカオですから、やはり前線へのボール運びは注目されました。また長崎戦で先発しましたFW(29)齋藤恵太と比べるとプレスの質が落ちることも予想されました。

対戦相手の甲府も今シーズンは怪我人の多さに苦しんでいます。
主軸のGK(1)河田晃兵、(88)渋谷飛翔、CB(3)孫大河、(40)エドゥアルド・マンシャ、CH(34)木村卓斗、(18)三沢直人、OFM(9)三平和司とセンターラインに負傷者が多発している現状です。全体的には筋肉系の負傷が多いようです。
更にこの試合では前線の一角FW(11)ファビアン・ゴンザレスもメンバー外となりました。

甲府の場合はACLから戦っているという面もありますし、甲府も岡山も細かいつくりの違いはあるにせよ、強くて縦に速いサッカーを志向している分、負傷リスクは高くなってしまうのかもしれません。

2.レビュー

J2第16節 岡山-甲府 時間帯別攻勢・守勢分布図

直近5試合で4ゴール1アシストをマークしていた(99)ウタカが、6分、14分の決定機を外したのに対して、岡山は10分にLST(19)岩渕弘人が甲府GK(32)コボンジョンのミスキックをカット、ゴールに流し込んだ決定力の差が岡山優位の流れを形づくりました。
岡山は非保持時に両WBを最終ラインに下げて5-4-1のローブロックを形成、38%対62%のボール支配率どおり甲府にボールを持たせるサッカーを選択しましたが、常に守勢であったかというとそうではなく、甲府陣内に進入する回数も試合全体を通してきっちり確保出来ていた点が勝因のひとつであったと思います。この姿勢があったからこそ、後半の(99)ルカオの追加点も生まれたのです。

序盤(99)ウタカが2度の決定機を外す
岡山としては痛恨の場面と言えるが、
最後まで寄せを諦めなかったり、コースを消そうとする姿勢が(99)ウタカのミスを誘発したとも言える。

(1)覚悟のローブロック

上記のフォーメンション図ではいつもの3-4-2-1で示しましたが、岡山の実際の配置は5-4-1、陣形全体が低くなるローブロックを組みました。これまでも試合後半途中から5バックに変更して守る形はありましたが、試合当初からというのは初です。

岡山の5-4-1
岡山5-4-1②
普段のシステムの場合
引き込んで守る

このシステム変更により、岡山の(序盤の)試合運びは普段のハイプレスを行わず、甲府を自陣に引き入れてボールを奪う形に変更されました。

理由は(17)末吉、(15)本山の欠場にあったと思います。
岡山のハイプレスは1トップ、2シャドーが相手のボール運びに合わせてCBやSBに次々とプレッシャーをかけていくものです。相手のボールは自ずと岡山の前線3枚の網が掛からないSBやボランチへと配球されるのですが、ここに高いレベルでプレッシャーを掛けるのが(17)末吉の役割でした。相手に合わせてサイドでプレスすることもあれば、1レーン内でプレスする場合もあります。そして奪うと中へ切り込みボックスに迫るというのが、(17)末吉のプレースタイルです。

その(17)末吉のプレーを後方でカバーしていたのが(15)本山遥であった訳ですが、(15)本山の前後方への高い機動力があってこその戦術であったといえます。
こうした点を踏まえますと、高卒ルーキー(55)藤井に(17)末吉と同様の役割を求めるのは経験的にも利き足(左足)の点からも難しいのではないかという点、そして背後への動きに弱点を抱える(5)柳(育)では(15)本山同様のカバーを行うことは難しいとの考えが木山監督にあったのではないか推測します。

それならば、最初からWBを下げた5バックで守り、経験が浅い(55)藤井を近い距離で(5)柳(育)がサポートする形がベストの布陣ということであったのでしょう。ある程度ハイプレスを捨てることにより1トップのチョイスは(29)齋藤ではなく(99)ルカオになったのではないでしょうか。

この布陣は結果的に甲府との相性も良かったと思います。
甲府の強力な両WG(10)鳥海芳樹や(51)アダイウトンの強力なサイドアタックに対して、岡山はWBとサイドCBの2枚で対応できる点、そしてサイドCBが出ていっても、中に2枚のCBが残ることから(99)ウタカへの対応がやりやすくなった点です。

それでも前述しましたように、岡山は何度か甲府のサイドアタックを許し(99)ウタカが決定機を迎えますが、CH(24)藤田息吹やCB(18)田上大地のスライディングが(99)ウタカのシュートミスを誘発したようにも見えました。
こうしたプレーが生まれたのも岡山が自陣でコンパクトな陣形をつくれていたからだと思います。

5-4-1ブロックを形成した際のST(39)早川や(19)岩渕の立ち位置は細かく甲府の中へのパスコースを消すもので、特に(39)早川の細かい動き直しは、かなりの確率で甲府ボールをサイドに誘導出来ていたように見えました。

甲府のサイドアタックから決定機をいくつかつくられながらも、岡山の最終ライン3CBは前線で動き回る(99)ウタカのマークの受け渡しをスムーズに行っており、試合全体では(99)ウタカを封じることに成功していたといえます。

また(51)アダイウトンが左に配置されていたことにより(55)藤井とのマッチアップが避けられた点も岡山にとっては幸運でした。

常に話し、マークの受け渡しはしっかりと
(51)アダイウトン、(99)ウタカの迫力ある突破
追走する(18)田上

その(55)藤井については、ルヴァンカップのレビューからずっと書いてきたのですが、物おじせずに落ち着いてプレー出来る点が最も素晴らしかったと思います。危険な位置でファールを貰うことや、前線での繋ぎが上手くいかずカウンターを受ける場面もありましたが、その頻度は少なく、前へ出る、後ろへ戻すの判断は過去2戦と比べるとスムーズになっていたと思います。何よりも交代する89分までほぼ1試合高い強度でプレー出来ていた点にも大きな成長を感じました。木山監督の想定以上のデキであったのではないでしょうか?孝行息子の登場に涙も出るはずです。それとやはりWBの方が水が合うのかもしれませんね。

(55)藤井からのスローインを受ける(10)田中
担架に乗せられ交代する(55)藤井
すぐ出てきた!

この岡山「覚悟」のローブロックの構えから甲府のミスを誘発したのが、(19)岩渕の先制点であったと思います。

試合全体を通じても明らかでしたが、甲府のボール運びは後方からのビルドアップによって始まります。しかし、ハイプレスでくると思っていた岡山が全然高い位置から来ないので、パス回しのリズム感が狂った面はあったと思います。この先制点の場面も岡山がしっかり甲府のパスコースを消しているのですが、甲府GK(32)コボンジョンは前に持ち出して、少しでも高い位置に差し込みたいとリスクの高いパスを狙ってしまいました。
これが経験の無さや若さであったと思いますし、岡山同様に負傷者多数による甲府のチーム状況の苦しさも現していたように感じました。
試合後の(19)岩渕のインタビューにもありましたが、甲府GKの経験不足の点は狙っていたとのことでした。この準備の良さが、パスカットしてから甲府の寄せが来る前に判断よく右アウトサイドで撃ち切れた要因と思えました。

甲府戦前週中や試合後のインタビューからも、決定機を外していることへの(19)岩渕の責任感はひしひしと伝わってきました。それでも今の岡山で最もゴールの予感を持てるのが(19)岩渕であると思います。
この右アウトサイドで蹴り込む判断もそうですし、惜しくもゴールとはなりませんでしたが、73分の(32)コボンジョンの動きの逆を突いたシュートは見事でした。あまりナーバスにならずに今のプレーを続けてほしいです。

一瞬何が起こったのか分からなかったが、
何はともあれゴールは嬉しい!

(2)光明が多くみられた攻撃面

この試合で岡山が素晴らしかった点は、ただ甲府を引き込んで守り続けるのみではなく、攻撃面での前進も多くみられた点です。
まず5-4-1のブロックを敷いたところから攻撃が開始されることによって、1トップの(99)ルカオの左右に広いスペースが与えられ、ルカオが得意の左右に(特に右)流れながら前進、ボールキープするプレーが数多くみられたことです。(99)ルカオへの配球も直線的に彼の体に当てるのではなく、彼が細工しやすいように若干両脇をねらったボールが多かった点もチームとして彼を活かそうとする強い意思がみられていて良かったと思います。
また、(99)ルカオ自身の変化も見逃せないところで、おそらくそんなに得意ではないであろうフィニッシュワークについても高い積極性が前半からみられていました。おそらくこの(99)ルカオの積極性や状態の良さが、チームメイトの信頼にも繋がり、後半の追加点に繋がる(6)輪笠のパスを引き出したのではないかと考えます。

(99)ルカオの得意な角度なのだろう
彼の今後の働きがチームの浮沈を左右する
臙魂共闘!

筆者は最近数試合、岡山の試合運びの中で相手ボックスの中になかなかパスを差し込まない、クロスを入れようとしない点に不満を感じていました。
もちろんボックス内の状況が悪いという点があったのかもしれませんが、少々その消極性は気になっていたのです。
この甲府戦ではこの(6)輪笠のパス、そして(39)早川もボックス内に積極的にパスを出していた点に好感を持てました。(39)早川に関しては、自身がボックス内で受けようとする動きも目立っていました。ここはもっと積極的にチームとして使ってあげたいところです。

その(39)早川ですが、出場時間を通じてセットプレーのキッカーを任されていましたが、相手が触れない高い位置から鋭く落ちてくる精度の良いキックが目を惹きました。フィニッシャーとしても高い能力を持っている筈ですので、中にいないのも勿体ないとも思ったのですが、実際のキックをみて、現状キッカーは(39)早川一択であると思い直しました。
MF(8)ガブリエル・シャビエルの軌道にも似ていると感じました。

前半、ミドルシュートを放つ(39)早川
連携はまだまだという面はあるが、
今の岡山に最も不足しているプレーを魅せてくれた。

この(39)早川のCKから57分CB(18)田上大地がシュートを放ちます。惜しくもボール1~2個分外れてしまいましたが、岡山としては久々にセットプレーから良い状態で味方選手がボールに触れた場面となりました。前半からニアに蹴り続けた効果もあったと思いますが、今後のセットプレーに大きな光が射し込んだ場面でした。

(39)早川のCKから(18)田上のヘディングシュート
あともう少しであった。

そして、この試合で奮闘していた一人としてRWB(88)柳貴博の名は挙げておかなくてはなりません。
この試合での岡山は、ローブロックを敷きながらも試合が進むにつれて、敵陣にボールを運ぶと積極的に前線からプレスを仕掛け、押し込みを図っていました。まさに得点を奪って勝つための積極性なのですが、この攻守の切り替えのスイッチになっていたのが(88)柳(貴)で、攻撃時には真っ先に前線へと走り、自ら前線の起点になる、(99)ルカオをサポートする、ボックス内へクロスを上げる、甲府陣内での再奪取に関わるといった動きと、最終ラインで守備を完全に両立させていました。

相当な運動量であったと思います。LWB(17)末吉の不在から岡山の「翼」の揚力を少しでも下げさせないという(88)柳(貴)の覚悟が見え隠れしていました。

今シーズンのトレーニングの厳しさが負傷者多数のチーム状況に繋がっているという側面は否定できないのですが、この試合をみていますと(88)柳(貴)をはじめとして、出場選手の多くが低い位置から高い位置へとかなりの運動量を求められていたように見えましたが、各選手のプレーの質は試合が進んでも落ちていないように見えました。
ハイプレスを指向しながらも、その連動性の不足がずっと指摘されてきた木山体制ではありますが、チームはラインを高く設定するよりも、各選手が長い距離を何度もスプリント出来る走力を手に入れようとしているのかなと、トレーニング強化の流れを踏まえながらも感じたのですが、この点はもう少し観察を続けたいところです。

とはいえ、この点は非常にポジティブに捉えられそうな点で、チームとしてのトレーニングの「効果」についても徐々に上がってきているのかなと感じさせてくれます。そして1週間の試合間隔があれば、岡山は一定のプレーレベル、プレーの質を確保できるという点も再認識できました。

J通算200試合出場を果たした(88)柳(貴)
北川会長から花束を受け取る
岡山入団の経緯を感じさせる2人の関係性

3.まとめ

なかなか選手が揃わない危機的状況が続くなか、岡山は前節長崎戦の堅守の流れを維持しながら、各選手の連携強化、即ち助け合い、共闘により大きな1勝を得ることができました。そしてこの1勝の大きな要因になったのは、ピッチでプレーしている選手のみではなく、ホームゲームを盛り上げようと試合前のフーズ、イベント等に顔を出してくれた欠場選手、そして今まであまり感じられなかったホームの応援の「圧」など、まさにクラブに関わる多くの人々の共闘によって手にした勝利であったと思います。

戦術的にはローブロックを敷きながらも甲府に大きな決定機はつくられており、次節(17)末吉が復帰することからも毎試合この形で戦うとも思えず、岡山は再び相手コートでの戦いを模索することになるとした上で(99)ルカオをどう活かすかなど、課題はまだまだあるのですが、しばらくは「共闘」で乗り越えていきたいものです。

もちろん、(9)グレイソンとも「共闘」で。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

※敬称略

試合前、キッズエリアに登場した(21)川上
全ての人々がホームゲームを盛り上げようと
工夫し、努力する。
(27)木村からもゴールへの強い意欲が感じられる
走り回った(99)ルカオ
コンディションをキープしながらの
フル稼働に期待したい
(49)ブローダーセンも変わらずチームのピンチを救い続ける
コンディションの良さを感じさせる(7)竹内
交代出場に向けて準備

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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