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【向日葵は枯れていない!】17.ギラヴァンツ北九州マッチレビュー~第17節 vs 奈良クラブ ~

良い流れが来ている。間違いなくそう言えると思います。
リーグ戦は4戦負けなし、水曜日の天皇杯新潟戦はPK戦で屈したとはいえ、一時リードしATに同点に追いつくというJ1相手に堂々とした戦いぶりを披露。この勢いを如何に繋げるのか、注目の奈良戦でした。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

リーグ戦2得点以上での勝利は、4/10第9節琉球戦以来今シーズン2回目、そして逆転勝利は今シーズン初となりホームゲームとしては最高の盛り上がりに湧いたのではないでしょうか。
この勝利でシーズン5勝目、星を五分に戻しました。第2クール(第11節~第19節)では早や3勝目と第1クールよりも勝点の上積みはペースアップしています。
今シーズン初の複数得点を決めましたエースCF(10)永井龍をはじめ、天皇杯に出場していないメンバーも活躍したことからも、今の北九州がチーム全体で力をつけていることが伝わってきます。
この勝利でチームは13位に浮上、プレーオフ圏6位とは勝点4差と迫ってきました。次節のアウェイ金沢戦では再び連勝にチャレンジします。

J3第17節 北九州-奈良 メンバー

メンバーです。
今考えられるベストメンバーともいえます。CHの一角にはキャプテン(14)井澤春輝が入り(11)喜山康平はお休みです。
新潟戦でゴールをマークしたRSB(23)坂本翔がリーグ戦にも戻ってきました。今後は(22)山脇樺織との激しいレギュラー争いが待っています。そして同じく新潟戦で大活躍したMF(30)髙橋隆大、FW(18)渡邉颯太もベンチ入りしました。
それにしても開幕当初と比べますと北九州の選手層は厚くなりました。
ベテランを中心とした新戦力のみならず、昨シーズンから在籍している既存戦力のレベルアップが現在の北九州の強みといえます。

奈良クラブは4-1-2-3です。
LSH(31)岡田優希は古巣対戦となりました。苦しかった昨シーズン、31試合6得点と気を吐いた(31)岡田(優)にこの試合で仕事らしい仕事をさせなかったことも勝因のひとつと考えますが、試合後のギラサポさんたちへの挨拶動画は、古巣への挨拶なんて今や珍しくもないことではありながらも、グッとくるものがありました。(多分)北九州のスタッフさんが動画を撮られていて、その撮り方にどこかしらかつての戦友への想いを感じましたし、苦しい昨シーズン31試合6得点と気を吐いた(31)岡田(優)に対するサポーターの温かさが伝わってきました。共有する想いというものは、続くものでもあると感じさせられました。

琉球、鳥取、そして今節の奈良。北九州5勝のうち3勝の相手に共通していることがあります。それはアンカー(AN)を配置するシステムを採用していることです。J3にはANを配置するチームが多いように感じますが、北九州にとってはこうしたチームとの相性の良さも今シーズンのポイントになっている気がします。この点はこの後のレビューで触れます。

2.レビュー

(1)互いの強みと北九州の新味

前半戦の攻防では、奈良が持ち味のビルドアップ、北九州がそれに対して前線からのプレスと共に持ち味をアピールする展開となりました。

J3第17節 北九州-奈良 奈良保持時の北九州の対応 モデル図

メンバーのところでも少々述べましたが、北九州がANを置くシステムのチームと相性が良いのは、2ボランチが相手ANをしっかり規制し、最終ラインからの配球をサイドに限定、ここでプレスし奪い切れる点にあります。
図の奈良の場合、ボールの受け手を増やすには両IHの(20)國武勇斗や(14)中島賢星が北九州2ボランチの規制の目を掻い潜って受ける動きが必要となるのです。J3の試合全般を観ていて感じます点は、このIHの下りるタイミングや判断において苦労しているチームが多いということです。
では、奈良が最終ラインからビルドアップを試みるチームにも関わらず、なぜこのシステムを採用しているのかというと、有力なボール運びのひとつにLSB(49)下川陽太からの前線へのフィードがあるからだと考えます。
(49)下川が蹴った時に出来るだけ前線に人数を掛けておきたい。
そんな意図がこのシステムからは感じ取れるのです。

SPORTERIAさんから奈良のパスネットワーク図です。
最終ラインからANというよりはIHへのパスと、(49)下川からのフィードという2通りの前進パターンがよく現れています。

奈良以外のJ3AN採用チームにもおそらく似たような意図があります。
前線に確固たるタレントがいないチームが多いからこそ、保持時に前線に人数を確保しておきたいという考えが垣間見えるのです。

さて、前半の20分~30分の間はこうした両チームの強みの発揮に関して興味深い攻防が繰り広げられていました。

19分40秒過ぎ、奈良の自陣左サイドからのスローインを受けに下りてきた(20)國武に対してCH(34)高吉正真が背後からプレス、(20)國武は(49)下川に戻し、更に(49)下川はCB(3)澤田雄大まで戻しますが、(34)高吉が連続してプレス、奈良陣内奥で北九州のスローインを獲得します。
北九州のCHがしっかり奈良のIHを監視している一例であったといえます。

このスローインから奈良陣内で保持を開始した北九州は、セットした奈良の守備をパスワークにより完全に崩し切ります。このシーンは北九州の新味とも呼べるもので非常に良かったと思いました。

J3第17節 北九州-奈良 20分30秒前後の北九州の崩し

奈良陣内でのスローインをハーフウェイライン付近まで上げてきた最終ラインに戻し左右に何度か出し入れ、この出し入れの中に(22)山脇をサイドに張らせて奈良(31)岡田(優)をおびき寄せて、奈良の4-4-2ブロックをの一角を崩し、崩れたスペースをRSH(29)高昇辰に使わせるという北九州のねらいが既にみてとれました。(17)岡野の決定機に繋がったシーンも同様に(22)山脇が(31)岡田(優)を引きつけて出来たスペースに(29)高昇辰を走り込ませ、一気にペースアップ。(10)永井、OMF(17)岡野凛平の前後のコンビネーションに前方に進出した(29)高昇辰が絡むという美しい崩しでした。決まっていれば、今シーズンここまででのベストゴールであったと思います。
実は40分の(10)永井の同点ゴールが生まれたCKに繋がったLSB(33)乾貴哉のシュートも、一度右で同様のスペースを狙っており、ひょっとしたら奈良の守備ブロックの崩れに何らかのスカウティングがあった可能性もあります。
守備組織に定評がある奈良を相手にこのような理詰めの崩しが出来た点にまず驚きましたし、相手陣内で奪い、保持して一度も奪われることなく、緩急も使ってコンビネーションで崩す、間違いなく強いチームのサッカーです。
少し、新潟の匂いを感じたのですが、皆さまはどのようにお感じになられたでしょうか?

それにしても(17)岡野と(10)永井の意思疎通の抜群さ、そしてどちらかと言えば自身で決める気持ちが強い(29)高昇辰が囮になり、お膳立てが得意そうに見える(17)岡野が積極的にフィニッシュに顔を出す。
北九州の若手たちのプレーの幅が確実に広がりつつあることも感じたシーンでした。

それでも先制点は奈良にもたらされたのですが、注目は24分30秒前後の先制点のCKに至る崩しです。
北九州ゴール裏のブーイングに焦れずに何度もビルドアップをやり直す奈良最終ラインから、IHの(20)國武に縦パスが通り、サイドの(31)岡田(優)へ。ここに逆サイドからRSH(39)嫁阪翔太が一気に入ってきてCKを獲得します。
ANを採用するシステムについては、ビルドアップからIHに良いボールさえ入れば、前線に人数を掛けている分チャンスになりやすいという、あくまでも筆者の見方にはなりますが、特徴が良く出ていたシーンでした。
この得点は奈良を褒めるべきであると考えます。

北九州に関しては讃岐戦と似ている失点であったような気がします。
CKでゴール前の狭いエリアへライナー性のボールを供給されるというパターンには今後注意した方が良いでしょう。

まさかの「バットマン」(10)永井の同点ゴールでしたが、やはり(17)岡野との呼吸が素晴らしいですね。ニアに飛び込むパターンはここまであまり見ていなかったと思いますが、どうだったでしょうか?
昨シーズンのリーグ戦をそんなにたくさん観ていませんので、わからない面ありますが、今の北九州の選手からは先制されても焦燥感がみられません。
やはり攻撃に手応え、自信を感じているのだと思います。この試合に関しては失点直後に飲水タイムがあり、チームとして気持ちの整理も出来たのかもしれません。


(2)自陣からのビルドアップと補完する「飛び道具」

この試合で北九州が上手くいかなかった点を挙げるとするなら、やはり自陣からのビルドアップであったと思います。2CBが持った時に2CHの下りるタイミングが合わない、また下りた後の前進が十分ではないといった「未完成」ぶりはこの試合でも残りました。

その欠点を補って余り得るインパクトを残したのがGK(27)田中悠也の超ロングスローによるロングカウンターでした。
ボールを受けたLSH(21)牛之濱拓が非常に冷静にボールをコントロールした点も大きかったのですが、(27)田中の身体能力の急激な向上ぶりには驚かされます。前々節の鳥取戦でも超ロングキックから得点に結びつけた(27)田中は、Xの投稿によると元アメフト選手の河口正史氏(筆者には筋肉番付のイメージが強い)の下でGK向きの関節の可動域拡大などの専門的トレーニングに励んでいるようです。
オフサイドであったとはいえ、最終盤のスーパーセーブも含めて急激にチームを勝たせるGKへと成長を遂げている(27)田中も北九州に欠かせない存在になりつつあります。

ハイプレスからのショートカウンターやロングカウンターからの得点が増えてきた北九州ですが、増本監督の指向はやはり保持からの崩しにある。
そう確信させる移籍ニュースが飛び込んできました。

ジュビロ磐田から(6)藤原健介が育成型期限付移籍で加入しました。
実際に北九州でどのポジションに就くのかはまだわかりませんが、今節の奈良戦でもみられました。自陣からのビルドアップ改善を狙った補強という気も個人的にはいたします。しっかり受けて、前線へパスを出す。保持を指向するチームとしては必要な能力を持った選手です。
現在、北九州でボランチを担う選手たちをみてみますと、(11)喜山は左足からの大きな展開とゲームを読む目に冴えをみせますが、やはりベテランであること、そして左足を切られてしまうとボールロストのリスクが高い点に不安もあります。キャプテン(14)井澤はある意味(6)藤原と似たタイプに思えます。いいパスを出す場面もありますが、もっと大胆さも欲しいと個人的には感じています。彼と(6)藤原は競争になるのかもしれません。
(34)高吉に関しては、同じボランチでもディフェンシブな役割と今節でみせてくれたようなボール奪取に冴えをみせる選手。保持時の可変を考えるならピッチに残しておきたい選手です。
(20)矢田旭に関しては復帰後の起用法をみていますと、第2列での起用が中心になるのかもしれません。

いずれにしましても戦力の底上げになることは間違いなさそうです。

以上、簡単ですが奈良戦を振り返りました。
次節は再びの連勝チャレンジです。引き続きしっかり応援していきます。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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