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【ファジサポ日誌】54.決意のミラーゲーム~第19節ファジアーノ岡山vs徳島ヴォルティス〜

ミスによる2失点、ゲームキャプテン(23)ヨルディ・バイスの退場と内容的にも手痛い敗北を喫したアウェイ栃木戦から中5日、次の試合がやってきました。
今節の相手は、5月を3勝2分1敗と調子を上げてきた徳島ヴォルティスです。
特に前節は首位町田ゼルビアに逆転勝ちを収め、いよいよ上昇気流に乗ろうとしています。ファジアーノ岡山にとって決して簡単な相手ではなかったと思います。
もし、ここで負けることがあればこの先ズルズルとチームが後退する可能性もありました。

岡山にとって今シーズン最初の正念場となりました一戦を振り返ります。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第19節 岡山vs徳島 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

今回のレビューより「時間帯別攻勢守勢分布図」をこちらの項目に提示することにしました。試合結果と併せて振り返りたいと思います。
前半から攻守においてフルパワーで徳島に戦えました。これに尽きると思います。岡山のシュートの精度は上がらず得点はなかなか奪えなかったのですが、スタンド全体をポジティブな空気が支配する前半でした。
この後のレビューでは、まず前半、主導権を握れた要因について触れます。

後半早々は徳島がボールを握り始めたのですが、65分過ぎから再び岡山の攻勢の時間へ切り替わります。この切り替わりと得点が生まれた背景についても触れます。

以上の2点が今レビューの中心になります。
続いてメンバーをみてみましょう。

J2第19節 岡山vs徳島 スタートメンバー

岡山のメンバーについては後に触れます。実は試合前にこのスタメンをみて「これなら戦える!」という自信を持てたのです。

徳島はポヤトス監督がガンバ大阪に引き抜かれて、新たにレアル・ソシエダの分析官でしたラバイン監督が就任しました。スペイン路線の継続、昨シーズンの主力が残った点を踏まえましても、おそらく昨シーズンのサッカーを継続してくると筆者は予想していましたが、実際には大きくスタイルを変更してきました。
序盤は新たに導入された「縦に速い」サッカーが浸透せず、またラバイン監督の経験不足も影響したのか、勝点を上詰めません。
転機となりましたのが3バックの導入で、特に現在の3人で最終ラインを組み始めてからは守備が安定。(8)柿谷曜一朗や(9)森海渡といった前線の選手のコンディションも上昇し、得点を量産。当初から目指している「縦に速い」サッカーの浸透に加え、最近は昨シーズンまでみられていたシステマティックなパスサッカー、PA内での細かい繋ぎが織り混ざる質の高いサッカーを展開しています。

この試合も最近の良いサッカーを継続しているメンバーで臨んでいましたが、唯一LWB(24)西谷和希が警告累積により欠場。代わりに(37)浜下瑛が入りました。岡山にとって(24)西谷は昨シーズンの2試合共に、その対応に手を焼いた選手です。(37)浜下も実力者ですが、正直なところ(24)西谷不在で助かったというのが本音です。

2.レビュー

(1)勝利を手繰り寄せたシステム

スタメン発表時の「つぶやき」です。
徳島の強みは中盤に人数を割いていることだと思います。
トップの(8)柿谷が下りてきて、中盤が6枚になっている時間帯もあります。ただでさえ、独力で剥がせる高い「技術」を持つ選手たちが中盤にたくさんいてパスを回し、入れ代わり立ち代わり前線に顔を出してくる訳です。
守備側としては非常に捕まえにくい、守りにくいといえます。

徳島の5月の対戦相手は清水、大宮、山口、金沢、藤枝、町田でした。
攻撃時、守備時の違いなど細かい違いはありますが、4-4-2のチームが多いのです。そうなりますと、徳島の技術力が高い5~6枚の中盤に対して4枚で対応しなくてはならなくなる。自ずと試合展開は不利になっていくのです。徳島が5月唯一敗れた藤枝のシステムは3-4-2-1で、中盤が5~6枚になるという形でした。徳島対策として、単純に中盤の枚数を充実させる必要性はあったのです。

岡山がスタートから3-5-2(5-3-2)で入ると予想されたこのスタメンを知り、筆者はこのゲームに大きな期待を抱いたのでした。

そして、もう一つの大きなポイントは(15)本山遥のRCBでの起用でした。徳島のもうひとつの怖さは、ピッチ左側で発揮される(8)柿谷のアイデアにあります。岡山右サイドは(16)河野諒祐の守備に不安があるため、この点をどのように手当てを施すのか注目していました。この試合では、本職がRSBの(15)本山を(16)河野の後ろに配置することで(16)河野の守備の不安を払拭する意図が感じ取れました。(15)本山の起用に関しては相手セットプレー時の高さ不足が懸念されたかもしれませんが、徳島はここまでセットプレーでの得点は少なく、こうしたリスクもチームとして計算に入れていたのではないかと推測します。

(99)ルカオ、(8)ステファン・ムークの2トップは長崎戦でハイプレスを敢行。おそらくこの試合でも徳島の最終ラインに対して、(8)ムークがボランチを消しながら(99)ルカオがボールホルダーへプレス、サイドへ誘導して勝負という絵が浮かび上がってきました。

好調徳島に対して、ミラーゲーム(真っ向勝負)を挑んだシステムであったのです。

(2)制圧したサイド

試合展開は前述(予想)しました岡山のねらいが見事にハマります。
(8)ムークが徳島アンカー(7)白井永地を消し、(99)ルカオがボールホルダーへ鋭く迫ります。相手は3バックでしたので1人でプレスするには大変であったと思いますが、RIH(14)田中雄大が前線のプレスに参加することでプレスの相手を上手く絞れていたと思います。
9分のように徳島CBの球出しを引っかけてチャンスをつくることに成功。
このシーン以降も徳島CB陣に制限をかけ続けます。

そうなりますと、ボールはサイドへ。この日の岡山はこのサイドでボールを奪い切る覚悟が出来ていたと思います。
例えば左であるならLWB(2)高木友也に素早くLCB(43)鈴木喜丈がサポート、ここにLIH(44)仙波大志、状況によっては下りてきた(8)ステファン・ムークにCH(27)河井陽介も加わります。
人数をかけた中盤に岡山の前後の選手がサポートに入ることで、このサイドでの攻防は徳島RWB(39)西野太陽との力関係を踏まえましても、岡山が優勢となりました。
多くの選手が近い距離感を保ち、競り合いからのセカンドボールを拾えたことで、守備から攻撃への移行も非常にスムーズであったと思います。

前半、徳島(9)森は縦へボールが出てこない、または(5)柳育崇とのバトルを嫌ったのか左サイドで起点をつくろうと試みていました。
ここに立ちはだかったのが(43)鈴木でまず空中戦で優位に立ち、マイボールになると自らドリブルで相手陣内へ持ち運び、全体を押し上げる。そして中盤の(44)仙波のサポートと獅子奮迅のプレーを見せてくれました。
いつもプレー中も優しい表情に見える(43)鈴木の表情からはほとばしるような気迫がみてとれました。推し量るべくもなく、栃木戦のOGが悔しかったのでしょう。前半の彼のプレーはバックスタンドのサポーターの心に火をつけてくれたような気がしました。

この日の(43)鈴木からは巧さだけではなく、
力強さも漂ってくる

右サイドも健闘していました。

J2第19節 岡山vs徳島 13分河野の決定機に至ったシーン

徳島ハーフウェイ付近左サイドで(8)柿谷がワンタッチで(15)本山を剥がし徳島のチャンスになりかけたシーンです。
この動きに(16)河野が素早く反応、(8)柿谷の進路に迫りながらプレスバックした(15)本山と挟み込みボール奪取に成功します。この2人の距離感の良さが目立ちました。
そこから大きく左へ展開するのですが(43)鈴木が左サイドに持ち運ぶことで(7)白井や(23)玄理吾を引きつけ中央にスペースをつくる。その中央から更に右に展開、攻め上がっていた(16)河野がPA内に侵入しました。

サイドのでの良い守備からサイドに起点をつくる大きな攻撃、素晴らしい展開であったと思います。
この試合での(16)河野は(15)本山が背後にいる安心感もあったのか、最近数試合の中では攻守において最もアグレッシブに動けていました。
このシーンでの良い守備が彼に自信をつけたように見えました。

(15)本山は75分、(5)柳が裏をとられそうになった場面でも素早い帰陣で対応、鋭い危機察知能力もみせてくれました。

先制点が決まった直後の(15)本山
嬉しそうだ

チームのねらいが(おそらく)ハマったことで試合運びそのものがペースアップしたこと、そして観衆に近いサイドでの駆け引き、攻防に迫力があったことから、観衆の応援は前半からヒートアップ。最近の試合の中では最も盛り上がりました。
あとはゴールだけという試合展開の中、岡山はフィニッシュの精度を欠き続けますが、不思議とスタンドに焦りの空気はなく(筆者の感想)、これを続けていれば必ずゴールは生まれるというポジティブな空気が支配していたように思います。
少なくともバックスタンド中央付近では…。

(16)河野は攻守共に安定感があるプレーぶり

(3)ゴールへの「道づくり」

後半の徳島は(7)白井が最終ライン付近まで下りる、状況によっては(8)柿谷も低い位置まで下りてボールを受けるようになります。
この動き(修正)により徳島はボールを保持できるようになりますが、彼らが低い位置でボールを受けることにより、逆に前線の駒数が足りなくなっている印象でした。
しかし、岡山の運動量が落ちてきたことにより、徐々に徳島も(8)柿谷のアイデア、(23)玄の鋭い動き出し、(37)浜下の突破から岡山ゴールへと迫っていきます。
岡山としては、流れを裏返して試合の主導権を取り返したいところです。
このタイミングでの選手交代が効果的でした。
64分(2)高木に代えて(42)高橋諒、(99)ルカオに代えて(18)櫻川ソロモンを投入します。

この2人の投入が大当たりでした。
67分(14)田中の決定機と71分(8)ムークの先制点のシーンを振り返ります。

J2第19節 岡山vs徳島 67分岡山の田中のシュートに至ったシーン
J2第19節 岡山vs徳島 71分ムークのゴール
一度は櫻川にパスを出そうとした(8)ムーク
相手DFからの跳ね返りを冷静に持ち運びシュート
1.5列目、トップ下、IHと相変わらずのマルチぶり

いずれも自陣からのカウンターから決定機を迎えたのですが、強調したいのは(18)櫻川が(8)ムークのシュートコースをつくっている点です。
67分の決定機では(4)安部崇士を引きつけ、71分の先制点のシーンでは(3)石尾崚雅を引きつけて(8)ムークの前にシュートコースをつくっています。
ちょっとしたことなのですが(18)櫻川はこういう細かい動きを得意としています。彼は過去にチームとして得点を奪うことの働きについても語っていましたが、まさにそれを体現するプレーでした。自らの得点がまた止まってはいますが、プレッシャーが掛かる場面で余裕があるプレーを選択できたことはポジティブな材料といえます。

追加点についてはATに突入していたことから相手陣内でキープする手もある中、攻め切った(42)高橋やリスクを計算に入れながら前線に走った(41)田部井涼の判断が素晴らしかったです。

昔のファジアーノであれば、ひょっとしたら怒られるプレー選択であったのかもしれませんが、J1昇格を目指すには得失点差をできるだけ稼がなくてはなりません。こういう場面で獲れるのかどうかでシーズン終盤の明暗が分かれそうです。判断が難しいとは思いますが、獲れる時には獲るという方針は支持したいです。

倒れ込みながらもクロスに合わせた(41)田部井
嬉しいJ初ゴール

3.まとめ

今シーズン最低のデキであった栃木戦から一週間、一転して今シーズン最高ともいえるデキでの勝利を飾ったファジアーノ岡山でした。
特に1万人の以上の観衆を集め、地上波でテレビ中継があった、岡山市民デーということで岡山市長が来場した。
このタイミングで内容が伴う勝利を収められたことは、J1昇格機運を再び盛り上げることに繋がります。個人的な話で恐縮ですが、普段はあまりサッカーに関心がない知人からテレビを中継を見ながら応援していたと、連絡があったぐらいです。
また、多数の徳島サポに来場いただいた様子がスタジアム内外に伝わったことで、現在木村オーナーを中心に訴えています新スタジアム建設の必要性についての理解が深まるのではないかと思います。

サッカーの内容としては、前半にチームの主導権を握り、後半に交代メンバーの力を加えて得点を奪っていくという理想的な「全員サッカー」を遂行。選手層の厚さに手応えを感じました。非常に各ポジション間でよく連係が取れており、中盤に枚数を割き、最終ライン、前線の選手がサポートに入ることで選手間の距離が良くなり、セカンドボールをよく回収できていました。

何と言っても、ミラーゲーム(真っ向勝負)を挑むゲームプランが、栃木戦の悔しさを晴らしたいチームのメンタリティとマッチした。これが最大の勝因であったと思います。

田中と柿谷
この2人のマッチアップは見応えあり

チーム全体の決定力不足は課題ですが、技術的な問題もありますので簡単ではないかもしれません。ですので(8)ムークの決定力の高さを効率よくチームの得点力向上に繋げたいものです。この試合での(18)櫻川の動き方は(8)ムークの得点アップに大きなヒントを与えてくれたように思います。(99)ルカオの得点力がアップすれば言うことなしなのですが…。

移籍後初得点まであともう少しのルカオ
チームにとって欠かせない存在になりつつある
得点力については(7)チアゴの量産にも期待がかかる
このシュートは徳島(1)スアレスの好セーブに遭う

更に悩ましいのが選手の組み合わせです。(15)本山が良いプレーを見せてくれましたので、もう何試合かこのシステムを観たい気もするのですが、(23)バイスや(22)佐野航大、(48)坂本一彩をどのように組み合わせるのか?ポジションが足りないですね。

個人的には3-5-2をベースのシステムに据えて、(23)バイス、(15)本山をRCBで併用、(22)佐野は中盤CHおよびIHで(27)河井、(14)田中、(44)仙波、(6)輪笠と競争。(48)坂本は(99)ルカオと併用という形が、選手の体力負担、攻守のバランス、得点力向上という観点からもベストであると考えますがいかがでしょうか?

前回のレビューでも述べましたが、ファジアーノ岡山は現状「相手なり」にサッカーができるチーム(「相手なり」のサッカーになってしまうチーム)だと思います。
そのため、人とボールが動くサッカーをしてくるチームとは相性が良いと改めて感じました。この後、リーグ前半戦は東京V、大分との対戦を控えていますが、この観点から岡山にとって良い流れが来るのかもしれませんし、来させなくてはならないと思います。

今度こそ波に乗りましょう。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。

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