見出し画像

【ファジサポ日誌】42.岡山を導く光であれ~第7節vsいわきFC~

まえがき

いわきFCのエンブレムはホームタウンである福島県いわき市を象っています。
ホームタウンはいわき市に、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、葛尾村、浪江町の6町2村を加えたいわゆる福島県の「浜通り」に位置します。
聞き覚えがある地名の数々です。
12年前の東日本大震災、そして福島第一原発事故の発生当時、これらの地名がテレビ・ラジオから連日、連呼されていたことを覚えている方も多いでしょう。
福島県「浜通り」は当時、日本で最も過酷な状況に置かれていました。

「浜を照らす光であれ」
Cスタのアウェイスタンドに掲げられた弾幕の言葉です。
筆者はバックスタンドから観戦しているため、残念ながらカメラに収めるタイミングがなかったのですが、この弾幕を見て心に刺さるものがありました。
とはいえ、当事者でない人間、一対戦相手のサポに過ぎない人間(筆者)が何を書いても軽くなります。
大震災発生から現在に至るまで「様々な」としか書けない困難を抱えた地域、生活者の「光」に今もなお現在進行形でなろうとしているクラブ、それがいわきFCなのだと筆者は理解しています。

この点については、筆者の拙い紹介よりもプロの記事をお読みいただきたいです。
Jリーグ30周年にあたり今春、宇都宮徹壱さんが寄稿したいわきFCの記事です。

いわきFCが称賛される理由は、福島県2部リーグからわずか7年でJ2まで昇り詰めたスピードのみではありません。
地域の雇用の受け皿となったスポーツ企業がクラブを運営することで「日本のフィジカルスタンダードを変える」など、日本のサッカー、スポーツに新たな価値観を提案していることにあります。

この岡山戦でのいわきFCのプレーぶりは、このようなチームコンセプトをまさに体現したものでした。

「世界のサッカーはもはや守備の概念がないぐらい、前に前にとゴールを目指すのがスタンダードになっている。そういうサッカーがJリーグで繰り広げられてるのかなというのは甚だ疑問ですし、落ちない(降格しない)ように戦っているようにも見える」

2016.1.21 日比野恭三「いまJリーグに足りないものは――。
信念貫く経営者といわきFCの挑戦。」
https://number.bunshun.jp/articles/-/824943?page=3

いわきFCの大倉智社長がJリーグに感じていた物足りなさ、具体的には「前に前にとゴールを目指す」姿勢が詰まったこの試合での先制点でした。

今回はいつもと少しレビューの組み立てが異なりますが、ここからいわきの先制点のシーンを振り返ります。

1.前進気勢が詰まったいわきの先制点

J2第6節 岡山vsいわき 10分 いわきの先制シーン

岡山が最終ラインでビルドアップに入っていたのですが、サイドから前進させることが出来ず、戻されたボールを(23)ヨルディ・バイスが前線に上がっていた(15)本山遥へ得意のロングフィードを送ります。
一度は(15)本山が収めかけ岡山のチャンスになりかけたのですが、いわき(8)嵯峨理久が(15)本山からボールをかすめ取ります。

ここで、両チームの攻守の局面が切り替わったのですが、ここからゴールに至るまでのいわきの選手の意思は大変統一されていました。
自陣左サイドまで下りてきたFW(17)谷村海那を経由して(24)山下優人が前方にパスを出したタイミングで既に4~5人の選手がゴールへ向かって走り出しているのです。

具体的には鋭いターンを織り交ぜながらボールを運んだ(20)永井颯太も素晴らしかったのですが、最終的にゴールを決める(6)宮本英治は岡山守備陣の視野から消えながら走っており、ボックス内では(23)バイスを引きつけて(20)永井から(11)有田稜へのパスコースを作りながら自身は(23)バイスの裏をとるという質の高いプレーを見せていました。

まさにチームコンセプトに裏打ちされた「前に前に」ボールを運ぶサッカーを展開していました。素晴らしい攻撃でした。

いわきの鮮やかな先制点
バックスタンド前方からでは淡白な失点に見えてしまったことも事実

この一連の流れで、岡山には2度ボールを奪うチャンスがあったと思います。ひとつ目は、いわき(24)山下から(20)永井へパスが出された場面です。(20)永井にボールが渡る直前で(5)柳がインターセプトを仕掛け、実際にボールに触れてはいるのですが(6)輪笠祐士とポジションが被ったことにより対応が中途半端になってしまった印象です。

それでも(5)柳は粘り強く(20)永井のドリブルに対応。サイドに上手く追い込んだように見えました。ここに(15)本山が戻ってきます。2人で上手く挟み込めれば良かったのですが、この2人の間を(20)永井に突破されてしまいました。もっとも(20)永井は自らサイドのスペースへドリブルしていたようにも見えましたので、(5)柳を引っ張り出す狙いもあったのかもしれません。(15)本山としては自身が奪われたところがきっかけになっていますので、必死で戻ったのですが結果的に中途半端な対応になってしまいました。

この岡山の守備対応から見えたことは(5)柳の動きからも分かるように、岡山が非常に高い位置でのボール奪取を目論んでいたということです。

後半いわき陣内へ攻め上がる柳
主将として責任を感じることも多いのだろう
しかし彼が岡山にもたらしてくれたものはパワーだけではない
引き続き、熱く応援していきたい

DAZN試合前の木山監督へのインタビュー内容を整理します。
① 立ち上がりから相手コートでサッカーをする
② 簡単に失点しない
③ 早く自分たちのペースに持っていくこと

立ち上がりから相手コートでサッカーをするためには、ボールも高い位置で奪えるに越したことはありません。(5)柳はチームのねらいを体現するために自ら相手コートへ侵入したのです。この判断は決して無謀であったとはいえません。なぜなら(23)バイスがきっちり後方に残っているからです。おそらく約束事としてチームのねらいがあったのだと思います。

しかしながら、結果は「簡単ではない」にせよ再び早い時間に失点をしてしまった。(いわゆる「安い失点」なのか。しかし、失点に安いも高いもないというのが筆者の考えです。)少なからず選手に心理的なショックはあったものと推測します。
そして、現地で観戦しているからわかるのですが、スタジアムに重苦しい空気が漂ってしまいました。

例えば、筆者が観戦していますバックスタンド下部付近では、メイン側で起こった出来事が十分にはわかりません。この失点はレビューすることによっていわきの素晴らしい攻撃と岡山の積極的なトライがあったことを背景として知ることが出来ましたが、現地にいた当時は一度も相手の攻撃を跳ね返せていないという点もあり、スルスルっと何となく失点してしまったという悪い印象が残ったのでした。
本当は、こうした場面でこそサポーターが選手を鼓舞しなくてはならないのですが、何となく重たい空気がまとわりついてしまいました。
これは、サポーターとしての筆者の反省です。

今週、SNSでは現地観戦とDAZN観戦での試合の印象の違いが話題となりましたが、筆者は現地と映像の印象の違いは明確であったと結論づけています。

2.試合結果&スタートメンバー

先ほども少し触れましたが、ホームでは2戦連続で10分以内の失点ということもあり、メンタル的にもかなり難しい試合になってしまったと思います。一方で、客観的に見ますとよく戦えていたとも思えるのです。
これは多くのサポーターがSNSで指摘していましたが、昨季の春も昇格組のいわてグルージャ盛岡に苦戦、先制点を許し0-1で敗れました。また時期が少しずれますが、フクアリ千葉戦も0-1での敗戦(観に行った…)でした。

不思議なことに、毎年メンバーも戦い方も変わっているはずなのに、Jリーグには各クラブ得意なシチュエーションとそうでないシチュエーションが存在するのです。
岡山としては、この2戦はいわゆる不得意なシチュエーションといえましたが、それをドローに持ち込んだというのは、地力がついてきている証ともいえます。

J2第7節 岡山vsいわき 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

いつもの自作の図ですが、ラストパス、クロスの精度、決定力の問題もありましたが、攻め込むこと自体は出来ていたと思います。

しかし、ある意味ポジティブな(大甘な?)そんな見解も許されないピリピリ感が選手から、そしてサポーターからも伝わってきます。
クラブ全体として「J2の頂」を目指すうえでの最初の関門に差し掛かっているのかもしれません。

決定機を迎える櫻川。ここまでは完璧であった。
決定力向上に期待。彼には伸びしろしかない!
J2第7節 岡山vsいわき スタートメンバー

岡山側として、この試合で触れておかなくてはならないのは千葉戦後半の交代以降のメンバーをベースにして大幅にシステム、スタメンを変更したことです。そのねらいはいくつかあったのですが、その中でも筆者が注目していたのはダブルボランチの導入でした。

これが意味するところは、最終ラインからのビルドアップの出口を増やすことにあります。つまり最終ラインからのパスの受け手を(6)輪笠祐士のみならず(41)田部井涼も加えたのです。
最終ラインからボランチへのパスを増やすことで、その先の前線への展開も期待されるところですが、しっかり中盤にいわきの選手を引きつけ、岡山の強みであるサイドをフリーにする。またリターンも含めた最終ラインとのパスを増やすことで、最終ラインへのプレスを分散させることも可能です。
特にボールホルダーを複数で囲むいわきが相手でしたので、筆者はダブルボランチ採用の効果に期待していました。

SPORTELIA J2第7節 岡山vsいわき データより
https://sporteria.jp/data/2023040206/352037

SPORTELIA様のデータから引用いたしました。
残念ながら、最終ラインからダブルボランチには十分にパスが入りませんでしたね。
ダブルボランチの2人にはいわきが常に3人で監視体制を敷いていましたので(5)柳もなかなかパスをつける勇気が湧かなかったのかもしれません。(23)バイスに関してはロングフィードもありますし、LWB(2)高木友也のデキが良かったこともあり、無理してボランチにつける必要もなかったと判断したのかもしれません。序盤に失点してしまい2失点目が許されないという意識も強く働いたと思います。
(6)輪笠、(41)田部井の2人も2人の距離感、ポジションのキープに気を遣っている印象が強く、パスを受ける動きは若干乏しかったように感じました。

なかなか上手くいきません。

この試合で全体的に気になったのは、ダブルボランチに限らずパスの受け手と出し手の意思が合っていないシーンが散見されたことです。
主に受け手が手を上げた際にパスが出てこないのですね。
これはビハインドを追いつきたいという前線の意識と、2失点目は絶対に避けたいという後方の意識の違いから生まれたものであると思います。

右サイドの停滞する中、左サイドで気を吐く高木
パワーとキレの両方を兼ね備えるWBである

ここで「政田INSIDETRAINING」なのですが(金曜夜までレビューを作成していたことがバレバレ…)、冒頭の練習開始時間が11:29になっています。どうやら長時間にわたるミーティングがあったようです。
詳細は避けますが、選手間でもお互いの意思の確認は行われたようです。

J2優勝を目指すうえで苦労している今季序盤ではありますが、昨季から筆者が感じているのは、サポーター目線で感じているチームの課題に木山体制はすぐ対応してくれるということです。
パスの出し手、受け手のコミュニケーションが課題と感じた週の練習で早速このようなミーティングを実施していますし、いわき戦の3バックも千葉戦を受けて試してほしいと思っていたサポーターは多かったと思います。

観戦仲間ともよく話しますが、サポーター目線でのチームの課題に時間をかけずに対応してくれることで、この2シーズンは全体的にストレスを抱えずにファジアーノを楽しめているのです。

3.岡山の真の弱点とは?

今、チームが目指している「相手コートでのサッカー」は木山体制になり、クラブ史上、初めて取り組んでいるものであり、いわば理想ともいえるサッカーです。
この1年と少し、まだ道半ばといえます。
この試合の(5)柳のプレーに象徴されていたと思うのですが、「相手コート」での戦いに選手はチャレンジしている様子は伝わってくるのですが、まだ自信、確信を持ってプレーは出来ていないと試合を観ていて思います。
この話題になりますと、(5)柳、(23)バイスの特性、キャラクターと理想とするサッカーとのミスマッチがよく話題になるのですが、筆者は少し異なる切り口から考えてみたいと思います。

いわきFC、モンテディオ山形、ロアッソ熊本、ブラウブリッツ秋田など昨季から岡山が苦杯を舐めた、苦戦をしたチームには確固とした自分たちのスタイル、サッカーがありました。
全てのそういうチームに苦戦している訳ではないのですが、ファジアーノ岡山の真の弱み、それは個別のポジションやシステムもといったことよりも、困難な時に立ち還る自分たちのスタイル、いわば「岡山スタイル」を確立出来ていないことにあると筆者は以前から考えています。

それは、昨季リーグ戦で3勝しながら肝心のプレーオフで負けてしまった山形や、昨季のJ1昇格プレーオフ決勝戦「京都vs熊本」を観て感じたことなのです。

手前ミソではありますが、そうした主張を述べた記事です。

ここで誤解をしてほしくないのは、ポゼッションをやればいいという事ではないのです。保持か非保持かという戦術論を超えたところで考える必要があるのかなと?筆者は考えています。

そのヒントを、今回の対戦相手いわきは、岡山に提供してくれたのではないかと思ったのです。今回のレビューがいわきの成り立ちを辿ることからスタートしたのはそのためです。
現実的にいわきがこの先J2上位に進出するには、もう少し攻撃パターンを増やす必要があるとは思ったのですが、ベースに地域に根付いた確固たるサッカースタイルがある分、あっという間に新たな戦術も身につけてしまうのではないかと筆者はライバルクラブのサポーターとして危機感を持っています。

期しくも、この試合前、ファジステージではファジアーノの木村オーナーと北川社長、フロントスタッフとしてお馴染みの櫻内さんのトークショーが開催されました。
木村オーナーが最近会ったファジアーノОBとして先日現役を引退された田中奏一さんや田所諒さん、会えなかった?片山瑛一(柏)らの懐かしい名前が挙がっていました。

オーナーと社長とフロントスタッフのステージがこの活況
これがファジアーノ岡山である


彼らはファジサポが何年もファジアーノらしさの代名詞として語っている「泥臭さ」、「ひたむきさ」、「実直さ」を特に体現していた選手だと思いました(筆者の見解です)。
この試合の同点PKを獲得した(19)木村太哉の突破は確かにボックスの外かもしれません。しかし、あと一歩、二歩足を運んでボックス内に侵入してやるという彼の気迫、執念はまさにファジアーノ岡山らしさだと思うのです。

岡山にも引き継いできた魂は確実に存在するのですが、ただそれが「泥臭さ」という言葉から、具体的に90分間戦うサッカーのスタイルに昇華させることができた時に初めてJ1が手に届くところにやってくるのかもしれません。

ファジゲートは有料媒体ですので、ここで詳細に触れることは出来なくて残念なのですが、木村オーナーの連載はぜひお読みいただきたいです。
岡山をどんなクラブにしたいのか、県民に愛されるクラブとしてどうあるべきなのか、クラブ草創期に打ち出されたクラブ像について書かれています。
筆者は知らなかったことがありました。

いわきが「浜を照らす光となれ」でしたら、岡山は「岡山(県民)を導く光となれ」なのでしょうか?

今回もお読みいただきありがとうございました。
藤枝戦前夜の更新ということは、藤枝戦のレビュー作成も迫っており水曜日は熊本戦…。背筋が寒くなってきましたが頑張ります。

木村が執念のPK獲得
献上したIPU在学中の特別指定選手辻岡
これも何かの縁なのか
今後も注目したい選手
いわきの選手たちはとにかく攻守の切り替えが速い
岡山の中盤も苦労した
ハンと辻岡の攻防
ハンも動き自体は良い
復帰した河井のパスには
メッセージが込められている
今シーズン初先発となった堀田は
守備範囲の広さをアピール
サイドを抉るルカオ
徐々に持ち味を発揮

※一部敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?