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台湾有事は絵空事ではない 備えの構築が急務な日本|【WEDGE SPECIAL OPINION】台湾統一を目論む中国 「有事」の日に日本は備えよ[PART3]

今年8月のペロシ米下院議長の訪台に、中国は大規模な軍事演習で応えた。「台湾有事」が現実味を増す中で、日本のとるべき道とは何なのか。中国の内情とはいかなるものか。日本の防衛体制は盤石なのか。トランプ政権下で米国防副次官補を務めたエルブリッジ・コルビー氏をはじめ、気鋭の専門家たちが、「火薬庫」たる東アジアの今を読み解いた。

「平時の備え」が有事に生きる──。日本でもタブーなき議論を行い、備えを万全にすべきだ。

文・尾上定正(Sadamasa Oue)
日本戦略研究フォーラム(JFSS) 政策提言委員
1959年生まれ。元空将。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊入隊。米ハーバード大学ケネディ行政大学院修士。米国防総合大学・国家戦略修士。航空自衛隊補給本部長などを歴任。現在、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)シニアフェロー。


 中国が台湾周辺で弾道ミサイル発射などの「重要軍事演習」を実施し、〝威嚇〟を繰り返していた8月6~7日の両日、日本戦略研究フォーラム(JFSS)主催の「第2回台湾有事政策シミュレーション」が開催された。

 初めてだった昨年は「いかに抑止し、対処するか」を副題に、台湾有事が発生した場合──中国によるサイバー攻撃や台湾本島への軍事侵攻、尖閣諸島や与那国島の占拠など──どのような様相となり得るか、4つのシナリオで検証した。

 2回目となる今年は、「いかに備えるべきか」に主眼を置き、筆者は当日のシナリオ作成の主担当として、台湾有事に際して日本が備えておくべき体制や解決すべき課題を抽出し、政策提言につなげることを目指した(シナリオ内容は下表)。

シナリオはタブーを排して、起こり得る事態を想定した

(出所)筆者作成

 同時に、政治家や政策担当者、国民の関心を高めるため、シミュレーションの状況を新聞・雑誌・テレビなどの各種メディアやオブザーバーに広く公開することとした。当日は首相や官房長官、財務相、防衛相、外務相、国土交通相、経済産業相役などを担う10人の現職国会議員にもご参加いただき、大きな関心を集めた。

 今回のシナリオには、「中国による核の恫喝と使用」も用意した。シナリオ作成を開始した昨年11月頃、筆者は「核兵器の恫喝など非現実的だ」と批判されるのではないかと正直、悩んだ。だが、今年2月24日、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が米国の介入抑止のため、「エスカレーション抑止」という核による恫喝を実際に行った。世界は今、現実の脅威として核による恫喝に直面している。

 シミュレーションとはいえ、公開の場でさまざまな状況を判断し、必要な指示を行うことは、安全保障・軍事に詳しい政治家にとっても極めて勇気のいることであり、真摯な検討に感謝したい。

 ゆえに、2日間で浮かび上がった諸問題は、属人的な能力で解決できるものではなく、速やかにそれらの欠陥を是正するための法令や制度改正が不可欠である。厳しい言い方だが、それは、本シミュレーションに参加された政治家に課された〝宿題〟であり、全ての日本国民が向き合うべき〝課題〟だと認識する必要がある。

困難な判断と決断が迫られる
シナリオで表出した課題

 2日間にわたる3つのシナリオ演習の結果、日本が備えるべき課題が多数抽出された。以下、主要課題を取り上げる。

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