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和歌山紀北の葬送習俗シリーズ

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和歌山紀北の葬送習俗(11)葬具と棺の調達

和歌山紀北の葬送習俗(11)葬具と棺の調達

▼今回は、葬具と棺の調達を取り上げてみます。葬儀、葬式で使う葬具と棺は、線香とロウソクを除いては日常生活で使うことはまずありません。普段見慣れない葬具や棺が目の前にあるという非日常的な光景は忘れがたく、また、凝った装飾や彫刻に満ちた祭壇は一種の「舞台装置」のようなものです。

1.葬具をどこから調達するか

▼葬具の調達は、今は葬儀屋が全部やってくれます。また、自宅、葬儀場を問わず、葬具や棺の類は

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和歌山紀北の葬送習俗(10)葬式組

和歌山紀北の葬送習俗(10)葬式組

▼昭和後期の話。祖母が未明に亡くなり、管理人は忌引きのため学校を欠席して自宅にいました。と、割烹着を着た近所の女性十数名がドカドカドカっと家に上がり込んできたのです。普段はありえない光景で、祖母の死以上に「なにごと?」と驚いたことを今も鮮明に覚えています。これが村落共同体における葬儀、葬式の実際です。
▼村落共同体では、死者が出ると集落全体が一つになって葬儀、葬式を滞りなく済ませる全体責任のような

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和歌山紀北の葬送習俗(9)別火

和歌山紀北の葬送習俗(9)別火

▼「ベツビ(別火)」という言葉をご存じでしょうか。意味は読んで字の如く、別の場所で火を焚くことです。さきに『和歌山紀北の葬送習俗(5)死忌み』で、死者を出した喪家のあらゆるものには忌がかかるという観念を取り上げました。そして、死忌みは喪家で焚く火にもあてはまります。この、火にも忌がかかるという観念のおかげで葬儀、葬式の段取りが結構面倒臭いことになっていたのです。そこで、このページでは別火という習俗

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和歌山紀北の葬送習俗(8)遺体まわり

和歌山紀北の葬送習俗(8)遺体まわり

▼まず、このページには死体に関する描写があります。読み手に心的外傷を与える可能性があるので注意して下さい。学問的な文脈から述べるにすぎないものですが、一切の責任は問いかねます。
▼登場する市町村名とその位置は『和歌山紀北の葬送習俗(3)死亡前の習俗』を参照して下さい。ほとんどの事例は全国各地にみられることから、掲出している市町村名にあまり意味はありません。

▼さてさて、あくまでも遺体を自宅に安置

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和歌山紀北の葬送習俗(7)枕飯

和歌山紀北の葬送習俗(7)枕飯

▼今の葬儀場で遺体のそばに枕飯が供えてあったとしても、枕飯はそれが誰によって、どこで炊かれたものであるかという点が非常に重要で、もしかするとその枕飯は「本物」ではないかも知れません。ということで、今回は枕飯を取り上げてみます。
▼登場する市町村名とその位置は『和歌山紀北の葬送習俗(3)死亡前の習俗』を参照して下さい。ほとんどの事例は全国各地にみられることから、掲出している市町村名にあまり意味はあり

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和歌山紀北の葬送習俗(6)遺体の取扱

和歌山紀北の葬送習俗(6)遺体の取扱

▼まず、このページには死体に関する描写があります。読み手に心的外傷を与える可能性があるので注意して下さい。学問的な文脈から述べるにすぎないものですが、一切の責任は問いかねます。
▼昔むかし、人が死亡すると遺体は自宅に安置されるのが普通で(というか、自宅で葬儀するのが普通でした)、昭和キッズたる管理人も自宅や親類宅に安置された遺体を何度か見ています。今は、葬儀屋さんのおかげで遺族が遺体をどのように取

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和歌山紀北の葬送習俗(5)死忌み

和歌山紀北の葬送習俗(5)死忌み

▼日本には、身内に不幸があると「キビキ(忌引き)」として学校を数日間休んでよいという決まりごとがあります。忌引きの「忌(いみ)」という文字が縁起の悪いものであることは、日本に生活する誰もが共有しています。忌とは、要するにケガレ(穢れ)のことです。特に、身内に不幸があると喪家や親族、同じ集落に住む人びとがにわかに忌を気にし始めます。この、人の死亡に伴う忌のことを「シイミ(死忌み)」などといいます。今

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和歌山紀北の葬送習俗(4)死に飛脚

和歌山紀北の葬送習俗(4)死に飛脚

▼「飛脚」という言葉は歴史の授業で一度は習っているとしても、「シニビキャク(死に飛脚)」という言葉は高齢者以外は日常的に聞いたことがないはずです。死に飛脚という習俗が今は必要がなくなったからです。
▼死に飛脚とは、人が死んだときに集落内や親族にそれを知らせて回る人のことをいいます。今は電話があるので、死に飛脚は全く必要がなくなりました。ところが、死に飛脚の習俗はなぜか昭和後期まで強固に残っていまし

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和歌山紀北の葬送習俗(3)死亡前の習俗

和歌山紀北の葬送習俗(3)死亡前の習俗

▼かつての日本には、人が死ぬ前からその家族や関係者が何らかの呪術的な振る舞いをする習俗があったことが知られています。管理人自身は、時代的、世代的にそのような習俗を受け継いでいません。しかし、愛する人が命を終えようとしているときにその生還を希求する気持ちや行為、習俗は別段奇怪でも不思議でもなく、ごく普通の人間としての正常な反応なのではないでしょうか。

1.死亡前の習俗のディテール

▼死亡前に行わ

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和歌山紀北の葬送習俗(2)葬式の呼び名

和歌山紀北の葬送習俗(2)葬式の呼び名

▼今でこそ、死者を葬る儀式のことは全国ほぼ共通して「葬儀」や「葬式」などと呼ばれていますが、管理人が小さい頃(昭和後期)には祖父母はそのような呼び方をしていませんでした。
▼かつての人びとは、葬儀や葬式のことを何と呼んでいたのでしょうか。これには、「そもそも葬儀、葬式とは何か」あるいは「どこからどこまでが葬儀、葬式なのか」という定義の大問題が関係しており、当然この範囲には地域差があるので、現在も定

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和歌山紀北の葬送習俗(1)予備知識

和歌山紀北の葬送習俗(1)予備知識

▼まず、このページには死体に関する描写があります。読み手に心的外傷を与える可能性があるので注意して下さい。学問的な文脈から述べるにすぎないものですが、一切の責任は問いかねます。
▼葬送は忌むべき習俗でありながらも、児童期、少年期の貴重な生活体験の一つとして管理人の記憶に残っているので、局地的な事例を交えながらそのディテールに迫ってみたいと思います。

1.死体をめぐる観念

▼人はいったい、何歳く

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