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関西学院中学部&高等部の思い出

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学生時代、関西学院中学部 関西学院高等部 の思い出にまつわるエッセイです。還暦を迎える2020年、ウイルス自粛のゴールデンウィークに、記録目的で、アップしていこうと考えました。同…
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2020年5月の記事一覧

エッセイ キャプテン

エッセイ キャプテン

 
  【キャプテン】

        久保研二 著
                
 トーナメントのように必ず勝敗をつけねばならないサッカーの試合で、規定の試合時間を終了しても決着がつかなかった場合、通常PK戦が行われる。

 高校サッカーでは試合時間が若干短いが、普通は45分の前後半と、延長戦の前後半を加えた120分を戦ったあと、ひと呼吸おいてから双方5人ずつがゴールキーパーと1対1で対峙

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エッセイ ゼロ戦はやと

エッセイ ゼロ戦はやと

 忘れもしない。関西学院高等部、3年の時だった。

 科目は……たぶん数学だったと思うのだが……なぜか教師の記憶がない……とにかく、低い平均点が予想される、極めて難易度が高い小テストがあった。

 そして次の授業で、採点後の答案用紙が返却された。

 注目は、クラスで誰が最低で、しかもそれが何点なのか? ということだった。

 ご丁寧に教師は、1人ずつ、名前とともに、点数を読み上げて、教壇に招き、

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エッセイ サンボアのおばちゃん

エッセイ サンボアのおばちゃん

 このあたり(山口)で翁といえば宇部興産の創業者、渡辺祐策(すけさく)を言うようだが、私が育った阪神間では、なんと言っても小林一三(いちぞう)である。

 翁は現在の阪急電鉄、阪急百貨店、宝塚歌劇、などをはじめとする阪急東宝グループの創始者であり、私が関西を離れているうちに、いつのまにか阪急は阪神まで吸収してしまったらしい。

 実業家であるとともに文人でもあった小林一三は山梨の出身で、故郷を思い

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エッセイ ませた高校生

エッセイ ませた高校生

 関学高等部時代からの同窓生との付き合いをあらためて振り返ってみると、意外と現役の時にはほとんど付き合いがなかった友人と、大人になってから当たり前のように付き合っていることに気づいた。

 その中には、現役高等部生だった時にはほとんど話をしたことがない、さらにはその存在すら知らなかった人物も、そこそこ居るから驚きである。

 私は中高6年間、サッカー部に属した。
 よって、その前後の学年との面識は

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エッセイ 高等部の思い出 【隣りの席】

エッセイ 高等部の思い出 【隣りの席】

 中学部の3年生の時の悩みは、今の金欠と同じくらいにわかりやすかった。

 それは、中学部から高等部へ進学できるかどうかの一点。

 私が通っていた中学は、私学のいわゆる名門校で、中高大の10 年一貫教育が売りだった。

 私は小学生、高学年の時は秀才だった。
 さらに、3、4年生の時は天才。
そして低学年では神童。
 幼稚園以前はまさに神の子か妖精と言われた。
 時代が過去に遡るほど、まば

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エッセイ 陽だまりの町

エッセイ 陽だまりの町

 関学高等部のクラブハウス。
 我がサッカー部の隣りが、ラグビー部の部室だった。

 授業が終わり、ユニフォームに着替え、スパイクを履いて通路に出ると、左側からラグビー部の黒田が声をかけてきた。

 黒田と私はクラスが同じで、彼は私と大違いの、いわゆる"ええしの子"(お金持ちの子供)で、育ちの良さが全面に沸き出ている嫌味のない好青年だった。

 ふと見れば、黒田の後ろに、見慣れない顔がある。
 黒

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エッセイ 舌は笑いの根

エッセイ 舌は笑いの根

 最近は、なぜだかあまり聞いたり使ったりしなくなったが、"箸が転んでもおかしい年頃"という表現がある。

 ちょっとしたことでもなぜかケラケラと良く笑う、概ね10代後半の女性のことをいう。

 私はたまたま、10 代後半、つまりムンムンの思春期である中学と高校が、エスカレーター式の男子校だったのだが、たとえその場に男しかいなくても、その年頃は隙あらば笑おうと常に身構え、互いにネタを察知するアンテナ

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エッセイの素(病床日誌 7)完結

エッセイの素(病床日誌 7)完結

その7 《某月某日》

 最近特に思う。

「人生は、燻製(くんせい)だな」と。

 そういえばその昔、高校の遠足かなんかで津山の博物館を訪れたさいに、当時の英語のN先生(故人)が、ヒグマの剥製の展示の前で、

「クボくん、スゴイ"くんせい"だね」と言ったことがあった。

 さすが英語の先生だと感心した。

 また同様に、我が恩師である柔道の豪傑M先生が、これまた、クマに勝るとも劣らないゾウ

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エッセイ 色々な思い

エッセイ 色々な思い

 鮮やかな黄緑色のポロシャツを買った。やや蛍光がかっている。

 着るものが変わると妙にわくわくする。これは重要なことだ。なぜなら私におけるファッションは「他者からどう見られるか」などとは無関係であり、あくまで自己の気分的高揚を最優先する手段のひとつであるからだ。

 けれども、なぜかこの蛍光がかった黄緑色がひっかかった。コンプレックスが潜んでいる気がして、どうしようもなく気色悪い。

 しかたが

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エッセイ 杉中洋成のこと

エッセイ 杉中洋成のこと

 【杉中洋成のこと】 中編
       久保研二 著                                       
 夢と現実の交錯

【一】
 
 その男からの電話は必ず、

「オマエか?俺や」

 というふうにかかってくる。
 
 この、第三者が聞けばとんでもなく無意味で曖昧なやりとりが、やたらと本人のお気に入りだった。

 私にそんなふうに電話をかけるのが余程嬉しかったので

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エッセイ えべっさん

エッセイ えべっさん

 中学の体育の授業で1500m走の計測があった。不幸にも、私はその日に限って運動靴(トレーニングシューズ)を忘れた。

 サッカー部の部室に常備していたつもりが、ロッカーの中にはなぜか底に6本のポイントをはめ込んだサッカー専用のスパイクしか見当たらない。
 数日前、一度洗って乾かそうと家へ持ち帰ったことを思い出して悔やんだ。

 その日通学のために履いていったのはスエードのハーフブーツ。私は特に

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