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イギリスで抹茶ケーキを焼いてます


イギリスのお菓子は甘い。日本人には甘すぎると思う。
なかなか好みの市販品に出会えず、またバターや砂糖が日本より安く種類も豊富なこともあって、時々焼き菓子を作るようになった。といっても難しいものは作れない。とりあえずパウンドケーキの型を買い、味を色々と変えてみる。

最近家族や友人に好評だったのは、抹茶ケーキだ。故郷の福岡で買い込んでおいた抹茶を使った。急に引っ越すことになったインドネシア人の友人の餞別として焼いたのだった。メイという、近所に住む散歩友達である。彼女の娘のボーイフレンドは、お母さんが日本人だそうだ。そのためか、抹茶とか巻き寿司とか、日本食に興味をもってくれていた。

生真面目な直方体に焼き上がった抹茶パウンドケーキは、包丁を入れると断面が鮮やかな若緑色に仕上がっていた。不器用なくせに日本らしく見せたくて、頂きものが入っていた箱に苦心して収める。メイは娘と食べてとても美味しかったと言ってくれ、私たちは別れを惜しみつつパリでの再会を約束した。

普段でも気が向いた時や、娘の一週間分のアフタースクールスナック(お迎えの時、必ずおやつを欲しがる)としてケーキやクッキーを焼く。気晴らしであり、ささやかな趣味ともなりつつある。押し付けるつもりは全くないけれど、もらってくれるという人があれば差し上げる。

「けっこう美味しくできたと思うから、よかったら食べてみて」

できるなら自分が書くものも、そんなふうにおすそ分けできたらと思う。
日々の暮らしの延長線上に、書き物も置きたい。たとえば勧めた本が面白かったよと言われるときと、あのお菓子おいしかったよと言われるときの心持ちは、かなり似ている。だからきっと、大した違いはないのだ。お菓子をプレゼントするのも、書いたものを読んでもらうのも。

だから難しく考えず、お互い身構えないで、気軽にシェアできたらうれしい。

私たちの毎日を彩ってくれるものはたくさんある。ドラマや映画、ミュージカル。服や靴、バッグにアクセサリー。特に今住んでいるロンドンは、ミュージカルやダンス、演劇や音楽といった文化が身近にある街だ。

私は欲張りだから、何でも味見してみたい。日本で読んだことのなかったシェイクスピアやヨーロッパの歴史にも手を出しつつある。
さらに贅沢をいえば、そう、夢が一つ叶うなら、自分が書いたものがケーキのように店の棚に並んだらどんなに嬉しいだろう。
ビートルズの曲に、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」というのがある。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」にも触発されたというこのドリーミーな歌のようにふわふわと、私はこの街でまだ夢を見ている。
ロンドンという愛おしいほどに時代遅れで、絶望的に夢見がちな人々が住む街で。

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