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『グスコーブドリの伝記』
まもなく新米の季節が到来・・・と言いたいところですが、世間では絶賛米不足です。なくなって初めてそのありがたみがわかること、今回も痛感しています。
今月の賢治コースは、宮沢賢治が生前に発表した数少ない作品のひとつ、『グスコーブドリの伝記』を取り上げます。主人公の少年ブドリは、冷害による飢饉がおこり両親を失い妹と生き別れ、農業に携わったのちにクーボー博士と出会い学問の道に進みます。噴火被害を軽減したり
『気のいい火山弾』(宮沢賢治)
苔は、むしられて泣きました。火山弾はからだを、ていねいに、きれいな藁や、むしろに包まれながら、云ひました。
「みなさん。ながながお世話でした。苔さん。さよなら。さっきの歌を、あとで一ぺんでも、うたって下さい。私の行くところは、こゝのやうに明るい楽しいところではありません。けれども、私共は、みんな、自分でできることをしなければなりません。さよなら。みなさん。」
「東京帝国大学校地質学教室行、」と書
『三四郎』(夏目漱石)
三四郎もとうとうきたない草の上にすわった。美禰子と三四郎の間は四尺ばかり離れている。二人の足の下には小さな川が流れている。秋になって水が落ちたから浅い。角の出た石の上に鶺鴒が一羽とまったくらいである。三四郎は水の中をながめていた。水が次第に濁ってくる。見ると川上で百姓が大根を洗っていた。美禰子の視線は遠くの向こうにある。向こうは広い畑で、畑の先が森で森の上が空になる。空の色がだんだん変ってくる。
もっとみる『若菜集』より「春の歌」(島崎藤村)
たれかおもはん鶯の
涙もこほる冬の日に
若き命は春の夜の
花にうつろふ夢の間と
あゝよしさらば美酒(うまざけ)に
うたひあかさん春の夜を
詩集『若菜集』は島崎藤村の最初の詩集です。明治29年頃、24歳だった東村は仙台へ行き、古い静かな都会で過ごしながら宿舎で書いた詩稿を毎月東京へ送り、雑誌に掲載していたものを一冊に集めて翌年に出版しました。東北の遅い春を迎えながら書かれたという状況を想像したり、
『貝の火』(宮沢賢治)
南の空を、赤い星がしきりにななめに走りました。ホモイはうっとりそれを見とれました。すると不意に、空でブルルッとはねの音がして、二疋の小鳥が降りて参りました。
大きい方は、まるい赤い光るものを大事そうに草におろして、うやうやしく手をついて申しました。
「ホモイさま。あなたさまは私ども親子の大恩人でございます」
ホモイは、その赤いものの光で、よくその顔を見て言いました。
「あなた方は先頃のひば
『チュウリップの幻術』(宮沢賢治)
「ええ、全く立派です。赤い花は風で動いている時よりもじっとしている時のほうがいいようですね。」
「そうです。そうです。そして一寸あいつをごらんなさい。ね。そら、その黄いろの隣りのあいつです。」
「あの小さな白いのですか。」
「そうです、あれは此処では一番大切なのです。まあしばらくじっと見詰めてごらんなさい。どうです、形のいいことは一等でしょう。」
洋傘直しはしばらくその花に見入ります。そしてだま