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或る女性の夢《Dream Diary 31》


xxxx年05月26日(x)


 或る女性が床に腰を下ろし、背中を壁にもたれ掛けていた。元気の無さそうな表情の彼女は、私に向かってか細い声で何かを告げたのだが、どんな言葉だったのか思い出せない。私はしゃがんで彼女を横から軽くハグすると、あなたが好きだという意味のことを彼女に告げた。そういう意味のことを言ったのであって、はっきり「好きだ」と告げたわけではないが、私はいずれこの女性と一緒になるのだと思った。しかしその後すぐに、この女性には身体のどこかに欠陥があるという事を思い出した。しまった、言わない方が良かったか、という思いが一瞬去来した。だがすぐに、そんな気持になったことへの罪障感が心に湧いてきた。私はずるい男、冷たい男、意気地のない男だ。欠陥があるのは私の心の方ではないか。身体だってもう若い男のような元気は無い。心身の欠陥や欠点などはお互い様だ。彼女のすべてを受け入れよう。そして彼女に私のすべてを委ねよう。身も心も。そう自分に言い聞かせる他、私の罪障感を消し去るすべは無いようだった。だが、消し去ることが出来るのだろうか。本当は言わなければ良かったという思いが、今も心の奥にあるのではないか? 分からない。いや本当は分かっているのではないか? それにしても、か細い声で彼女は私に何を言ったのだろう。夢の中ではいつも肝心のことを聞き漏らしてしまう。いや、忘れてしまう。それに、私は好きという言葉を使わずに、彼女にそういう意味のことを告げたのだが、実際はどんなことを言ったのだろう。思い出せない。彼女の言葉と私の言葉。二つの謎の言葉を焦点とする楕円軌道を、私の心は惑星となって回転し続けるのだった。虚空の中を、文字通りのまどう星として。
 



Artwork by odd nerdrum



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