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2024年6月20日 「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」 感想 ネタバレあり

さて、先日、非常に面白かった
アンソニー・ホロヴィッツの「ナイフをひねれば」を書き終わってしまい、
(15時間39分)
次にAudibleで、何を書こうか悩んでいたところ、
Audible側がお勧めしてきたのが、
高殿円「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」でした。
かの有名なシャーロック・ホームズシリーズの舞台を現代に移し、性別を反転させたミステリーです。
後述しますが、
そもそもシャーロック・ホームズ大好きな子どもだったため、
ホームズ・パスティーシュ、ホームズ風のお話にはただ心惹かれます。
しかし、大好物ゆえに、面白くなかったら、つらいかなぁと思い、
やや悩んだのですが、
5時間38分と聞きやすい時間でもあり、
えいや!と選んでみました。
…。
結論、大当たり、大変面白うございました。
ホームズ好きが読んでも楽しめる作品です。
散りばめられた名前や地名にワクワクできると思います!
今回もネタバレなしで感想を書くのは至難の業ですので、
絶対にネタバレを読みたくないと言う方は、
ここでブラウザバックしてください。
この先はネタバレしかない…とは言いませんが、
聞いて(読んで)こそ面白い設定がたくさんあるので、ぜひ、お手にとってからまたいらしてください。


シャーロキアンだった子ども時代を思い出す

この記事でも言及していますが、
小学生でシャーロック・ホームズに出会ってから
その物語の面白さ、
そして、キャラクターの素敵さにすっかり魅了されていました。
初恋の相手は、シャーロック・ホームズと言ってもいいほどでした。
「シャーロック・ホームズの冒険」を何度も何度も読んだことを思い出します。
長身で、類稀なる推理力を持ち、ワトソンとの友情に厚い一方、
阿片依存で、偏屈なところもあるシャーロック!
挿絵は古いもので、シャーロックは日本の漫画的なハンサムには描かれておらず、怖いような風貌でしたが、
それでも心惹かれていました。
危険な魅力のある大人に憧れていたということでしょうか。
(実は心惹かれるキャラクターは、かっこいいだけではなく、どこか、偏屈なキャラクターばかりです。)
いつか、イギリスはロンドン、ベイカー街221bに行ってみたいものだと夢想していたことを思い出します。
シャーロック・ホームズは特別な存在なのです。
本作品は、また新しい、ホームズシリーズの楽しみ方を,教えてくれた気がします。
この本を読み終わって、
中学生くらいの自分がこの作品を読んだら、
さっそく、2次創作をするくらいはまっただろう、と思うのです。

素敵なキャラクター造形と声


さて、今作の語り手は、「女医」のジョー・ワトソン。
元となったワトソンと同じく、アフガン帰りの元軍医で、ハーレクインのような小説を書いていたいわゆるアラサーの赤毛女性となっています。
ジョーを演じる語り手が可愛らしいお声なこともあり、素直で、可愛い印象です。
一方、シャーロック・ホームズ役は、シャーリーと言う、
人工心臓を持つ、長身黒髪の美しい女性です。
シャーリーは、推理力に秀でているだけでなく、
半分電脳探偵で、あり、
ウェブ上のデータに「ダイブ」でき、
また馬術の腕前はオリンピックの代役に選ばれるほど、
そして、ヴァイオリンと蜂の研究を好む、となっています。

シャーリーの声もも玲瓏としたお声の読み手が担当しており、
2人のキャラクターが、あまりにもドラマチックなので
アニメ絵の挿絵があっても納得してしまいそうになります。
もちろん、シャーリーの外見は、
原作で「例えるならエヴァ・グリーン」と表現されているので、
アニメ絵的な外見では全くないのですけれど…。
ただ、audibleの感想にもあったように、後半、ジョーが叫ぶシーンがいくつかあり、
そこの音量はいきなり大きすぎたので調整してほしいところです。
AIの声は素晴らしかったです。

せめたトリック

今回は、シャーリーとジョーが出会ってルームメイトになり、
そして、別々の場所で4人の女性が同じ殺され方をする事件が起きる…と言う展開です。
この、トリックになかなか驚かされました。
考えたこともない…というかかなり意外性のあるトリックでした。
あのトリックに気づいた読者はいるのでしょうか…。
まあ、アンソニー・ホロヴィッツのように
書かれている情報から推理できるタイプのミステリではないと思うので、
そもそも犯人あてやトリック当てをする読者層ではないのかも…とは思います。
とはいえ、度肝を抜かれるトリックでした。

女性が多すぎる??  

主要人物は皆、女性です。
名前がわかっているのは、ハドソンさんと、シャーリーの主治医ベル博士ぐらいでしょうか。
それも、今作では時間に深く関わるわけではありません。
「女性ばっかりだなぁ…」とはたと途中で思ったのですが、
次の瞬間、自分の浅はかさに気づきました。
シャーロック・ホームズシリーズを忠実に、男女反転で、パスティーシュすると、何もおかしくないのです。
つまり、そもそもの、シャーロック・ホームズシリーズは
男性ばかりのお話でした。
時折アイリーンアドラーのような印象的な登場人物や被害者があるにしても、圧倒的に、男性が多い物語だったのです。
そのことに、本作品を聞くまで、気づかなかったのです!!!!
恐ろしい!
探偵も助手も刑事も依頼人も被害者も犯人も男性でも何も思わなかったのに、
それを反転させると違和感を感じてしまった自分に驚愕しました。
自分の中にある、バイアス、
当たり前だと思っている物語がすでに、歪んでいる可能性にこの作品を聞いて、思い至ったのです。
先にあげた、トリックの意外性はもちろんですが、本作品で1番驚かされたのは
自分の中にある思い込みに光を当ててもらったことなのです。

エンターテイメントで、実は社会派



本作はテンポが良く、キャラクターのたった作品です。
Audibleでは、5時間38分と短く、気軽に聞き始められます。
トリックこそ、意外性はありますが、ひどく難しい描写などは出てきません。
ですから、エンターテイメント性の高い、とっつきやすい作品に思えるのです。
実際、感想にはキャラクター造形が浅いのでは?と言うようなコメントがあった気がします。
しかし、これは作者の演出であるのではないか?と思うのです。
むしろ、個人的には、手に取りやすく、読みやすい風の作品に
様々な社会派な視点や設定がしっかり組み込まれている、と感じています。
先にあげたように、
どうして主たる登場人物は女性なのか?に始まり、
オリンピックの社会的効果、
タックスヘイブン、
犯人の犯行動機の現代性と普遍性から、
主人公がシャーリーと同居するまでの経緯まで、
深掘りして、思考実験をするテーマにことかかないようになっているのです。
楽しみながらも、ふと「これってどう言うことだろう?」「どうしてこうなのだろう?」と思考を巡らせるような作品になっています。
この作品を聴き終わって、著者の高殿円さんの他の作品も気になってきました。
このシリーズを聴き終わったら、
他のシリーズも聞いてみるつもりです。
「忘らるる物語」については購入しようかと思っています。
Audibleのおかげで、新しく好きな作家さんを見つけることができて、嬉しいです。

ジョーは信頼できる語り手なのか?


さて、この作品において、
外見も才能も実家も、類稀なのは、シャーリー・ホームズです。
エキセントリックな生活をしているところも多々描写されています。
(ブラジャーをつけないとか、m&mのチョコレートが非常食とか…)
しかし、それはミスディレクションで、読者は「ジョー・ワトソンは比較的普通の女性」と思い込まされているのではないか、とも思うのです。
と言うのも、いくつかの場面でのジョー・ワトソンの感情がよく理解できなかったのです。
ジョー・ワトソンは嘘をついたりはしませんが、時々、明日「鈍く」なるのです。
あの「鈍さ」は、作品の後半でちらっと触れられていたものの、今後の展開に大きく影響しそうと感じています。
このシリーズにおける、ジョー・ワトソンは信頼できる語り手なのか?、
ある年齢の可愛らしい女性であるジョー・ワトソンと言うキャラクターは
彼女の一面に過ぎないのではないか?と
彼女の体験してきたこと、彼女が生き抜いてきた人生から形成されたのがあの明るい性格だとしたら?、と
読み終わってから色々と考え込んでしまいました。
考え込みすぎなのかもしれませんが、
様々な仕掛けをしてくださった著者のこと、きっと何か意味があるのでは…と感じています。
次作を聞くのが、本当に楽しみです。
巻末の「シャーリー・ホームズとディオゲネスクラブ」という短編も非常に面白かったです。
次の巻への期待が高まる内容でした。
(すでに、Audible化されているんですよ!!)
Audibleに入ったけれど何を聞いてみたらいいかわからない、
家事や運動をしながら、面白い小説を聞きたいという方には
そして、何より色々なことに悩める女性であれば、
「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」、
おすすめの作品です。









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