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2024年9月9日「今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる」感想


Audibleで、畑中章宏「今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる」講談社新書100を聴き終えたので、その感想です。
先日、「忘れられた日本人」を聞いて、衝撃を受け、宮本常一をもっと聴きたいと思ったのですが、
Audibleには、
「忘れられた日本人」以外の著作はなく、
こちらの新書を見つけました。


宮本常一の写真の良さ


宮本常一は自身の手で、数多くの写真を資料として、撮ったことでも有名ですが、
被写体としても、堂に入っている人です。
いわゆる美形ではないのですが、とにかく良い、魅力があります。
この新書の表紙も空を背景に、つばのある帽子をちょいと斜めに被り、こちらをむいて微笑んでいる宮本常一の写真になっています。
少し眩しそうな、はにかんだような微笑み方で、何とも親しみが持てる写真です。
「こんにちは」という挨拶や話を促す相槌が聞こえて来そうな、表情です。
この微笑みを携えて、地方を周り、家々に入れてもらったのだろう、とすぐにわかります。
この写真に、引き寄せられるように、本書を選びました。
亡くなってもなお、宮本常一の魅力は健在のようです。

100ページ、3時間7分とコンパクト


こちらの新書は、講談社新書100というものです。
100ページで読める新書というコンセプトで、2022年に刊行されたシリーズのようです。

知の世界へ誘う100ページ「現代新書100(ハンドレッド)」創刊|好書好日


現代新書の新シリーズ「現代新書100(ハンドレッド)」刊行開始!!
1:それは、どんな思想なのか(概論)
2:なぜ、その思想が生まれたのか(時代背景)
3:なぜ、その思想が今こそ読まれるべきなのか(現在への応用)
テーマを上記の3点に絞り、本文100ページ+aでコンパクトにまとめた、。
「一気に読める教養新書」です!

Audible説明より

Audibleとしても短く、3時間7分、あっという間に聴き終えることができます。
民俗学の研究者、社会活動家であった宮本常一を「思想家」として捉え直して、紹介している内容です。
宮本常一の著作について、引用しながら、わかりやすく紹介してくれていますから、入門書としては最適ではないでしょうか。
ただし、宮本常一の著作を読んだ後だと、その濃厚さに比べて、ややあっさりした印象を受けるかもしれません。
少なくとも、私はもっと突っ込んだ情報が知りたい気持ちにもなる…とも感じました。

宮本常一の思想


宮本常一は自身を「思想家」であると自認はせず、むしろ否定していますが、その精力的な研究の源には、彼なりの思想があったのだというのが著者の考えです。
著者は、宮本常一の思想について「心情的には保守であり、理性的にはリベラルだといっていいのではないか。保守といっても国家主義者ではなく、共同体主義。アナーキズムと親和性があるかもしれない」と言います。
「主流にならぬことだ。傍流でい続けることだ」という渋沢敬三の教えを固く守った宮本常一は、庶民としてひとくくりにされつつ、傍流に押しやられた、様々な人々の語りを丁寧に拾っていった研究者です。日本民俗学の祖、柳田國男の民俗学が「日本人はどういう民族でどこからやってきたのか」から始まったとすれば、それに対する宮本常一なりの返答が「日本にも様々な生き方をする人々がいる」ということではなかったかと個人的には思います。
つまり、単一民族、ひとつの文化をもとにした民族ではなく、様々な生き方、様々な働き方を含んだ多様性のある民族であるということです。
また、西洋文化に対して、遅れているとされていた自国の文化や慣習の中にエキゾチックで神秘的な部分だけでなく、合理的で民主的な部分もあったことを埋没させまいと、全国を渡り歩き、フィールドワークをしたのではないかと感じました。

もっと知りたい宮本常一


個人的に興味があるのは、宮本常一が郷里の周防大島から大阪へででて来た頃の生活や女性に対する眼差し、また宮本常一自身の家族についてです。
本書では、宮本常一は大阪へ出て長屋で暮らし、そこで、手紙の代筆などから様々な人の人生を知ることになったとあります。10代後半の宮本常一少年は、30代の女性の手紙の代筆などをしていたようなのです。
国民のほとんどが読み書きできるようになるまで、この手紙の代筆や代読というのは特別な意味を持ち、多くの作家を育てたようです。樋口一葉などもそうしたことから、様々な人の境遇を知ったと言います。実に興味深いですね。
今は、他人の手紙を書くことなんてありませんし、そもそも手紙がほとんど書かれません。
手紙を書いたり読んだりしながら、宮本常一青年は、女性たちの人生の一部をその身に取り込んで行ったのでしょう。
ただ、最近、SNSで当時の女性活動家に宮本常一がひどく批判されたという投稿を見かけました。
宮本常一の女性論についてはもう少し、掘り下げて勉強が必要そうです。
全国を歩き回ってフィールドワークをし、家族を顧みなかった男性が、
女性の自由や性を開放的に語るという点に納得できない部分は確かにあります。
その間の家庭は?そして子育ては?、研究されている方がいて、書籍化されることを期待しています。
とはいえ、宮本常一についての興味は尽きないので、著作や関連の書籍を読んでいこうと思います。

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