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Moon Wood Dialy

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その名の通り、月曜日と木曜日に更新される約500文字の雑文。都内に住むある四十代会社員の虚実入り乱れた日常生活の記録。
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2021年11月の記事一覧

笑いと音楽の関係性について

笑いと音楽の関係性について

先日、DVDレコーダーにサカナクション山口一郎さんの番組「シュガー&シュガー」(NHKEテレ 金曜日10:30)が勝手に録画されていた。以前の予約が残っていたのだ。さすがは我が家で2番目に賢いと言われるだけのことはある。ちなみに1番はボタン一つで適温適量の風呂を沸かす通称「風呂姉(ふろねえ)」ことノーリツのマイコン給湯器だ。

笑いと音楽には切っても切れない関係がある。寄席では三味線や太鼓が演芸を

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椎茸を育ててみた話

椎茸を育ててみた話

友人から「椎茸栽培キット」がなかば強引に送りつけられてきた。LINEに「今すぐ栽培を始めろ」との指令。既に寝転がってお笑い番組に興じていた私は急に「お仕事モード」に変わり、箱を開け、袋から原木を取り出して洗い、容器にセットした。本気でやれば15分ほどで出来る。あとは日に1、2回霧吹きで湿らせれば良い。

数日後、芽が出てきた。それはシン・ゴジラの幼体の目玉のようで、原木全体に幾つも飛び出している。

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真夜中の驟雨

真夜中の驟雨

救急車のサイレンで目が覚めた。いつも通る電車の音はもう聞こえない。終電のあと、何時頃だろう。サイレンはゆっくり近づいてきて、やがて止まった。あとは何の物音もしない。

少し経って窓の外から「サーッ」という静かな音がしているのに気がついた。雨が降り始めたようだ。昼間はあんなに晴れていたのに。一雨ごとに寒くなっていく。僕は暖かい布団の中で、ベランダに干しっぱなしのバスタオルのことを考えていた。

タオ

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マウス革命

マウス革命

 「クレバーなビジネスパーソンは左手でマウスを使うのだ!」と、何かの記事を読んで感化された私は、以来五年ほど左手にマウス、右手に筆記具という珍奇なスタイルで仕事をしていた。字を書きながらパソコンを操作できて効率的だと思ったからだ。

 先日パソコンを買い替えるべくヨドバシカメラに出向いた。そこで私は家電量販店員をアニメキャラクター化したような六角精児さん似の販売員上泉氏と出会った。私は氏の助言に従

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【読書兄弟】熱帯:森見登美彦

【読書兄弟】熱帯:森見登美彦

兄:弟よ。兄はまだ「熱帯」にいる。

弟:おう、今度はどうした。

兄:この世界自体「熱帯」なのかもしれない。

弟:さっき洗面所で拾ったネジ、あんたのだったのか。

兄:君は愚かな男だ。「学団」の一員か?

弟:普段からおかしかったが、ここまで人を骨抜きにする森見登美彦さんの「熱帯」とは一体どういう小説なのだろう。

兄:「タイムマシン」で「どこでもドア」を行き来するような話だ。

弟:カオスだ

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【読書兄弟】鉄道王たちの近現代史:小川裕夫

【読書兄弟】鉄道王たちの近現代史:小川裕夫

弟:母さん、泣いてたぜ。

兄:え?

弟:兄さん、進路指導の先生に「俺は海賊王になる」って言ったらしいな。

兄:悪いか。

弟:なれるわけないだろ!

兄:じゃあ、何王になればいいんだよ。

弟:王を目指すな。

兄:そう言うお前もなんとか王の本、読んでるだろ。

弟:小川裕夫さんの「鉄道王たちの近現代史」だろ?

兄:そうそれ。鉄道王ってのは強いのか?

弟:強くないけど、うまくいけば儲かる

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【読書兄弟】盤上の向日葵:柚月裕子

【読書兄弟】盤上の向日葵:柚月裕子

弟:王手飛車取り!

兄:ううっ。必殺、地殻変動!

弟:ズルいぞ!

兄:天災だ。仕方ない。

弟:もしこれが「真剣打ち」だったら大変なことになってるぞ。

兄:何だ「真剣打ち」って?

弟:柚月裕子さんの「盤上の向日葵」を読めば分かるよ。僕は元治と東明の対局がとにかくドキドキしたね。

兄:誰だそれ?

弟:元治は余命僅かな即身仏みたいな爺さん。東明は人でなしだけど将棋だけは滅茶苦茶強いおっさ

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「今夜あんたは世界一うまいココアを飲む」

「今夜あんたは世界一うまいココアを飲む」

小説を読んでいて名セリフに出会うと作者への尊敬の気持ちが湧いてくる。一方、日常生活で出会う名セリフは何気ないものだ。「焦らなくていいよ」とか「君の作る表は分かり易い」とか。言った本人は大抵憶えていない。でも受け取った側は、決して忘れない。

ドラマの名セリフはその中間だ。作者や脚本家が考え抜いた言葉を役者が語る。計算し尽くされているのに自然に聞こえる。そんな名セリフが生まれる瞬間に出会えたら、それ

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遅すぎる自己紹介

遅すぎる自己紹介

一般的にnoteを始める時に自己紹介をするものだと知ってはいたのですが、ずっと先延ばしにしていました。なぜかと言うと続ける自信もなかったし、方向性が分からぬまま見切り発車していたからです。自己紹介で色々ぶち上げて、後で読んで恥ずかしくならないだろうか、誰かに「ははっ、意思薄弱な奴」などと嘲笑されないだろうか、などと逡巡しつつ20本以上投稿してしまいました。それでいまさら自己紹介します。

私は、都

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再燃焼!ファットボーイスリム(2)

再燃焼!ファットボーイスリム(2)

かなり昔だが、日産自動車のテーマ曲のようなものがよくCMで流れていた。斬新なフォルムの車と力強いサウンドが同社の再生を象徴しているかのようで、感動した私は日産が作ったCD(!)「Shift」まで買った。それであの曲がファットボーイスリムの”Right Here,Right Now”だと知ったのである。私はすぐ駅前のタワレコに走りアルバム”You've Come a Long Way, Baby”を

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再燃焼!ファットボーイスリム(1)

再燃焼!ファットボーイスリム(1)

眠れぬ夜、何気なくテレビをつけたら不思議な曲に合わせてスーツ姿の外人が一人踊りまくっていた。場所は古いホテルのようだ。曲が佳境に差し掛かるとその人は室内のバルコニーからいきなり飛び降り、吹き抜けの中を自由に飛び回った。私は暫く呆然とした。これがファットボーイスリムを知るきっかけだった。曲は”Weapon Of Choice”。この映像がスパイク・ジョーンズ監督の名作MVで、外人は俳優クリストファー

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アフターへの準備

アフターへの準備

原さんと同じ部署になって一年半が経つ。彼とは週中ほぼ毎日顔を合わせてきたが、一緒に食事をするのは初めてだった。

原さんは精悍な中年男性でサーファーでもある。しかしマスクを外した彼は意外と可愛らしいおちょぼ口だった。私は思わず笑いそうになったが待てよ、自分もそんな風に思われているのではないか?と気になり、急に口元を引き締めた。不自然であっただろう。

マスク生活が長引き、元々乏しかった口元の緊張感

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