U-NEXTオリジナル書籍

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動画配信サービス「U-NEXT」オリジナル書籍のnoteです。 U-NEXTが手がけるオリジナル書籍の紹介を中心に、本にまつわる様々な話をお伝えします。 https://video.unext.jp/book/originals/book

マガジン

  • 試し読み / U-NEXTオリジナル書籍

    U-NEXTオリジナル書籍に関する「試し読み」を集めました。ぜひお気軽に手にとっていただけるとうれしいです。

  • 渡辺由佳里さん「分断と連帯のスラング」(月1連載)

    俗語、流行語があらわす世相とは? またその背景には何が? アメリカ在住の翻訳者でエッセイストの渡辺由佳里さんが、 2024年のアメリカを"スラング"から描きとります。

  • 高瀬隼子さんエッセイ「こわいものをみた」(月1連載)

    小説家・高瀬隼子さんのエッセイ連載が始まります。 連載タイトルは「こわいものをみた」。 タイトルのとおり、ホラー好きの高瀬さんが日々感じた「こわい」をテーマしたエッセイです。 毎月第4金曜日更新。初回は5月24日です。 (バナーイラスト・デザイン:三好愛さん)

  • 水戸部功さん 連載「装幀苦行」

    『これからの「正義」の話をしよう』のデザインなどで知られる、装幀家・水戸部功さんによる「デザインとは?」「装幀とは?」を考える連載です。

  • 書評 / U-NEXTオリジナル書籍

    U-NEXTオリジナル書籍に関する「書評」を集めました。選者のみなさんがどう物語を読んだのか、さまざまな視点をお楽しみください。

最近の記事

【試し読み】『The Living Dead』ジョージ・A・ロメロ&ダニエル・クラウス著/阿部清美訳 ④

悩ましき何かと何かの〝間〟   紙箱から取り出した青いゴム手袋を手に嵌めると、パチンと音が鳴った。 「くそインターンめ」。ルイスは思い出して、そう口走る。 「文句ばっかりね」と、シャーリーンが言う。 「否定はしないよ」 「否定? 楽しいくせに」 「ああ、楽しいさ」。彼は、「ディーナー、メスを頼む」と指し示す。  鋭利な道具が金属トレイに落ち、聞き慣れたシンバルのような音を立てる。 「アコセラ先生、文句ばかりだと血圧が上がるわよ。不眠症の原因にもなるし。私の医学

    • 【試し読み】『The Living Dead』ジョージ・A・ロメロ&ダニエル・クラウス著/阿部清美訳 ③

      ここがその場所    その飾り額は、かなり長いことルイスのオフィスに掛かっていたのだから、とっくに見るのをやめているべきだった。読み手の不安を煽る人騒がせな政治的投稿を拾い読みして時間を潰す、全く記憶にも残らない退屈なランチタイムが、平然と同じ場所に佇むその存在のせいで、一体何度邪魔されたことか。それには彼もうんざりしていた。飾り額の文言は、ソーシャルメディアで更新されるほとんどのコメントよりも短いが、何せ、ルイスがクリックして忘却の彼方に追いやることができない──ドアの

      • 【試し読み】『The Living Dead』ジョージ・A・ロメロ&ダニエル・クラウス著/阿部清美訳 ②

        灰色の霧   ルイス・アコセラが、カルド・ガジェゴというガリシア風スープの白インゲン豆をスプーンで追いかけているときだった──スペイン料理店「ファビのスパニッシュ・パレス」の表の窓が吹き飛んだのは。サンディエゴの検屍官補ゆえ、ルイスは、ガラスによるあらゆる外傷例に精通していた。車のフロントガラスに用いられている安全ガラスが頰に点々と残す、肉のえぐれた穴や、割れた鏡の大きめの破片で手首を裂く自殺行為の末の、白鳥の姿のようなパックリ開いた傷口のゾッとするような美しさを彼は知って

        • 【試し読み】『The Living Dead』ジョージ・A・ロメロ&ダニエル・クラウス著/阿部清美訳 ①

          でkえるらなわたしの罪wお赦して    9・11同時多発テロが起きる前、二一世紀に入った最初の数ヶ月間で、コンピューター設備のない僻地の前哨基地を除き、米国内の病院、高齢者介護施設、警察署は、生命に関する統計データ収集(Vital Statistics Data Collection:略称、VSDC)ネットワークへの参加が義務づけられた。このインターネット上のシステムは、系統解析および多次元データベースの米国モデル(American Model of Lineage an

        【試し読み】『The Living Dead』ジョージ・A・ロメロ&ダニエル・クラウス著/阿部清美訳 ④

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        • 試し読み / U-NEXTオリジナル書籍
          54本
        • 渡辺由佳里さん「分断と連帯のスラング」(月1連載)
          1本
        • 高瀬隼子さんエッセイ「こわいものをみた」(月1連載)
          4本
        • 水戸部功さん 連載「装幀苦行」
          2本
        • 書評 / U-NEXTオリジナル書籍
          25本
        • 著者インタビュー / U-NEXTオリジナル書籍
          8本

        記事

          分断と連帯のスラング(1)Childless Cat Ladies

          フォーチュン500(全米上位500社)の中堅管理職だったアメリカ人の夫の異動と妊娠を機に32歳で会社勤めをやめた私は、「我々はチームである」という夫の言葉を信じて何十年も子育てと伴侶のサポートの仕事をクソ真面目にやってきた。かなり優秀なチームメンバーだったと自負しているのだが、この仕事に給料はないし、昇進もない。そこで自宅でもできる翻訳や文筆業を始めた。収入の足しにはほとんどならないが、第三者に対して「可視化」できる仕事をしないと自分を失ってしまいそうな危機感を覚えたからだ。

          分断と連帯のスラング(1)Childless Cat Ladies

          【第1話まるっと全文公開】小泉今日子さん小林聡美さんW主演ドラマ『団地のふたり』の続編『また団地のふたり』

          第一話 バターをやめた(い)日  1  5のつく日は、駅前の喫茶店〈まつ〉のホットケーキが安い。  プレーンの二枚重ねが、二〇〇円で食べられる。  一時は、その日にホットケーキを食べると、次回以降に使える割引券をもらえるシステムに変わったのだけれど、最近、また以前のように、当日食べるホットケーキが安くなった。  もちろん、利用客としては、そっちのほうが断然いい。 「行くよね、それは」 「行くよ」  誘い合わせて食べに行った帰り、桜井奈津子が友人の太田野枝と笑いながら団地内

          【第1話まるっと全文公開】小泉今日子さん小林聡美さんW主演ドラマ『団地のふたり』の続編『また団地のふたり』

          【試し読み】寺地はるなさんの連作シリーズ最終話『万事よろしく』

          ■著者紹介■あらすじ■本文谷川啓の手紙  自宅の鍵を送ります。電話で話したとおり、こちらはなにも心配いりません。あとは万事よろしく。 勝山克子の話  ね、ちょっとあなた。あなた、ほらーあの、あの人じゃない? 見たことある! テレビで見たことあるのよ、ああもう、喉のこのあたりまで出かかってんだけど、名前。タレントでしょう、あなた……違う? あ、わかった。ルミさま。なんとか院ルミさまだ。あ、ルイ? あー、匙小路ルイさま。そうかそうか、ごめんね、あたし人の名前おぼえるの苦手で

          【試し読み】寺地はるなさんの連作シリーズ最終話『万事よろしく』

          「こわいものをみた」4 座右の銘がこわい(高瀬隼子)

           時々座右の銘を聞かれるが、そんなものはない。ふつう、持っているものなのだろうか? 座右の銘を? みんないつ決めているんだろう?  新卒で就職した時、社内報の「新入社員紹介コーナー」をつくるというので、出身地、趣味、休日の過ごし方、そして座右の銘を答えるよう求められた。二十二歳当時のわたしに、心に留め置きいつも意識しているような言葉はなかったけれど、誌面を埋めるためになにか書かねばならない。それは人事担当者へ提出し、社内報を通して、直属の上司や先輩社員だけでなく、社内全体の関

          「こわいものをみた」4 座右の銘がこわい(高瀬隼子)

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開5

          第3章 2023年12月 真冬の蟬  白木で組まれた祭壇は、父にはもったいないほどの豪華な造りをしていた。高さは二メートル以上はありそうで、横幅も大人二人が簡単に横になれる長さだ。最上部の段には寺の本堂を模した物体が鎮座し、所々に牡丹の花や千切れ雲の透かし彫りが施されている。遺影の周囲には色鮮やかな生花が添えられ、そのすぐ側では同じ白木製の提灯が神々しい光を放っていた。  棺の前には焼香台が置かれ、細い蠟燭に灯る火が微かに揺れている。短い棒で叩くと澄んだ音が鳴る仏具は、なん

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開5

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開4

          ♯2 2012年 夏  再び星河ハウスに向かうことになったのは、一人と一頭の散歩に同行してから二ヶ月ほど経った週末だった。あの頃は夜風が冷たかったが、季節は確実に移り変わっている。自室の隅に置かれたテレビは、現在の気温が三十五度を超していることを教えていた。午前中からクーラーが起動しなくなった六畳間は、蒸し風呂のような熱気に満たされている。突然の災難を呪いながら、首筋を手で仰ぐ。毎年夏になると、高齢者が室内で熱中症になるというニュースを見掛けるが、今は人ごととは思えなかった

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開4

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開3

          第2章 2023年8月 水のないプール  隣のベッドから聞こえた音で、鈴木小夏は目を覚ました。何の音かはわからないが、頰を軽く打つような響きだった。すぐに、再びの静寂が訪れる。  枕元に顔を向けると、ベッドネームに印字された自分の名前が薄闇に霞んでいた。床頭台の上で充電していたスマホに手を伸ばし、寝起きのぼんやりした頭で時刻を確認する。まだ、朝の六時だ。溜息が出そうになるのをグッと堪え、病床を囲むグリーンのカーテンに目を向けた。病室の明かりが一斉に点灯するのは、午前七時。朝

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開3

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開2

          ♯1 2012年 春  自宅アパート前には、桜の花弁が散り落ちていた。緩い風が吹くと、小さな薄紅が足元の側を転がっていく。遥は自然と、隣家の庭先で枝を伸ばすソメイヨシノを見上げた。この調子なら、二週間後には葉桜に変わってしまいそうだ。妙な感傷を抱いてしまうのは、入職式に対する不安や緊張が強いせいだろうか。今年は満開の桜より、リクルートスーツの窮屈さが新しい季節の到来を実感させた。  歩き出そうとしたタイミングで、ジャケットのポケットから振動を感じた。スマホを取り出すと、画面

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開2

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開1

          第1章 2023年5月 白い生き物  卵を割ると、器の中に小さな殻が交じった。浩は指先で白い欠片を摘み上げ、三角コーナーに放り投げた。初めて作った目玉焼きにも、殻が入っていた。奥歯がジャリッとする不快な感触が、口の中で蘇る。  昨日見たYouTubeの料理動画では、卵焼きの隠し味に市販の白出汁を加えていた。足元の戸棚を開け、並ぶ調味料に目を凝らす。二ヶ月前までは綺麗に整頓されていたが、今は乱雑に並んでいる。溢れた塩や砂糖が戸棚の底に散らばり、醤油差しは触れなくともベト付いて

          《動物介在療法の小説》 前川ほまれ『臨床のスピカ』無料公開1

          「こわいものをみた」3 殴りたいのがこわい(高瀬隼子)

           子どもの頃、少林寺拳法を習っていた。習い始めたきっかけはいくつかある。近所の友だちが先に通っていたこと。当時習っていたピアノ教室(嫌いだった)をやめる口実が欲しかったこと。放課後の体育館で練習するというのが、なんとなくかっこよく思えたこと。そしてなにより、人を殴ったり蹴ったりしてみたかった。  少林寺拳法は道場があるわけではなく、地域のスポーツクラブ活動のひとつで、練習は週に二回、通っていた小学校の体育館で行われていた。先生は五十歳くらいの男の人だった。生徒は四十人くらいい

          「こわいものをみた」3 殴りたいのがこわい(高瀬隼子)

          「こわいものをみた」2 好きがこわい(高瀬隼子)

           こわいものが好きだ。もういろいろ無理しんどいストレスフル……と爆発しそうな日は、書店に行って角川ホラー文庫の真っ黒な背表紙を眺め、ぐっときたタイトルの本を買って帰り、風呂に入りながらそれを読む。湯舟の蓋を半分閉めて、その上に水とホラー小説と、調子がいい時は酒も並べる。風呂ホラー小説には日本酒があう。  汗をだらだらかき、湯から出たり入ったりを繰り返して数時間かけて本を読む。うちのマンションの風呂場には窓がないせいか、朝でも昼でもどことなく夜の感触がする。家の中で一番静かな場

          「こわいものをみた」2 好きがこわい(高瀬隼子)

          【試し読み】井上荒野さん 『小説みたいなことは起こらない』

          ■あらすじ ■本文  羽多野健太  茉莉子さんが雪の写真を撮っている。  昨日から降り続いている雪はすでに五十センチ以上積もっていて、今朝は吹雪いてもいるので、窓からの眺めは白一色だ。何を撮ったのかわからない写真になりそうだ。そもそも、茉莉子さんは写真を撮ってどうするつもりなのだろう―見せる相手は僕しかいないのに。  僕は自分のカップに、コーヒーサーバーに残っているコーヒーを注ぎ足す。カップの三分の一ほどしかない。これを飲み干し、テーブルの上のものを片付けたら、朝食は終

          【試し読み】井上荒野さん 『小説みたいなことは起こらない』