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書店訪問記①高久書店「やれることは全部やる」

こんにちは、U-NEXTです。
オリジナル書籍という部門で、小説の出版をしています。
いまだ「え、どちら様?」と聞き返される方が多いですが、コロナ禍真っ最中の2020年8月に刊行をはじめてから今年で3年目になります。
加賀恭一郎のようにはいかぬ出版業界の新参者。良い本を作るために、良く販売するために、本屋さんの「今」が知りたい。
そうだ、本屋へ行こう。旅行をがてら休日に、普段は足を延ばせない本屋さんにお話を伺いに行ってきました。

今回訪れたのは、静岡県掛川市の高久書店さん。店主の高木さんは20年以上戸田書店に勤めた大ベテランであり、「走る本屋さん」として車で移動販売を行うことでも有名な、静岡の名物書店員さんです。
独立され2020年2月、掛川駅すぐ近くに10坪ほどのお店をオープン。
開店から三年が過ぎた今のお話を伺ってきました。


一階店内

こだま新幹線で東京から約一時間半。静岡駅からは在来線で45分の掛川駅で下車し、掛川城方面に五分ほど歩くと、青い外壁が目印の高久書店さんへ到着です。
土曜日の午前11時。信号を渡ってお店へ向かおうとすると、ちょうど母娘と思しき二人組のお客さんが入店されました。お邪魔にならないよう少し時間を空けよう。お店を通り過ぎ目の前の掛川城をぼーっと眺め、河川敷を歩き、いざ今度こそ「こんにちはー」と扉を開けると、先ほどのお客さんが買い物や高木さんとの会話を楽しそうにされている真っ最中でした。

道向かいから

黙って選び買ったらすぐ出る買い方が多い普段の生活とは明らかに違うリズム。事前に伺う旨お電話していたので、「ああU-NEXTさん」という高木さんに会釈して、先に店内をぐるりと拝見させていただきました。
まず目に飛び込むのが入口右手の学参コーナー。時期柄赤本も並びだし、共通テストの過去問題集や教科ごとの参考書がずらりと展開されています。もう少し目線を下げるとコミックスの最新刊。「呪術廻戦」に「ONE PIECE」、「暁のヨナ」と話題作がぎっしり。
文庫文芸コーナーを抜け反対側にはビジネス書、宗教・哲学・歴史書の棚があり、その向かいには生活関連書籍。
壁沿いの絵本・児童書コーナーを抜けると、ジャンル関係なしの10代に読んでほしい本コーナーがありました。

記憶の店内図

二階自習スペース

「遠慮なく見ていってくださいね」
お言葉に甘えて、ちょうど利用者のいなかった二階の自習スペースを拝見します。
古民家を改装したという店内、大人が立つと頭がぶつかるかも、という高さの二階は4名までという制限を設け、エアコン完備で勉強がはかどりそうな、本を持って小一時間没頭できそうな居心地のいいスペースでした。
高久書店さんからさらに二分進むと、地元の進学校掛川西高等学校もあるこの立地。学校帰りに自習して、ときどきこっそり本を読めたら……。
この日何度も思いましたが、高久書店のある街に住みたかった……。

二階自習スペース


お客さんと書店がつなぎ合う

一階に降りると、ちょうど入店時かちあった母娘客がレジで会計中。もともとのお知り合いのようで、会話も楽しそうです。
「お話を聞かせてください」という不躾なメールを送った時、接客しながらでよければぜひいらしてくださいと快諾くださった高木さん。
お仕事の合間にお話を伺います。
「お客さんにも言ってるんです、たくさん話していってください、レジを打ったり手元を動かしながらになりますけどって」
本当にその通りで、話の合間に高木さんは届いた郵便を開け、入荷連絡の電話をかけます。「邪魔をして悪いな」という気持ちにもならず、「待たせやがって」という気持ちにもならない、まるで古くからの友人とお茶をしているような空気が店全体にありました。
しばらくすると、また別のお客さんが。これまた常連さんというラジオパーソナリティを勤める元SBSアナウンサーの伊藤圭介さんがやってきました。
なんと先ほどのお客さんと伊藤さんもお互いお知り合いで、あれやこれやとラジオ番組の企画の話や本の話をしている中、「そういえば今日はU-NEXTさんが来ているんですよ」と話の輪に入れていただくこともあり。
ああ、こんな風に本屋さんを通じて人の縁がつながったんだなと体感します。

開店からもうすぐ四年

オープンから現在まで、実際にお店を続ける中でどんな変化がありましたか?そう聞くと、商品の配分について教えてくれました。
「最初は働いていたチェーン店のような、300坪規模の書店をそのまま10坪にしたような間取りだったんです」
資格書やパソコン関連書など、大型店のような商品も並べていたという当初。しかしほとんど動かず、代わりに需要があったビジネス書や哲学書が徐々に売り場に増えたそう。
ちなみに間取り図を書くにあたって、こっそりカンニングしようと二年ほど前の店内写真を拝見したところ、配置が全く異なっていました。
お客さんとの会話が途切れない店ならではの臨機応変さとスピード感。
客注品で知って、入荷しようと発見する本もたくさんあるそうです。

「東京のような大都市圏で店を開くなら、文芸や哲学などの専門書店にしたと思う。でも掛川で店を開くなら、老若男女問わず訪れる店にしないと。そう考えたら小さくても総合書店しかなかった」
300坪の総合書店とは違いますが、店内をまわると10坪の宇宙に広がる多彩な本との出会い。今の年齢は勿論、10代のころの自分でも、これから年を重ねても欲しくなる本がある品揃えでした。

見計い配本なし、すべて注文で勝負

ランキングを上から引っ張ってくる陳列とは明らかに異なる品揃え。その秘密は、取次会社の見計らい配本を一切無くしていることにありました。
かつて全国に書店が二万店以上あった時代、効率よくあらゆる書籍を全国津々浦々に届けるため、取次会社が設けた書店区分に応じて、出版社の本を全国に配本するのが見計らい配本システムです。
残念ながら近年は書店数の減少に読書人口減、物流費高騰と様々な要因でこのシステムは限界が叫ばれています。
高久書店ではいち早く取りやめ、その代わりに毎日一か月後に発売される商品を一点一点確認し「これは」とおもった本だけを発注するそうです。
長年の経験で取次に注文するか、直接出版社に指定するかを判断し、減数されることはあっても「入ってこない」という経験はないという高木さん。今では月の書籍の返品量も段ボールふた箱程度と、安定した入荷・返品コントロールができ健全な経営だそうです。

図書カードの意外な使い道

大型店時代と変わったことの一つが、定期注文や配達品の売上比率だという高木さん。現在、高久書店さんの売上の4割はなんと定期が支えています。
朝10時の開店前一時間を配達に当てているそうで、「配達なんていまどき売上になるのかって思うでしょう?」といたずらっぽく問いかけてきます。時間もかかるし管理も手間だし売上金の回収が面倒だし...と「はい」と答えると、「全然、そんなことはないんですよ」とある道具をおしえてくれました。
それは、お馴染みの図書カード。
身体が動いて来れる人はお越しください、来れなくなったら届けます。というスタンスの高木書店さんでは、免許を返納したり障害があったりと来店が難しいお客さんのために配達をしています。その際、注文者はまず図書カードを購入。高木さんはカードを預かり、注文品を配達するときにお店で決済、レシートを添えて本をお客さんのポストに投函。毎度お財布を取り出す必要もなく、不在でも問題なし。会計はレシートに残額も表示されるため常に明朗会計と予想した手間のほとんどが解決されていました。
配達希望のお客さんひとりにつき一冊、手のひらサイズのノートで記帳管理。十冊以上のノートは、知恵と経験と信頼の証でした。


やれることは、なんでもやる

本の伝道師として休みなく活動される高木さん。街の古き良き本屋さんという姿でありながら、内部では常に情報を仕入れ、新しいツールや発想を試し続けていました。
X(旧twitter)で静岡県内書店No.1のフォロワー数を持つだけあり、その他のSNSも含めあらゆるツールから注文が届くそう。顔がわかる範囲であれば受注するそうで、朝一番はメールやSNSのチェックから始まります。
また、メインで扱う取次とは別に、客注品には速度を最優先し、別の窓口を使うことでおよそ注文から1~2営業日内の入荷を可能にしています。
Amazonに負けていません。
「ECサイトの方が早いに決まっているといって思考停止せず、何ができるか考えないと」
有言実行、まさにその通りでした。

今、100坪のお店をまかされたら

10坪という大きさの個人書店の最適解を作ってきた高木さん。もし今二店舗目として100坪規模のお店を経営してほしいと言われたらどうするか、聞いてみました。
「難しいですね...…。書店のない街をなくしたいという思いは常にあるから、店舗を増やすことは考えている。でも、いざもっと大きな店舗をやれと言われたら、経験はあるしできると思うけれど、昔とは違うし今とも違うやり方が必要になるでしょう」

おわりに

書店の今が知りたい。そう思って伺った高久書店さんは、想像以上に面白く、ワクワクが詰まったお店でした。
立地、経験、人柄、知恵。
全国一律同じ金額の商材だからこそ、どんなお店にするか工夫が光ります。
本の聖人のような高木さんは、非常にロジカルなビジネスマンでもあり、地域の見守り役でもありました。

「良い本を作ってください」
「あとはそれをどう伝えるか考えてください」
帰り際いただいた言葉が身に沁みます。

おまけ

高久書店さんから徒歩2分の距離に、今年1月の第72期王将戦第1局で午前のおやつになった火の羊羹で有名な伊藤菓子舗さんがあります。


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