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コトバノクズカゴ

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コトバノクズカゴ――校正校閲の現場から /名コラム「ことばのくずかご」に寄せて。言葉の今、を拾い集めてみました。/校正の仕事をしながら、本や新聞を読みながら、電車の中の会話を聞き…
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#日本語

13. オオノさん、オオタニさん、ローマ字でどう綴っていますか?

 文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」。令和2年度の結果が発表され、さっそくメディアも取り上げています。とくにコロナの影響を調べた項目が注目されているようですが、今回気になったのは「ローマ字表記に関する意識」の項目です。

 ローマ字は小学校で長音には長音記号を付けると習いました。例えば「オー」は「ō」と書き表します。でも実際には長音記号なしの表記も見かけます。「東京」「大阪」「京都」は

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12. ひらがな名前は不自由? 日本語の名前を中国語の文脈に置くとき

 4月からNHKラジオで「まいにち中国語」を聴いています。
 開始早々、発音で振り落とされそうになりながら、どうやら半年の講座を完走できそうです。

 そのダイアログのひとつで日本人の鈴木さんの名前が漢字で中国語読みされており、中国では日本人の名前は漢字の中国語読みなのか、では自分の名前を中国語読みしたらどうなるのか調べようとしました。

 ところが私の名前にはひらがなが混じっています。音が近い簡

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6.としまえんの回転木馬は「メリーゴーランド」?  遊園地で迷子になった「ウ」

 高い所が苦手なので、遊園地ではジェットコースターや観覧車は通り過ぎ、もっぱらコーヒーカップやお化け屋敷を楽しんでいます。

 回転木馬に初めて乗ったのはとしまえん。華やかな色彩と装飾、一頭一頭の姿が異なる木馬に驚いたことを覚えています。

 その回転木馬が100年以上前にドイツで作られ、アメリカを経て日本にやってきたと知ったのは、閉園後の新聞記事でした。
 そしてさらにその記事で注目したのは、回

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1.私たちはなぜ、「障がい」と書くのか(1) 「障碍」ではなく「障がい」が広まった

 最近は公的な機関が出す文書にも、身体や精神のショウガイを「障害」と漢字二文字ではなく、「障がい」と漢字と平仮名で書かれたものを見かけるようになりました。
 「障がい」が使われ出した時期は、はっきり記憶していません。気がついたら「障害」の「害」は他に害を及ぼすという意味があり差別を助長するので「障碍」を使うべき、といった主張をメディアで見かけるようになっていました。

 もしその意見に同意する人が

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1.私たちはなぜ、「障がい」と書くのか(2) 「碍」を常用漢字表に入れるべきか

 文化庁には、常用漢字表に「碍」を入れるように要望が届いているそうです。
 漢字という文字は無数にあり、新たにいくらでも作ることが可能です。
 しかし皆が自分の好きなように漢字を使ったら、たとえば、市の広報紙の漢字の使い方がバラバラだったら、大事なお知らせがちゃんと伝わらないかもしれません。そのため情報伝達やコミュニケーションが円滑に行われるよう、日常的に使う漢字の目安を定めたのが常用漢字表です。

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1.私たちはなぜ、「障がい」と書くのか(3)校正の現場ではどう対応するか

 表記統一や校正は、クライアントからの指示通りに行うのが原則です。ただ、企画趣旨に沿って、こうしたらもっとよくなる、という提案をすることはあります。
 たとえば、著者が「障碍」にこだわって使っており、編集者から「障碍」で統一するという指示があればその通りにします。しかし校正の依頼があるのは、そもそも多くの人に読んでほしい、理解してほしいからなので、初出にはルビを振ってはどうでしょうか、といった提案

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1.私たちはなぜ、「障がい」と書くのか(4)「障がい」はどこに向かうのか

 前述の宝塚市では、「障碍」には振り仮名を振ることになっています。一般市民には読みにくいという判断が働いているからでしょう。ですからこの先、自治体など公的機関が「障碍」を使うようになっても、とりあえずしばらくは「障がい」が広く使い続けられると思います。

 この「ショウガイ」問題は、文字表記の問題として扱われています。しかし言葉は読み、書くだけではありません。話し、聞くものでもあるのです。
 たと

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2.「づつ」は「ずつ」に直しますか?

 気になり始めたのは10年近く前だったでしょうか。届いたメールやネットのブログに「一個づつ」「一人づつ」と、「ずつ」ではなく「づつ」を見かけるようになりました。

 最初は「D」と「Z」の入力ミスかな? ぐらいに思っていました。手書きなら「ずつ」と「づつ」は間違えっこない。みんながローマ字入力するようになったせいかもしれない。きっと一時的な現象だろうと想像していました。

 ところがそのうちに印刷

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3.「行なう」の「な」はムダなのか

 少し前まで「行なう」、と「な」が送られているのは自分より上の世代の文章に多い印象がありました。最近になって、ネットのコンテンツをはじめ紙媒体でも若い人が「な」を送っているのを目にすることが増えたように感じます。

 校正の仕事では、この「な」は、何も指示がなければ削除されます。ただ署名原稿で、一貫して「な」が送られていると、そのままにすることが多いです。

 では「な」は、余計なのでしょうか、そ

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