12. ひらがな名前は不自由? 日本語の名前を中国語の文脈に置くとき

 4月からNHKラジオで「まいにち中国語」を聴いています。
 開始早々、発音で振り落とされそうになりながら、どうやら半年の講座を完走できそうです。

 そのダイアログのひとつで日本人の鈴木さんの名前が漢字で中国語読みされており、中国では日本人の名前は漢字の中国語読みなのか、では自分の名前を中国語読みしたらどうなるのか調べようとしました。

 ところが私の名前にはひらがなが混じっています。音が近い簡体字を当てようと辞書を引いてみましたが、漢字はそもそも意味を持っているので、音だけではへんてこな名前になってしまいます。
 ではひらがなを同じ読みの日本語の漢字に直してから中国語読みすればよさそうです。実際、郵便物などでよく間違って当てられる漢字があります。でも名付け親はその漢字と置き換えられるような意味はこめていません。たんに呼びやすく読みやすいからひらがなにした、と聞いています。だから単純に漢字を当てていいものか、ちょっと考えました。

 ひらがなはもともと万葉仮名、つまり漢字です。万葉仮名に戻すのはどうかなと思いました。しかし、日本語を表記するために近い音の漢字を当てたのに、その漢字、つまり万葉仮名をまたわざわざ中国語読みに戻すというのはずいぶんややこしいことです。やっぱりここは名付け親には目をつむってもらい、好きな漢字を当てはめて、中国名を作ってしまおう。そう考えると中国語の勉強も楽しくなりそうです。

 日本語で中国の人の名前を表すには、新聞などではいきなりカタカナにはしません。漢字を使い、カタカナかひらがなでルビを振っています。ただそのルビは、「習近平」は「しゅうきんぺい」と以前は漢字の日本語読みだったものが、最近は「シー・ジンピン」と中国語の音を反映するようになっています。

 先日報道番組を見ていたら「鄧小平」は「トン・シャオピン」ではなく「とうしょうへい」とそのキャスターは発話していました。鄧小平氏の名前が頻繁にメディアに出るのは1980年代から90年代にかけてのことです。その頃はまだ中国名は漢字の日本語読みだったため今でも「とうしょうへい」で定着しているということなのでしょう。ただこれがこれから刊行する書籍などであったら、いずれのルビを振るか、あるいはルビなしで行くか、表記の統一上、ちょっと迷うところです。

 ところで英語圏の人名は中国語ではどうしているのか、NHK WORLD のサイトで調べてみると、バイデン(Biden)米大統領は「拜登」と音が近い漢字を当てています。また日本の菅首相には中国語の簡体字を当て、中国語読みをしていました。

 この頃は外国にルーツを持つ人のカタカナ名前を見かける機会が増えたように思います。自分だけひらがな名前で漢字文化圏から仲間外れにされた気分でしたが、自分の名前を中国語にしたらどうなる?と悩む仲間はほかにもたくさんいそうです。

 ひらがなとカタカナは漢字文化圏のなかで日本語を特徴づける文字です。漢字の名前だったらすぐに中国語に変換でき漢字文化圏を自由に自分の名前で歩き回れます。でも簡単に漢字変換できない自分のひらがな名前を見つめると、私は日本語で生き日本語を生きているのだなあとコトバの歴史のみならず、漢字を使う国々との歴史にも思いが及びます。

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