春原 紬

すのはら つむぎ 頭の中に浮かんだ物語やエッセイを好きな時に好きなだけ

春原 紬

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最近の記事

後架

私はいつからここにいるんだろう。 自分が誰なのか、どうしてここに居るのか、何のためにいるのか、何一つ覚えていることがない。 だからといってここから離れる気分にもならないので、時間が過ぎていくのをじっと耐えている。 “ここ”には薄汚れた鏡がひとつある。 そこにうつる「私」の顔は、いつもどんより重苦しい。 一重でガサガサした肌に、丸く潰れた鼻が目立つ。唯一褒める点をあげるとしたらサラサラの黒髪だろうか。 ここにいると、たまに人が訪ねてくる。 彼らは決まって3回ノックをす

    • 僕の秘密を知ってほしい

      幽霊は存在するのか? この問いに正確に答えられる人間は少ないだろう。 僕にも”普通の”幽霊は見えない。 ただ、一体だけ、例外がいる。 その男は小学生の頃、突如として僕の前に現れた。 ヒョロっと高身長だが背は曲がっていて異常に青白い肌。乾燥してパサパサになった唇はいつも半開きで、溶けおちそうな目はどろんと虚ろで何も映さない。 初めて見た時はパニックに陥って泣きながら友人や家族に助けを求めたが、理解してくれる人は1人もおらず、自然とその男について口を閉ざすようになった。

      • 「花一匁」

        幼少期、数日に一度みる夢があった。 その場面はいつも、リビングの端に立つ電子ピアノを見つめているところから始まった。顔は固定されたように動かせない。 「なんだろう」と思っていると電子ピアノがぶるぶると震え出し、真ん中に大きな”穴”があく。真っ黒な電子ピアノよりも濃い漆黒が広がり、穴から漏れ出した冷たい空気が頬を撫でる。 奥から尖った爪がニョキっと顔を出し、魔女のような手がゆっくりゆっくり現れる。 あまりの異様な光景に身体は凍りつき、私は逃げ出せない。 穴から肘のあた

        • ユメクイゲーム

          「ねぇ!今日はどんなユメをみた?」 教室へ入るやいなや興奮気味にクラスメイトの花純が話しかけてきた。朝から互いのユメの話を教えあう光景も、もう見慣れたものだ。 2年前から流行りだした『ユメクイゲーム』 ある有名なゲームクリエイターが、「私たちが作らずとも身近なところで日々創造世界は生み出されている!」と言葉を残して開発した。 やり方は簡単、頭に機械を装着して眠るだけ。朝起きたらその日のユメが手のひらサイズになって現れる。色や形はその時々で異なり、それを人にあげると貰っ

          テレビの向こうにあった世界

          雪が降る地域へ越してきて初めての冬が来た。 朝目が覚めて、窓の外が本当に銀世界になっていた時のちょっとした衝撃は忘れられない。窓に張り付いて「ニュースで見た世界や…」と目を見開く私はきっと小学生のような顔をしていただろう。 今日も雪で世界は白く冷たくなっていたが、どうしても銀行の窓口に行かなければならなかった。 これまでの人生で数えるほどしか乗ったことのない「バス」に乗るべく、最寄りのバス停へと向かう。 雪はふわふわと落ちてくるのに、傘に当たる音は雨とあまり変わらない

          テレビの向こうにあった世界

          ガラスケースに入った空想

          暗闇の中で目を開けても、目の前は藍色に包まれていて何も見えない。 自分の瞼が閉じているのか開いているのかさえわからなくなる。一体私はどこに居るのだろうか。 心と身体の時間がゆっくりとペースを落とす。 夜になると眠れないけれど、ぼーっとする時間は嫌いじゃない。 孤独は人を寂しくさせる。でもその寂しさが自分への愛おしさに変わっていく。 人の可能性は無限大だ。 自分の見たい物を見られる。 心を宙に浮かせ、想像力の蓋を開けたら、真っ暗な闇だってパチパチと音を立てて鮮やか

          ガラスケースに入った空想

          毎日にどんな「意味」を見つけるか

          生きる意味はどこにあるのか 何がしたいのかわからない。だけど「何者か」にはなりたい。 そんな想いがずっと自分の中で燻っていた。 ルールの中で正しく生きる努力はしたけれど、『自分は何が好きで何が嫌いだろう』と考えてもハッキリと答えが出ないのだ。 そこで先日、なんとなしに読み始めた泉谷閑示さんの『仕事なんか生きがいにするな』という著書が道を示してくれたように思うので、自分なりに咀嚼していく。 ◇◇◇◇ 現代に生きる私たちは、何かを始める時にまず役に立つかどうかを考える癖

          毎日にどんな「意味」を見つけるか

          💠恋の賞味期限

          ゆるやかに秋が訪れたかと思えば、あっという間に冬に染まってしまった。 鼻をツンと突く洗練された冷たい空気に、自分の住む街が山にうつされたんじゃないかと錯覚する。 今日は高校から社会人6年目の今までずっと付き合いのある恵子とカフェで待ち合わせをしている。先に到着した私は冷えた身体を温めるためにホットコーヒーを頼んだ。 店内はジャズの落ち着いたBGMが流れ、大学生カップルから社会人までそれぞれが思い思いの時間を過ごしている。 ◇◇◇ 待ち合わせの時間に10分ほど遅れて恵

          💠恋の賞味期限

          💠捨てられたくなかったから、捨てた

          1週間前、浮気がバレた僕のもとへ今日、彼女が別れを告げにやってくる。 社内で出会って交際に発展し、もう一年と半年くらいかな。 彼女の見た目は決して目立つタイプではないのに、なぜかいつも1番に目に飛び込んできた彼女。なんとなく目で追っているうちに好きになって、告白した。 いや、もしかしたら初めて見た時から好きだったのかもしれない。 付き合ってから彼女はよく口を膨らませて「浮気は許せない」と言っていたっけな。 そのたびに、そんな可愛い心配をしなくても僕にとって女の子は君だ

          💠捨てられたくなかったから、捨てた

          不安の淵に佇む過去の自分

          日常において「今〇〇してはいけない」または「〇〇しなければならない」スイッチが入ってしまって困ることが度々ある。 「〇〇してはいけない」スイッチは、例えば電車の中。トイレを催してはいけない。気分が悪くなってはいけない(吐いてはいけない)。これらの事がチラッと頭の隅を駆け抜けるとたちまち動悸がして体調が悪くなっていく。今自分は閉じ込められた空間の中にいるのだという事実を強く意識し、呼吸さえも不安定になっていく。 「〇〇しなければならない」スイッチは、例えば夜。 眠らなければ

          不安の淵に佇む過去の自分

          💠ただ、捨てられないだけ

          1週間前、彼が浮気していたことを知ってしまった私は今日、彼に会いにいく。 社内で出会って交際に発展し、もう1年と5ヶ月が経つ。 2歳年上の彼はいつだって私を甘やかしてくれて、家に来た時はご飯を作ってくれるし何処へでも連れていってくれる。 世界に女の子は私しかいないかのような振る舞いをみせる彼に女の影なんて感じられなかった。 だけどここ最近、何ってハッキリとなにかがあったわけじゃないけど「ん?」と思うことが増えた。 お風呂場までスマホ持っていってたっけ?とか、 スマホ

          💠ただ、捨てられないだけ

          💠あの娘になれたら…。

          最近、同じ男の子がいつも夢に現れます。 身長が高くてスラっとしているのに程よく筋肉があって、くしゃっと笑った時に見える小さな八重歯が印象的です。キリッと真っ黒な瞳に太陽が差し込むと結晶のようにキラキラ光ります。 夢の中での私はその子と付き合っていて、デートの待ち合わせをしたり2人で美味しいご飯を食べたりと、とっても幸せな時間です。 夢から醒めるとまだ彼の体温が残っているような気がしますが、実際は自分の体温でぽかぽかになったお布団の温もりです。 同じ夢をみたくてほんのち

          💠あの娘になれたら…。

          『むしろ、考える家事』 面倒をどうするか

          山崎ナオコーラさんの『むしろ、考える家事』というエッセイ本を読んだ。 どうしても家事は「面倒なもの」だと思ってしまう。 山崎さんも家事をする時はなるべく心を無にして、”時短”を目指して家電を揃えたそうだ。 しかし、家事をネガティブなものだと決めつけるのではなく、ポジティブに捉えて成長につなげたっていいんじゃないかと思うようになったらしく、様々な家事で工夫をしているという内容だった。 確かに家事をしている時間は孤独だし、同じことの繰り返しなだけに何かを得たり生み出してい

          『むしろ、考える家事』 面倒をどうするか

          ”顔”と”名前”が覚えられない

          子供の頃から人の顔と名前がてんで覚えられない。 クラスメイトはもちろん、毎朝待ち合わせをして一緒に登校している友人の名前ですら突然忘れてしまう。 いつも通り隣を歩いている時に名前を呼ぼうとして「あれ?この子の名前ってなんだっけ?」となるし、2日も休めば顔も思い出せなくなる。 決してわざとじゃない。 だから授業のワークで、相手の名前をセットで書かなければいけない時はいつも困っていた。とりあえずぐちゃぐちゃっとそれっぽい文字を書いて後から訂正する。あのときの冷や汗をかく感

          ”顔”と”名前”が覚えられない

          💠ほんとうは綺麗じゃないの

          恋愛は所詮ゲームと同じだった。 私のことなんてタイプじゃなさそうな男が、だんだん私のことを意識しはじめて必死に心を繋ぎ止めようとしてくるのが楽しかった。 私は求められてる。 潤んだ瞳で男の目をじっと見つめて、か弱くていい子のふりをする。 最初に好きになるのは絶対に相手。 「私のことを好きな男」が好きだったの。だって当然でしょう?私のことが好きだから守ってくれるし甘やかしてくれるし可愛いと囁いてくれるんだもの。 私のことを好きじゃない男なんていらない。 『告白』さ

          💠ほんとうは綺麗じゃないの

          実家のトイレにいるお友達

          実家のトイレ扉といえば、木目調になっているお宅が多いのではないだろうか。 かくいう私の実家も、薄い茶色の扉に木目の模様が並々と描かれている。 『実家のトイレにいるお友達』というタイトルをみて、お?心霊系の話か?とワクワクして覗きにきてくれた方には申し訳ないが、私の友達はオバケではない。 木目に浮き上がる顔(のようなもの)である。 トイレの扉に限らず、保健室の天井や学校の机などにも顔を見つけることはあるが、途方のない時間を過ごした実家のトイレがやはり1番愛着を感じるもの

          実家のトイレにいるお友達